要塞の勇者 アラン・フォーネルト
(クソ、一体どうすればいいんだよ!)
シュルムに反論する暇もなく、アランは戦場のど真ん中に転移された。
当然、魔族たちは突然現れたアランに猛攻を仕掛けるが、防御力が桁外れのアランには傷一つ付けられなかった。
剣も、矢も、棍棒も。
そんなものでは、アランを倒せない。
だが、そんな絶対的優位も長くは持たなかった。
何故なら。
(俺攻撃力ほぼないんだが!?)
アランはその特異な防御力と引き換えに、攻撃力がほぼ無かった。
故に、抵抗したとしても魔族には何ら障害にもならず、無視されている。
(方法はあるけど……)
そう、この状況を変える選択肢はある。
とはいえ、それをしたくはない理由はちゃんとある。
(やるしかないか……!)
しかしこのまま何もしないという訳にはいかない。
意を決して、その方法を執る。
「《旗振り(セット)》ッ!」
アランは大声で叫ぶが、何も起こらない。
しかし、時間が経つにつれ、魔族の動きが悪くなる。
「よし、そうだ。来い……っ!」
そして、何を喋っているのか分からない魔族たちが、徐々にアランを攻撃し始めた。
これが、アランがやりたくなかった方法である。
《旗振り》とは、アランを五感で感じると、アランを常に認識する魔術。
アランの声。アランの味。アランを見る。アランに触れる。アランを嗅ぐ。
この五つの内、どれか一つでもすれば、常にアランが認識される。
例え寝ていてもアランは見え、耳を塞いだとしてもアランの声が聞こえる。
そう。常にとは。
五感が正常に働いているのなら、どのような状況でもアランがそこにいる。という、迷惑極まりない魔術なのだ!
そして、アランが使いたくなかった理由とは、これがアランの意思で認識状態が解除できない上、解除方法も分からず《旗振り》の声とともに発動するため、周囲を巻き込むことにある。
これ、敵ならともかく味方まで巻き込むから使いたがらなかったのだ。
過去に魔獣退治の仲間にも《旗振り》が及んだ際には、非難殺到した。
(やっぱ勇者らしくはないよなぁ……!)
と、勇者は敵を倒してこそというアランの視点ではそんな感想だが。
(これを理由に追放してくれないかな……)
しかし、第三者から見れば身を挺して守る姿は、正しく勇者の姿であることを、アランは気が付いていなかった。
『もしもし、聞こえますか?』
一羽の青い鳥から声がした。
(え、何?)
『アラン君、転移の後防御してください』
(意味わからんのだが?)
確かにこれだけでは意味が分からない。
(防御ってことは、これを使えってことかな?)
アランは腰に付けた一本の棒を、敵の猛攻を受けながらチラ見する。
国王から授けられた異世界の武器。その効果は防御だというが、初めて見るそれは全く使い方が分からない代物だった。
(説明されてた気がするけど……)
確かに勇者任命の際に説明はされていた。
だが、一介の農民であるアランは、極度の緊張でそんなもん聞いてる余裕なんて無かったのである。
長ったらしい説明で防御以外に唯一聞き取れたのは。
(押し込め、だっけ?)
名詞が無いため一体全体どういうことなのかさっぱり分からない。
(こんな棒押し込んでどうするんだよ!)
あまりの混乱に、国王にキレた。
「うおっ!?」
そんな怒りとは関係なく、城門前に転移された。
(ああどうにでもなれ!)
自暴自棄になり、棒を突き出し押す。
バサッ!
すると、棒がいきなり開くかのように円状に広がる。
そして、その円状が魔力の形で周囲に展開されていく。
(えっナニコレ!?)
アランの疑問はとめどなく溢れていく。
しかし、その疑問を破壊するかのように──
ズドドドドドドドドドドドッ!!
目の前で巨大な爆発が起き、魔族たちを消し炭にしていく。
当然、アランはそれに巻き込まれ消し炭に──
──ならなかった。
不可解な円状の魔力が、盾となりアランどころか城壁──つまり街をも守ったのだ。
(……誰か説明してくれーっ!)
だが悲しいかな、アランの心の叫びを叶える人は誰もいなかったのだ。
これが《要塞》の勇者アラン・フォーネルトの戦い方? なのだ。