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勇者パーティーを追放されたい勇者たち  作者: 文月灯理
第一話 急募、勇者パーティから追放される方法
2/7

狙撃の勇者 クラリス・シュトロム

予想以上に投稿タイミングがなく伸びに伸び切ってしまいました。

(ああああやっちゃったかもどうしよう)



住宅の屋根を軽々と跳んでいくクラリスは、そんなことを考えていた。



彼女が木造の屋根をし風の如き速さでも音一つ出ず駆け抜けている理由は、彼女が重力魔術で自身の体重を軽くしているからだ。



これは彼女が狩人として身につけた魔術の一つ。普段は森の中を縦横無尽に駆け回るためのものであって、街中で使うとは彼女も考えていなかったが、身体が勝手に使っていた。



これが習慣か、勇者としての素質なのか。多分前者だろう。



(黙って飛び出たのはまずかったよね……)



無表情で駆け巡っているが、頭の中はとんでもなくお祭り騒ぎだ。



しかし身体は真っ直ぐ魔族が暴れている方角へ向かっている。



(あっ、これを理由に勇者を辞められるかも……!)



お祭り騒ぎが度を過ぎて、結論がわっしょいしている。



冷静に考えれば、魔物の襲撃に誰よりもいち早く気づき、即座に行動に出た 彼女が追放される謂れは無い。むしろ賞賛されて然るべき行動である。



と言うか、それをどうやって言及するつもりなのか。話しかけることもできないのに。



(よし、そうと決まればさっさと倒そう! 戦いなんてしたことないけど)



クラリスは狩人なので、獣相手ならそれなりに経験もあるし知識もある。魔術だって、シュルムの

知的好奇心とは違い狩りに必要だからと、完全に実利優先。学令院なら《実践派》と同じ理屈だ。



だが、対人戦闘なんて一切経験がない。しかし、そんなことは忘れてクラリスは戦場に到達。自身が戦いやすい環境 ──街を取り囲む城壁の上に陣取る。



(まあ魔族も生き物だし、頭打ち抜けば大丈夫でしょ……あれ?)



戦場を見下ろすと見知った顔がいた。 《要塞》の勇者、アラン・フォーネルト。 彼が前線で、魔族



──ゴブリンの大群を見たことの無い形状の盾? で押し止めていた。



(嘘でしょ。何で私より先に? というか何で傷一つついてないの?)



アランはゴブリンの剣や鈍器による攻撃を受けても一歩も引くことなく、まるで壁のように受けきっ

ていた。



(あの人本当に人間? 流石勇者、私とは比べ物にならないわ)



と言いつつアランが取りこぼしたゴブリンを丁寧に、確実に頭部を狙撃している。貴女も大概ですよ。



すると、ある事に気づく。



(あの人、全然攻撃してない?)



アランはゴブリンの猛攻を受けているだけで、一切攻撃に転じようともしない。



(単に攻撃する暇がないだけ?)



そう考えるのが自然で、苛烈な波状攻撃を受けて無傷な時点で神業なのだ。それ以上のものを求める

べきではない。



『もしもし、聞こえますか?』



不意に声がし、その方向へ振り向くと、一羽の青い鳥が喋っていた。



『シュルムです、クラリスさん……でしたよね?」



「……何?」



(ななななななに自分何かやっちゃいましたか!?)



黙って飛び出したじゃん。



『勝手ながら僕が指揮を取ります。クラリスさんにはアラン君が取りこぼした魔族の対処をお願いします』



「……もうやってる」



『そうでしたか。お邪魔して申し訳ありません。今マリアベルさんが負傷兵の治療と撤退をしています』



「……見えてる」



クラリスがいる場所からは戦場が一望できる。さらに彼女自身眼がいいこともあり、戦場にいる人全ての行動の一挙手一投足を把握できる。



(あのシスター、負傷兵五人ぐらい抱えてんだけど)



マリアベルは神の加護を一身に受けており、必要なことであれば天使が力を 貸してくれるからこそ出来る芸当なのだが、そんなことは全く知らないクラリスにとっては恐怖でしかなかった。



あれで箱入り娘とは到底思えない。むしろ箱をぶち壊して飛び出てくるじゃじゃ馬娘の方がしっくりくる。



(まあ私じゃ決定打にはならないし、指示通りやりますか)



やることは変わらない。矢を放ち、矢がなくなったら形成魔術でそこらへんの物を材料に矢を作り放つだけ。



形成魔術は、錬金術の基礎となる魔術で、物の形を変えるだけの魔術で金属加工でよく使われる魔術だが、彼女はこれの有用性にいち早く気づいた。



学令院でも、このような使い方は知られていない。学者が弓術使えないからだ。



獲物を取りこぼさないように、クラリスは無駄のない、残像ができるほどの超高速でそれを行い、時に五本の矢を同時に放ったり、時に放った矢に矢を当て軌道修正して二つとも当てる曲芸をしながら、自分の位置がバレないよう移動しつつ撹乱。



彼女は狩人。機を狙い待ち続けるのには慣れている。例えそれが、悠久だとしても、獲物は逃さない。



これが《狙撃》の勇者クラリス・シュトロムの戦い方なのだ。


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