表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティーを追放されたい勇者たち  作者: 文月灯理
第一話 急募、勇者パーティから追放される方法
1/7

魔杖の勇者 シャルム・ノルマール

思いついたんで書きました。

ある宿場町。



そこに四人の勇者が滞在していた。



彼らこそ、世界を破滅へ導く魔王を斃す、人類の希望を背負った勇者。



なのだが……。


「「「「…………」」」」



作戦会議は鎮まりかえっていた。



それもそのはず。彼らは初対面で、先程国王からの招聘であったばかり。



しかも、その誰もが問題を抱えていた。



(誰か、この空気を何とかしてくれ……!)



《要塞》の勇者、アラン・フォーネルト。彼は農村出身の十六歳。人間族。



戦闘経験は害獣駆除(囮)で、碌に戦闘経験が無く自己肯定感が低すぎる。



(どどどどどうしよう!? 何話せばいいの!?)



そして無表情を貫く《狙撃》の勇者クラリス・シュトロム。エルフ族。



しかし彼女の内情は激しく揺れ動いていた。



彼女は齢十四歳にして凄腕の狩人で、年中森の中で過ごしていたため、非常に人見知り。



故に何を話せばいいのか分からない。



(神よ……どうか私に力を……!)

心の中で祈る《巫女》の勇者マリアベル・グラフォート。精霊族。



彼女はその美貌と慈愛に溢れた性格で神の寵愛を受けている。いや、神を惚れ落としたと言った方が正しいか。彼女はそんなつもりは全くなかった。勝手に神が見初めただけの被害者である。



そのせいで人との接触を絶たれ、会話の仕方が分からない二十一歳。



(ここは年長者として……しかし年頃の子の話題なんて知らんぞ!?)



そして最後の一人、《魔杖》の勇者シャルム・ノルマール。人間族。



学令院出身の天才魔術師にして、研究一筋の魔術バカ。御年三十一歳。



彼はジェネレーションギャップに怯え、何を話せばいいのか分からなくなっていた。頭が良すぎるのも考えものである。



「「「「…………」」」」



こうして、誰一人として喋らない作戦会議の完成である。



((((勇者辞めたい……))))



図らずも、同じことを思う四人。



((((待てよ、このパーティーから抜ければ勇者辞められるんじゃないか?))))



以心伝心とは正にこのことか。だが忘れてはいないだろうか。四人が勇者になった訳を。



((((でも、正当な理由なく辞めたら問題になるんじゃないか?))))



そう。彼らは世界の希望を託された勇者なのだ。この時点で、私的な理由など認められる訳もない。



もし、このパーティーを抜け、勇者を辞められる方法があるなら、それは一つしかない。



((((パーティーから追い出されば、問題なく辞められる!))))



同じ勇者が勇者に対しパーティーを抜けろと言うのであれば、それは勇者を辞めるのと同義。



しかしながら、それには欠点がある。



((((そんな事態があり得るのか?))))



その通り。仮にも彼らは勇者。勇者とは能力だけでなるものでは無く、何より精神性に適正がないと名乗れない称号だ。だからこそ、彼らは人類の希望を背負い戦えるのだ。



そして、そんな勇者が、パーティーを抜ける程の不祥事を起こせるのか?



否。絶対無理。自分を優先できるのなら、国王に招聘された時点で既にやっている。



しかし、答えを見つけた勇者程、扱いにくいものはない。



((((絶対に、このパーティーから追放されてやる!))))



無言の作戦会議なのに、何故か活動の方向性が一致する。実は相当相性が良いのではないだろうか。実はかなり見る目があるんじゃないかウロボロス連合国。



「……敵襲」



 突如クラリスが弓を持って窓から飛び出していく。



 別にこの空気に耐えきれず逃げたわけではない。



「……魔族の襲撃のようですね」



 クラリスの動きにいち早く反応したのはシャルムだった。クラリスが飛び出した後、即座に感知魔術を使用し、周辺を調べたところ人を襲う魔族を見つけた。



「アランさんは現場に急行してください。恐らくクラリスさんだけでは被害が最小限に抑えられません」



「でも俺足遅いぞ!?」



「大丈夫、私が転移魔術で前線に送ります。《そーれ》」



 シャルムは杖を振った。



「うわぁぁぁ……」



アランは叫びながら瞬間移動した。



「シャルムさん、貴方天才なんですね」



「いやいや、そんなことありませんよ」



 と、謙遜しているのだが。



(しまった! 何有能ぶりを発揮してるんだ僕は!)



 感知魔術を無詠唱、転移魔術を独自詠唱している時点で、もうそれは天才の領域なのだ。一流の魔術師でも、どちらとも詠唱は必要だし、転移魔術に至っては複数人で行うのが当たり前。



 これでは、追放されない。



「それよりも、今は事態の解決が先です。マリアベルさんも転移させますので、負傷者の回復をお願いします」



 内心後悔しつつも、被害が出るのを見て見ぬふりはできない。これが勇者の素質である。



「分かりました」



 マリアベルを転移させ、一人残るシャルム。



「さて、まだできることはあるはずです」



使役魔術を使い、魔力で作った鳥を飛ばし、上から戦況を把握する。



「僕が戦場に立っても邪魔者ですし、ね」



魔術師は基本的に後方からの戦闘参加が多い。何故なら、魔術師は学者なので近接戦闘は向いていないのだ。



フィールドワークを主とする魔術師ならその戦法を取る選択肢もあるが、研究室に引きこもって魔術の研鑽をする《理論派》のシャルムに、その選択は最初から無かった。



これが《魔杖》の勇者シャルム・ノルマールの戦い方なのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ