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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

張りぼて勇者の幼なじみ

作者: 佐藤なつ

”勇者様ご一行凱旋パレード”

王都に出てきた初日にそんなチラシを目にした。

生活雑貨を買いに街に出てたナナは自分の運の悪さを恨んだ。

誰も彼もが、パレードに向かってしまう。

店を閉めてしまう人もいるくらいだ。

買い物を諦めようかと店外に出たナナだったが、人の波に飲まれてしまった。

望む訳でもないが、パレードのある大通りに流されてしまう。

大通りでは、既に集まった人々が興奮して歓声を上げている。

通っていく勇者様ご一行。

一人一人が馬車に乗って沿道をゆっくり進む形式で、ナナが流れついた時には、丁度、魔術師様が通りすぎた所だった。

オープン型の馬車に乗った背が見える。

段々小さくなっていく馬車に向かって人々が讃える言葉を叫んでいた。

姿が見えなくなっても興奮は増すばかり。

なぜなら、次こそが皆のお目当てだったからだ。

「次は勇者様だ。」

「お姿が見えるなんて。」

押し合いへし合いから逃れようとしたナナは転び、踏まれるのを避けようとして街道の方へと転がり出た。

そのタイミングで、勇者の馬車が来るのが見えた。

豪華な装飾がされた馬車がゆっくりゆっくりと近づいてくる。

ナナは思わず「ケイン。」と呟いてしまった。

勇者と聞いて、そうでは無いかと思っていたが、やっぱりケインだった。

ケインはナナの幼なじみだ。

あの小さかった、ガリガリで頼りなかったケイン。

それが今では勇者様だ。

信じられなかった。


感慨深い気持ちになるが、だからと言って何かが起きる訳でもなかった。

当然、人は沢山居て、ケインはゆっくりとは言え馬車に乗っている。

警備員が転がり出たナナを助けて道に戻してくれたが、その様子に視線を送る事もなく、通り過ぎていった。

その後も、王女様や誰かが通っていった。

でもナナには、どうでも良かった。

有名になってしまった幼なじみ。

例え、こちらが思うことがあっても、あっちは何とも思わない。

パレードが終わり、人まばらになった通りでナナはボンヤリと勇者一行がいなくなった方を見ていた。

誰もいなくなってからナナはようやく現実に戻った。

明日から仕事だ。

必要な準備をしなくては。

日が落ち始めた街をナナは駆けた。

思い出を振り切るように。




******


「この子は将来勇者になるんです。」

そうケインの母カリナは言った。

カリナは他の街から流れてきたシングルマザーで、連れ歩くケインも困窮の為か、痩せぎすだった。

ケインが将来勇者になるようには誰も思えなかった。

堂々と言うカリナの事を笑う人間も居たくらいだ。

ただ、ナナの父親は間に受けた。

と、いうかケインの母カリナに首ったけになった。

「女一人で気の毒じゃ無いか。ウチも男手一つで子育て中だから大変さはわかる。」

殊勝な事を言いながら、父親がカリナに良い格好をしたいだけなのは一目瞭然だった。


カリナは何というか不思議な魅力を持つ女性だった。

生活が苦しい為か、少し頬はこけ、儚げで頼りない空気を持っていた。

独特の空気感で男性を虜にしてしまう。

息子ケインを勇者の素質があると言い張って失笑を買っても、息子に夢を持ちたい儚い女性なんだと最後に同情させてしまう。

あれよあれよという間に男性達の口利きで、住まいを得、酒場の職を得た。

カリナは酒場で人気の女給となった。

ナナの父も足繁く酒場に通った。

自分はそんなに飲めないのに、通い詰め、良い格好をしたがって人々に酒を奢ってカリナに贈り物をした。

幸いナナの家はそれなりの財産があった。

亡き母の実家が幾つか商店を経営していたからだ。

ナナの父は朴訥とした男性だった。

素直で、真正直で、真面目で。

それを買われてナナの母の婿になった。

だが、真正直すぎて商才が無かった。

母と母の両親の目が黒い内は問題は無かった。

父は、ただ実直に母に言われた通りに働けば良かったからだ。

だが、母とその両親が不幸な事故で突然無くなり、父が経営者になった途端に問題が起きた。

素直すぎて騙されてしまったのだ。

父は自信を無くし店を全部閉めた。

「ナナの面倒を見なくてはいけない。」

なんて言い訳をしながら。

事業を精算した結果、纏まった財産が残った。

父一人、子一人、悠々と暮らしていける程の。

生家は大きく使用人を何人も雇っていた。

父は屋敷を維持できる最低限の人数以外は解雇し、父自らナナの世話を焼いた。

父自ら、食事を作り、掃除をし、洗濯をし、ナナの衣服を新調し、学校の送り迎えまでし、その上習い事までさせてくれた。

それが、カリナが現れて一変してしまった。

ナナの母は勝ち気で口も立つ、いかにも商家の女性だった。

だが、カリナは全く真逆。

儚げで頼りなげな風貌、夢見がちな言動。

そういう所がナナの父には魅力的に映ったようだ。

人に頼られ、大いに自尊心が擽られるのは父にとって初めての体験だったのかもしれない。どんどんのめり込んでいったようだった。

その頃、ナナは小さかったからわからなかった。

酒場での振る舞いはわからないし、父もナナに内緒にしていたからだ。

だが、段々自分の扱いが粗雑になっていけば小さくとも異変に気づく。


学校の迎えが使用人になり。

夕食が簡単な物、もしくは買ってきた物になり、忘れられるようになって、見かねた使用人が作ってくれるようになった。

当然のように習い事も無くなった。


少しずつ少しずつナナの生活は浸食されていく。

その代わり、父親が口にするのはカリナの事だ。

それとケインの事。

ケインが食べたいと言っているからレストランに行こう。

ケインの服が小さいから買うのに付き合ってあげよう。

そう言って、ナナはケイン親子の用事に同行させられた。

大仰に二人が感謝すると、父は得意げに”いいよ。いいよ。”なんて言っている。

ナナは腹が立って仕方が無かった。


家に帰ってから、”父にとってナナよりもケイン親子の方が大事なのでは無いか。”

ナナは思うままに不満を口にした。

だが、父は

「いずれ、ケインはナナの兄さんになるかもしれないんだ。冷たいことを言わないで欲しい。」

と、言って取り合わなかった。

冷たいも何も、冷たくされているのはナナの方だ。

そう言ったが、父はナナの言葉を取り合わなかった。

それでも気を使ったのか、それ以降、ケイン親子の用事にナナは呼ばれないようになった。


その頃にはナナも分かるようになっていた。

父の振るまい。

ケイン親子の行動も。

ナナの入れない酒場での振る舞いすら知っていた。

なぜなら、親切なご近所様が教えてくれたのだ。


態々、ケインに付き添って冒険者ギルドに登録手続きをした。

手数料は父が支払った。

ケインの為に装備も買って回っていたらしい。

新人らしくない、立派な装備だった。

剣の師匠に口利きしてあげた。

謝礼も代わりに払ってあげた。


そんな噂を耳にするにつれ、ナナの扱いはどんどん粗略になっていく。


食事どころか洗濯も、掃除も、世話は何もしてもらえなくなった。

そもそも、父は帰ってこなくなってしまったのだ。

使用人が世話をしてくれたが、彼らの仕事は屋敷を維持をする事。

父が辞めさせたから、最低限の人数しかいない。

ナナの世話をしては仕事が終わらず、家が少しずつ荒れていく。

その頃にはナナも少しずつ分かる年頃になったので、使用人に教えてもらいながら家事能力を身につけ始めた。

”自分の事は自分でする。”

”嘆く時間がもったいない。”

ナナの母親の口癖だ。

よっぽど言っていたのだろう。

朧気ながら何度か聞いた記憶があった。

今こそ、ナナはそれを実践しなくてはと思っていた。

この屋敷を切り盛りしていくのはナナしかいない。

いや、屋敷を維持できる程のお金も、生活費も、近い将来尽きるだろうとナナはわかっていたからだ。


たまに父が帰ってくると、真っ先に金庫に向かい中を開け、お金を抜いていく。

目に見えて減っていくお金。

ナナは金庫の中に頭を突っ込むようにして金を取り出している父の背中に訴えた。


お金がドンドン減っている。


このままでは破産だと。


収入は無い。

支出は多い。

誰でもわかる事だ。


切実な娘の訴えは、恋に狂った中年男性には通じなかった。

「女の子が、金勘定に口を出すべきでは無い。」

と、ナナを否定した。


かつて商家を切り盛りしていたナナの母をも否定する言葉にナナはショックを受けた。

そんな娘の様子に気づかずに父は続けて言った。

「困っている人がいるのだ。助けるのは当然だ。そんな人でなしの娘に育てた覚えは無い。」

と。

しかも、

「いずれケインは有名になるから。出世払いしてもらえるぞ。」

本気で言っているのを見て、ナナはドン引いた。

自分の父親がダメ男になってしまったのは認めたく無い物だ。

かつて優しい、良い父親だっただけに、元に戻ってくれるのでは無いかと情が捨てられない。

だが、認めなくては。

次の手を打たなくては破滅しかない。

幸い、ナナは母譲りの冷静な気質を持っていた。


父が金庫に向き合う時には、こっそり後ろから見て、開け方を覚えた。

何度か見て、試してみれば開けられるようになったのだ。


それからはマメに金庫をチェックし、父がお金を持ち出した後で、少しずつお金を抜いて他の所に保管するようにした。

父は持っていくお金を数えるだけで、残金はチェックしていなかったからだ。

移したお金は使わずに隠しておいた。


金勘定に口を出すと父は不機嫌になったが、自分の事は自分で出来る。

家の事は生活する所だけ自分で掃除するから、使用人を解雇しようと言うと父は喜んでナナの言うとおりにした。

代わりに幾ばくかの生活費を貰って自活を始めたナナだが、そのお金はなるべく使わないようにした。

自分の生活費は、近所の商店で手伝いをして稼いだ。

もちろん年端もいかない子供の稼ぎが生活費に足りる訳もない。

曾て、父が売り払った母の店舗の一つで下働きをするナナに店主が同情したのだ。

破格の待遇で雇ってくれた。

学校後や休みに少し店舗の掃除をしたり、物を補充する。

簡単な仕事だ。

他の店員の手前給金は適正で薄給だったが、やれる事が増えれば少しずつ昇給したし、何より食事・お下がりの服・売り物にならない雑貨、色々な物を譲って貰えた。

それがナナの生活を助けた。

他にも市場に買い物に行けば、おまけをもらえた。


街の皆は事情を知っているのだ。

かつて、街一番の商家の娘が蔑ろにされていることを。

その惨めさに耐えながらナナは暮らした。

ナナにはどうしようも無かったからだ。


その状態で10年ほど経った。

ナナは学校を優秀な成績で卒業した。

隠し金貯金で上の学校まで出ることが出来たのだ。

同じようにケインも冒険者として名を馳せていた。

ケインの稼ぎでカリナも働かずに済み裕福な生活を送れるようになったらしい。

最近は、隣町に大きな家を買ったという噂を耳にした。

生活苦も無くなった二人は元の美貌を取り戻して、大層人気らしい。

ケインは若手冒険者として、若い女性にモテモテでカリナは若いツバメを侍らしている。

華やかなケイン親子の噂は街で持ちきりだった。

対してナナ親子は困窮していた。

それもそうだろう。

稼ぎもないのに、どんどんお金を浪費してしまったのだから。

卒業を機にナナは父を見限って、家を出て行こうと準備をしていた。

そんなある日、父はふらりと家に帰ってきて、ナナに、

”借金で、どうにもならなくなってしまった。”

と、告白してきた。

父の後ろに高利貸しの男を二人連れて。


父が働いても返せない程の金額で、ナナに身売りしろと高利貸しは言ってくる。


ナナは成績優秀者として働き先が決まっていた。

王都の下級官僚試験に合格していたのだ。

高利貸しはニヤニヤ笑いながら、

「噂通り、酷い父親だなぁ。」

なんて囃し立ててくる。

それにはナナも同感なので黙っていた。

父は初めて聞いたかのように

「なっ。何を。」

なんて言ってショックを受けた顔をしていた。

高利貸しが、街でどんな噂の種をまいているのか親切に教えてくれる。


ナナは知っていた。

噂の最前線に居たのだから。

商店で下働きすれば、奥様達の同情の噂の的に、学校に行けば、噂の的になってきたのだから。

女に迷ってお金を巻き上げられた愚かで不幸な父子。

それがナナ達に対する周囲の評価だ。

ナナにとっては今更な話だが父には初耳のようだった。

わなわなと震えている。


いや、聞こえていても、耳に入っていなかったのだろう。

そういう自分に都合の悪い言葉は理解出来ない男だったのだ。

ナナは驚き顔色を悪くする父親に冷たく言った。

「借りたお金は返さないといけないわ。」

と。

高利貸しは

「さすが!上級学校の首席卒業者は違う!話がわかるね。」

「この街、初の官僚試験合格者様だ!!すごいな。そんな優秀な娘さんを娼館に売ろうなんて酷い親だ。」

と、厭味を言った。

父はそれも初耳だったらしく、今度はナナを驚きの眼差しで見ていた。

全く、感情がダダ漏れな男だ。

嘘がつけない、正直なだけの男。

それが父親だ。


だから、ナナは冷静に言った。

「貸した相手に返してもらうのが先じゃない?なんで私がいつも犠牲になるの?」

「そうだな。出世した勇者様に返してもらいなよ。」

「街一番の不幸な娘さんじゃなくって、最初に好き勝手したお父さんが犠牲になるべきだよなぁ。」

なんて、小突かれて言われ続けて、父はとうとうカリナに会いに行くと言った。

「信用できないからついていってやるよ。」

高利貸しの男、一人に付き添われながら父は出て行った。


その日の深夜、父はボロボロになって帰ってきた。


ナナはカリナには会えないだろうと思っていたが、”最後だから。”と、食い下がって会ってもらったらしい。


”お金を返して欲しい。”

って父が言ったら、

”そんな事実は無い。”

”借用書は無い。”

突っぱねられた上に、帰り道に破落戸に襲われたらしい。

多分、カリナの取り巻きだろう。


何と、付き添った高利貸しが最低限守ってくれて、父はボロボロになりながらも帰ってきた。

ただし、その傷と、精神的ショックで寝付き、そのまま天へと旅立ってしまった。

ナナには一言の謝罪も無かった。


やっぱりな。

と、ナナは思っただけだった。

だが、悲しいとかそういう気持ちも何も無かった。


ナナは、そうなる事がわかっていたのだ。

父は、ただ愚かな人間だった。

商才もなく、父親としての覚悟も無かった。

ただ、自分がかわいくて寂しいだけの人だった。

それをケイン親子に良いようにされてしまったのだ。


ケイン親子に返す気があったら返していただろう。

あれは、人の金を使っても何にも思わない人種だ。

強奪者だ。

見極めず、貸し続けた父も悪い。


貸して、返してもらう。

当然のことをしてると言う意味では、態度はアレだが高利貸しの方がまだ理解できる。

ナナはケイン親子の所に出発した父を見送った後、すぐさま精算に入った。

時が過ぎれば過ぎるほど利子が発生するのだから、返せる物はすぐ返した方が良い。

そのつもりで二人来た高利貸しの男も一人が父に付き添い、一人がナナの所に残ったのだろう。

ナナは元々、この家を、いや街を出て行こうと思って、家財道具、持ち家の処分手続きをしていた。

管理者は父親だったが、ナナは法の抜け道を使って、自分に権利を移す方法を探していた。ナナの学びは大変役に立った。

こっそり、手続きを終え、後腐れ無く父親に幾ばくか渡して消えようと思っていたのだ。


大きくない街だ。

高利貸し達は分かっていたのだろう。

ナナの行動を。


そして、父に支払い能力が無いことも。

だから、問答無用でナナを娼館に売るような事はしなかった。


高利貸しの見込み通り、ナナはお金を返済した。

家を売り、先祖伝来の品など全部処分したお金で。

後は、ナナのタンス貯金で。

ほぼ一文無しとなったが、父の葬式も出すことが出来た。

心残りは一切無く、葬式なのに晴れ晴れとした気持ちだった。

これで、自分の知らない所で父が何かをしでかすことも無いのだ。

そう思えば、参列した隣近所の人、母の知人達が

「葬式無しでも良かったのに。」

「最後まで迷惑な男だったね。」

なんて言うのにも微苦笑で返すことが出来た。

最大の心配事が無くなったナナは、街に何の未練も無く、単身王都へ出た。

下級官僚として数ヶ月下っ端見習い暮らしをし、地方都市への転属となった。

転属希望を出す人間は少ない。

面接試験の時に、ナナは熱心にアピールした。

結婚願望は無い。

地方を見回って見識を広げたい。

と。


下級官僚とは言え、コネがいる。

ナナがいくら優秀でも狭き門だ。

だが、ナナは、どんな僻地でも行き、どんな仕事でもすると言い切った。


そのアピールもあって、ナナは採用されたのだろう。

色んな所に飛ばされた。

転属は過酷だったが、ナナは一カ所にいたくなかったから丁度良かった。

その土地に長く根付いても、何かをきっかけに無くしてしまう。

祖父母が大事にしてきた店舗も、あっさりと父が手放してしまった。

母が、祖父母が、代々、手入れをし、大事にしてきた自宅ですら、ナナがあっさりと手放した。

ただ、手放したお陰でナナは借金を負わなくてすんだ。

あの家はナナを自由にしてくれたのだ。


余計な執着を持たなければ、身の丈にあった生活をすれば生きていける。

そう自分に言い聞かせて、ナナは地方から地方を転々とした。

忙しくて、忙しくて、余計な事を考える余裕は無かった。

ナナにはそれが有り難かった。

何もかも無くした不満も、お人好しな父や、ナナ親子を利用したケインとカリナへの恨み。

色々な感情はあったが、全てを忘れたかった。

望み通りに、その日を暮らすので精一杯の間に段々風化していった。

ナナはどんな場所に行っても必死で仕事をした。

選り好みはし無かった。

畜産が有名な土地では、家畜の世話の手伝いもしたし、港町では荷運びもした。

そうやって土地の人に顔を売り、土地に溶け込み、役場の下っ端の仕事をこなしていった。

ナナの仕事ぶりが、気に入られて、ウチの嫁になんて言われることも多々あった。

ナナはその度に、

”生活費を使い込んだ父親に娼館に売られそうになったから結婚願望は無い。むしろ、結婚するのが怖い。一人で身を立てる為に一生懸命働いて老後資金を貯めている。”

とお涙頂戴風に語れば、分かって貰える事が多かった。

人は不幸話が好きだ。

ナナの生家はそれなりに有名な商店だった。

僻地でも付き合いのあった行商人に会う事もあった。

中には”あぁ。あの・・お嬢さんか。苦労したね。あの父親は酷かった。”と、ナナの話を肯定して、しつこく縁談を勧める人を諫めてくれる人もいた。


ナナは周囲の反応を気にせずに只管仕事をこなした。

その内、何でもやる、こなせる人間として周知され、過酷な生い立ちにも負けずに健気に頑張る子として、その土地の重鎮の気持ちをナナは掴む事ができた。

各土地の重鎮は、ナナの次の転属先に手紙を書いてくれたりして顔を繋いでくれた。


その人脈がナナの下っ端人生を支え、各土地の生活を支えてくれた。

忙しいが順風満帆な生活にナナは満足していた。

だから、ナナは思いもしなかった。

頑張りすぎた結果が王都に呼び戻されるなんて。


どうやら、地方で頑張っている優秀な女性役人が可哀相な待遇を受けている。

と、各土地の重鎮・上役が中央にかけあってくれたらしい。

ナナは、そんな事望んでいなかった。

しかし、役人にとっては辞令が全てだ。


嫌々ながら王都に戻った、その初日に、パレードにかち合ってしまったのだ。

更に嫌な気持ちになってしまった。


華やかなパレードを見て、ナナはケインに何とも言えない気持ちになった。

あの時の不満が一気によぎった。


何か言ってやりたい。

でも、適わない。

言っても仕方が無い。

モヤモヤとした気持ちがナナを襲った。


だが、冷静に考えれば

ナナは下級役人。

ケインは勇者。

どうやっても接点が無い。


それに、会えたとしても、ケインには何を言っても無駄だだろう。


だから、ナナは忘れることにした。

今までもそうやってきたのだ。

ただ、自分の仕事を只管にこなせば忘れられる。

そう自分に言い聞かせた。



だが、パレードが終わってしばらくしたある日。

突然ケインがやってきた。

態々ナナの仕事帰りを待ち伏せして声をかけてきたのだ。

ケインはナナを建物の裏につれていって一言。

「どういうつもりだ。」

と、言った。

「えっ?何が?」

ナナは驚いた。

ケインは舌打ちした。

「そういう頭悪いところ。お前のオヤジとそっくりだな。わかれよ。」

ナナはカチンときた。

「何よ。父さんの事は関係ないでしょ。」

さすがにナナは言い返した。

「いいや、同じだよ。お前さ。俺を態々俺追いかけて、ここまで来たんだろ。わかってんだよ。俺を追いかけて地方役人してたのも。そこまでして俺に関わろうとするなんてな。」

「はっ?」

ケインはナナの地方転属を、ケインの後を追いかける為にしたと思っているらしい。

ナナの転属は完全に辞令によるもので、ナナにはどうしようの無いものなに。

わなわなと、握り込んだ拳が震える。

余りの言葉にナナは言葉が出てこなかった。

ケインはナナの様子に気づかずにペラペラ喋っている。

「ハッキリ言ってそういうの迷惑だから。お前のオヤジも母さんに付きまとってさ。その割に金払いは悪いし。俺が欲しいのはくれないし、初心者は危ないとかってショボい装備しかくれないしさ・・。なのに、お前はこれ見よがしに良い家に住んで、お手伝いさんに世話焼いてもらって、幸せそうにしていたよな。本当に良いところのお嬢さんって感じでムカついて仕方が無かった・・・。まぁ、いいや。俺は俺の努力で成り上がったって事だからな。お前みたいな苦労知らずのお嬢さんが、コネでも使ったんだろ。下級とは言え官僚になるなんてな。あのまま破滅すると思ったのに、生き延びやがって。だけどな。官僚っても所詮下級だからな。俺のこと訴えようとしても無駄だからな。お前はただの平民だ。俺は勇者だ。立場が違うんだ。良いか!ただのど平民が勇者の俺の事、言いふらすんじゃねぇぞ。今まで色んな所で言いふらしてたの知ってるんだからな。今まで田舎だから、見逃してやってたんだぞ。なのに態々王都まで来るなんて調子に乗ってんじゃねぇぞ。良いか。早く田舎に帰れ。王都に残っているのを見たら、今度こそ放り出してやるからな!」

最後はチンピラのような口調で恫喝して行ってしまった。

ナナは余りのことに立ち尽くすことしか出来なかった。


ナナは呆然とした。

心の片隅に追いやろうとしていた理不尽な気持ちが猛然と湧き上がってきた。



困ってた時はあんなにすり寄ってきたのに。

ありがとう。

ありがとう。

父とナナのお陰だと言っていたのに。

しかも、初心者に最高級品なんて渡せる訳がない。

レベルにあった装備でなければ使いこなせないでは無いか。

ナナの父は初心者の中での最高級品を買い与えてやっていたのに。

その間、ナナは習い事も中断し、生活は困窮していったというのに。


沸々と色んな記憶が蘇ってくる。

あの頃の事を思い返してみればカリナとケインは見栄っ張りだった。

自分のレベルに合わない物ばかり欲しがっていた。

それをホイホイあげる父も父だった。


本当に、父は愚かだ。

あんな人達としゃぶり尽くされて。

あんな人達と家族になるつもりだったなんて。

でも、止められなかった自分もいけなかったんだろう。


ナナは悔しさに泣きながらも結局は何も出来なかった。

ケインはこっちを知っている。

だが、ナナには何も無い。

力も、お金も。

だからと言って、田舎に帰るという選択肢も無かった。

ナナは役人だ。

辞令無くして動くことも出来ないし、帰る田舎も無いのだ。

日々の仕事に忙殺されて、

そうして、またしばらく・・一週間ほどしてからだろうか。

今度はナナの住む家に、訪問者が現れた。

驚いた事に王女様の使者らしい。

筆頭侍女とか名告った女性は付き添いの騎士と共に、ナナの借家にゾロゾロと乗り込んできた。

「何ですか?ここは家畜小屋?」

と、蔑み。

「たかが下級官吏が勇者様を強請るなどあってはなりません。ましてや勇者さまの婚約者にはなれないのですよ。」

なんて言ってナナに紙を投げつけるように渡してきた。


見ると、ナナの解雇通知書だった。

ナナは、強請などしていないと言った。

だが、聞く耳を持たない。

「賤しい所業をする者ほど、自分はやっていないと答えるものです。」

等としたり顔で言われてしまう。

ナナは呆れて筆頭侍女様の言いたいことを言わせた。

恐らく王女様の侍女と言うだけで高位貴族の出なのだろう。

そんな女性に下手に言い返して、不敬罪とでも言われたらたまったものではない。

ナナは黙って耐えた。

ナナの気持ちを知ってか知らずか筆頭侍女様はキャンキャン甲高い声で叫ぶように話し続けた。

ナナは勇者を強請る極悪人で、下級とは言え官僚に相応しくない。

だから、解雇する。

王女自らの命令である。

又、勇者様は王女様と婚姻予定であり愚かな強請などせずに潔く身を引くように。


更には、ナナの父親が好意で送ってくれた品物に対しては返金義務はないと思われるが、今後ソレをネタに強請ってくるような愚かな真似が出来ないように手切れ金を用立ててやる。

と言うような事を丁寧でお上品な言葉でチクチクと言うと金貨袋と思われる物をテーブルの上に置いて去って行った。

彼らが去って行くと、すぐ大家がやってきた。

玄関扉を開けるなり、ナナに出て行ってくれと言った。

勇者様を強請ろうとする身の程知らずに貸す家は無い。

とまで言われてナナはケインや王女が既に噂を振りまいたであろうことを知った。

今現在、大家が大きな声で話している。

それを、同じ階の人が遠巻きにチラチラ見ている。

彼らには既に嘲りの目があった。

大家が出て行くと、ナナは荷造りを始めた。

王都に来てからついていない。

本当に有り得ない。


ナナはやり場の無い怒りを堪えながら荷物を纏めていたが、途中疲れて椅子に腰掛け、テーブルの上にあるおもむろに金貨袋を見る。

ずっしりと重そうな袋が一つ。

ナナは袋を開けた。

ザッと枚数を数える。

その金額に更にナナの怒りは増した。


父親がケイン親子に貢いだと思われる金額、丁度か少し足りないくらいだったのだ。

ナナの父親は、真面目だった。

最初の頃は。

だから、お金のやりくりも最初はちゃんと帳簿につけていた。

商売を畳んで得た金額の総額。

そこからナナにいくら使ったか、家の維持費など事細かにつけていた。

それはケイン親子にのめり込むにつれ段々雑になり、途中から記入されなくなっていた。

その頃にはナナは金庫を開けられるようになっていて、父親がいくら持ち出しているかをチェックしていた。


後は、街の人がどこで何に使っているかをナナに教えてくれるから、それを記録していれば、父親のおおよその使い込み金額がわかった。

わかったがあくまで概算であるし、借用書にはならない。

だからケイン達に何も言えない。

そう思っていた。

だが、こんなに近い金額を用意するとは。

ナナは、ケイン親子が父から幾ら搾り取ったか記録しているのだと思った。


あんなに杜撰に見えて、用意周到に誰からどれだけ貢がせるか綿密に考えて行動していたのだろう。

あんな親子に関わったばかりに、ナナの人生は潰されてしまった。

それでも必死になって自分で生きて行こうとしたのに。

あぁ、どうしてこんな目に。

ナナは机の上に突っ伏した。


嘆く時間がもったいない。

母の言葉を胸に、ナナは頑張ってきた。

理不尽を胸に飲み込んで。

なのに、もうナナは動けそうもなかった。


ケインが王女と結婚するならどうぞ勝手にすれば良い。

何故、自分までケインと結婚したかったのだとか、

お金をたかりに来たとか言われなければいけないのか。

必死に手に入れた仕事まで奪われなくてはならないのか。


廊下では室内のナナに聞かせる為だろう。

他の住人が勇者と王女のラブロマンスを語っている。

彼らに言わせれば、至上の愛なんだそうだ。


おかしい。

人の幸せを踏みにじった上で成立する幸せがあって良いのだろうか。

なのに、その事実さえ闇に葬られそうになっている。

荷造りも途中なのに、ナナは動けなくなってしまった。

完全に気持ちが折れてしまったのだ。


小さい時から頑張って頑張ってきた。

なのに報われない。

もう、どうにでもなれ。

そんな気持ちだった。


朝を迎えると、大家がやってきてナナを無理矢理部屋から追い出してしまった。

数人、とても体格の良い男が来て、ナナの身の回りの物を適当に鞄に突っ込み、ナナの体を荷物のように担いで、路地にポイと放り捨てた。

恐らく男達は、騎士団の下っ端なのだろう。

体格や、身のこなしが一般人では無かった。

大家が騎士団に指令は出せない。

と、言うことは命令を出した人がいる。

彼らはナナを殺したいのだろう。


固い石畳に打ち付けた体は痛く、ナナは動けなかった。

しかも、治安の悪い所に放置されたらしく、動けないナナの荷物はアッと言う間に強奪されてしまった。

渡された金貨袋はもちろん、ナナの私物も無い。

ナナの溜めていたお金も無い。

完全に身一つになってしまった。


ナナには絶望しか無かった。

嘆いている時間がもったいない。

母が言うとおりだった。

昨日、大家に出て行けと言われたら、すぐ出て行けば良かった。

そうしたら最低限の物は手元に残ったかもしれないのに。

いや、ここまで手を回した人間達だ。

外に出たら、騎士団の人間が張っていて、職質でもかけられたかもしれない。

身の程に合わない金額を持つ事をせめられて、牢屋に入れられたかもしれない。

どちらにしろ終わっていただろう。

ケインはナナを目の敵にしている。

こんな仕打ちをする程に。


ナナには何の力も無い。

このままケインの思惑通りに何も出来ず行き倒れになるだけだろう。

悔しい。

やるせない気持ちになる。

気持ちになるが、何も出来ない。

気力も、何もないのだ。

ナナには。


ただ虚空を見上げるナナの前に突然影が差した。

黒いローブを纏う、怪しい男だ。


彼は、ナナの前でパチリと指を鳴らした。

気づくと、小さな部屋のベッドの上に居た。

彼はナナに温かいスープを差し出してくれた。

得体の知れない男が出してくれた得体の知れないスープ。

それでもナナは受け取った。

人の情を感じたかったのだろうか。

口にすると体の中から活力がみなぎっていく気がした。

行儀悪いとは思ったが、ゴクゴクと飲み干してしまう。

不思議な事に一杯のスープでナナの気持ちまでもが上向いた。

「それは、ただのスープでは無い。回復効果が付与されている。」

言い回しが魔術師っぽい。

少し頭が回るようになったナナは思った。

男は頷いた。

「そうだよ。俺は魔術師だ。」

ナナは魔術師を見た。

この部屋は心が読める術式でもかかっているのだろう。

魔術師はローブを外した。

その顔にナナは朧気に見覚えがあった。

新聞で、雑紙で。

彼らを讃える絵姿など

何度も見た姿だった。

「あなたは。ロロ様」

「初めまして。同志よ。」

ナナは首を傾げた。

同志であった事は無い。

「あなたの同志はケインでしょう?」

「ケインに対する恨みを持つ同志ってことだ。」

「何言って・・。」

「君はケインに恨みを持っている。家族を崩壊させられて、全てを奪われて。恨めしいだろう。」

ナナはグッと喉を詰まらせた。

スープを机の上に置く。

「僕もそうだよ。奴が恨めしくて仕方が無い」

淡々と魔術師は言う。

「僕はね、名ばかりの魔術師で実際はただの彼の補佐役だったんだよ。僕はね。こんななりだから。」

言葉の繋がりがおかしいと思いつつも、ナナは改めてロロを見た。

絵姿のロロは、いつもケインの後ろに書かれることが多かった。

大抵の人はケインにばかり注目する。

勇者パーティの中でロロは目立たなかった。

今、真正面から見てみても平凡な顔立ちと言えば平凡かもしれない。

ケインは母カリナ譲りの華やかな顔立ちをしていた。

体格も勇者らしく立派だった。

その隣に居れば霞んで見えるかもしれない。

「魔術師として勇者パーティを支えていたんでしょう。外見は人の好みが入りますし、私は外見よりも立派な事を成し遂げられたと尊敬しています。」

ナナは人を外見で判断しない性質だ。

心の底から、そう思っての言葉だったが、ずっとケインと比較されていたのだろう。

ロロは軽く首を左右に振って

「同情はいいんだよ。」

と、ナナの言葉を一蹴した。

「わかってるんだ。良くケインに言われてたからさ。

冴えないから、俺の後ろに隠れていろ。勇者のパーティに貧相すぎて相応しくない。そんな事ばっか言われてたんだ。確かにケインは恰好良いし、それに自分を良く見せるのが上手だよね。後、相手が・・僕がね。どんな性格かすぐ見抜いて、僕を上手に動かしてたよ。時々優しい言葉を言って、後は脅したりとか、まぁ、マインドコントロールされてたんだろうなぁ。僕は。今は、そんな事はもう良いんだ。」

ボソボソ、歯切れ悪くナナにとってはもの凄く頷ける内容だったがロロは話を変えてしまった。

「彼は自分が一番目立ちたい人だったんだ。魔術師の僕が余力を残してた方が良いとか、最初は気遣うような事を言ってたんだけどさ。一度、目立つ魔法を使ったら後でこっぴどく怒られたんだ。それからどんどん制限されるようになった。まず敵を殲滅出来るような強力なのは厳禁。雷魔法は見た目が派手だからダメ。同じ理由で火魔法もダメ。そんな事言ったらどんな属性も使えないよね。その内に僕の役目は補助魔法をかけ続けることだけになったよ。後は、ポーション作ったり。武具や、防具に付与魔法をしたりとかさ。そうそう、そのスープもまぁまぁ美味しいでしょ。ずっと作ってたからさ。そう調理係もしてたんだよ。料理も出来るように努力したんだ。他にも色々出来るようになってね。つまり、僕は魔術師ではなくてパーティの便利屋だったんだ。」

ロロは肩を竦めた。

「はぁ。」

ナナは曖昧に頷いた。

サポート役。

もの凄く大事な事じゃないだろうか。

何が不満なんだろう。

その気持ちをまた読み取ったのだろう。

ロロは笑った。

「皆が君みたいに聡い人なら良かったんだけどね。普通の人は違うよ。目に見える物が全てなんだ。剣で敵を叩き切るとかすると、みんな感心するよね。感動する。そういう目に見える成果を残した人が評価されるんだ。彼が派手な大技を使って敵を倒すとき、僕はちまちま彼の素早さや、筋力を増強させたり、彼が大ぶりして防御ががら空きになってる所に防御魔法を展開したりしたんだ。彼の注文は気づかないようにやってくれだったからさ。バカ正直にそれを守っていたんだよね。そうしたら見事に誰にも気づかれなかった。戦いが終わったらさ。功労者は労われる。その土地の有力者とかに宴に招待されたりするんだけど、僕は殆ど呼ばれなかったね。皆が楽しんでいる裏で僕は汚れた鎧を綺麗に整備したり、剣の手入れしたり。コソコソコソコソ働いてたんだ。それでも良かったんだ。僕は目立つのが嫌いだったし、皆の役に立てたら良いと思ってたから。それで早く旅の目的を達成したかったから。この世を平和にしたかったから。だから、ケインが有力者との顔つなぎに宴に出なくていけないけど、装備の手入れが必要だからどうしようとか悩んでいた・・いた振りしてたのにコロッと騙されて、僕がやるから良いよなんて答えてたんだよね。」

そこでロロは一瞬黙り込んだ。

それから、フンッと鼻を鳴らして再び口を開いた。

「バカだったんだよね。感謝なんてされてなかった。凱旋パレードが終わって、祝勝会があって、皆、褒賞が貰えて。なのに、僕は褒賞どころか断罪されたんだよ。パレードまでは辛うじて良かったよ。何か、僕の馬車だけグレードが低かったけど。祝勝会、皆が祝いの言葉をもらう中で、王女が言ったんだ。

”ロロがケインの足をずっと引っ張ってた。ケインはロロの事をずっと庇っていた。ロロがいなければもっと早くに帰ってこれたのに。被害も出なかったのに。”

そう言われて、僕は牢に入れられたんだ。

すぐに処刑されるって言われたから、すぐ逃げたよ。

僕の事、何にも出来ないお荷物だって思ってるからさ。警備も緩かったんだ。

逃亡防止の魔術柵とかの解除に、ちょっと手間取ったけど、僕はずっと宝箱の鍵解除とかしてたから、それに比べたら全然問題なかったね。」

ロロは、またフンッと鼻を鳴らした。

「あいつら、僕の事バカにしすぎなんだよ。確かにバカだったけどさ。だけど、一生懸命支えてきたのに、それを散々利用してたのに、僕を始末しようとするなんて。本当に許せない。だから、僕は復讐をする。」

きっぱりと言い切るロロの目は仄暗い光を放っていた。

「ねぇ、ナナ・・さん。君は僕の事そんなに知らないと思うけど。僕は君の事良く知っているんだ。君の生い立ちから、君の家がケインに潰された事。それでも頑張って試験に受かって、役人になって地方でも、また頑張ってたこと。誰に何回、プロポーズされたか。なんて事も全部全部知ってるよ。」

ロロが口端を上げて笑った。

知られている情報の内容にナナは驚いた。

「なんで、そんな事まで。」

「ケインの命令だったからね。」

「えっ。」

ロロはサラッと衝撃発言をした。

「ケインってば、本当に小心者なんだ。自分が悪く言われてないか。自分が勇者として崇められていないか。そういう噂がとっても気になる奴だったんだ。だから、ナナさんの行き先もチェックしていたんだ。いや、僕にさせてた。ナナさんの転勤先が遠征先と被ったりすると自分を追いかけてきたってブツブツ言っててさ。ナナさんの周りの人が昔話してたとか報告すると、どんな内容だ?って凄い気にしてた。

本人はさり気なく聞いてたつもりみたいだけど。

多分、自分達親子の事を話すんじゃないかってヒヤヒヤしていたんだろうね。よくよく考えてみれば、同じパーティの人間に振る仕事じゃないよね。勇者の評判調査なんてね。変と思わない僕もおかしかったんだけど。」

ロロはハハハッ。

と、力なく笑った。

「あの男が国の王女と婚姻して、この国の王となろうとしている。あんな小心者の。あんな虚栄心塗れの。人を踏み台にすることしか出来ない男が。そんなの許せない。だから何とかやり返してやりたいと思った。そんな時に丁度と言っては悪いけど、君が酷い目に合っているのがわかったよ。皮肉な事に、ケインに命令された隠密系の魔術、探索とか盗聴が役に立ったよ。聞いてて分かったんだけど、っていうか、考えればすぐ分かったけど、僕を処刑したかった理由はケインの火力を上げていた事をバレないようにしたかったって理由で。ナナさんの事もも子供の頃の事を話さないように口封じしたかったって訳。あの男の小さなプライドのお陰で僕たちは、こんな目に合わされたんだよ。」

またロロは笑った。

つられてナナも苦笑してしまった。


「ナナさん。君は僕と同じ。ケインに破滅させられた人間だ。全ての努力を無にされた。こんな事許せないだろう。だから、僕と一緒に戦おう。」

「何故、私?あなたなら一人で復讐できるでしょう?」

「うん。でも、王国全部を敵に回すのは難しいよ。ほんの少し何処かを爆破するとかそんな程度ではもみ消されてしまう可能性が高い。それにね。王国の誰かが傷ついてもケインは特に何も思わないよ。自分が、自分だけが大事な人間だからさ。だから、ケインが一番嫌がること。過去のケインを知っているナナさんの力がいるんだ。彼が一番嫌な、情報をぶちまけてやろうって思ってるんだ。彼が何より大事な名声・プライド。

それをぶち壊してやったら良いと思って。その為にナナさんの協力が必要。誰よりも子供の頃の事を知っているでしょう?その為には、自分の過去を皆に知られちゃうんだけどね。それでも手伝ってくれる?ここまで話したらしてもらうんだけど。」

ロロは最後の方、自信が無いのか早口で言い切った。

チラチラとナナの方を見ている。

ナナは頷いて即答した。

他に返答は無い。

「手伝うのは良いわ。どう手伝うの?」

体力が回復したばかりだと言うのに、ナナの声は掠れていた。

興奮で。


「これから一緒に考えて欲しい。でも、きっと命を狙われるよ。」

「もう殺されかけたし、社会的に殺されたわ。」

ナナが肩を竦めてみせると

「そうだったね。」

ロロはにっこりと笑った。

今までの事を話すのにとても緊張していたのだろう。

初めてみる屈託の無い笑顔。

ナナも久しぶりに愛想笑いじゃない。

心の底から笑顔を浮かべることができた。

「私の、母が言っていたわ。”嘆く時間がもったいない。”本当にそうだと思うの。

だから、すぐ話しましょう。どうするのか。人を犠牲にして安穏としていられるなんて。おかしいものね。」

ナナが言うと、ロロは頷いて口を開いた。


”命をかけて復讐を。

僕の未来奪った者に。

君の全てを奪った者達らに。”


不思議な響きで言葉が紡がれる。

ロロとナナの前。

空中に金色の文字が現れ複雑な紋様が編み込まれていく。


ナナはそれが何かわかった。

もっと簡略化された物は何度か見たことがある。

美しく、禍々しい命の盟約。

命をかけて二人は、この盟約を執行するのだ。

二人が裏切ることは無い。

二人が得意な事は、人の影となり尽力すること。

努力すること。


どのようにするのか、地道に計画を立てるのはお手の物。

今までは一人で耐えていた事を、相棒を得て戦えるのだ。

二人の満面の笑顔を、金色の魔法陣が照らしていた。






**********


後書き。


凄い長くなりました。

纏めきれなくて、同じ事繰り返してるかも。

すみません。

くどいのはいつもの事ですね。

何回か直したのですが、もうどうしようもないと言うか疲れました。

コロナ後から本当に更に疲れやすくなりました。

辛い。

まだ咳でますよ。

皆様お気をつけてくださいませ。



そして、本編。

借金踏み倒して返してない。

いけないこと。


私も貸して返ってこないのと。

逆に、返せていないのがあります。

辛い。


借金ダメ。

絶対。

私の教訓。

ローンも怖い。

カード分割払いも怖い。


やむを得ない事情ある方、色々ポリシーがある方は別だと思います。

私個人はこりごり。


では。


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