第5話 散歩道を作る
朝の散歩は欠かせない。
穴倉を出て、右に行くと小さな小川がある。そこは顔を洗ったり、食材や食器を洗う洗い場である。
その小川を上流に辿って、20分ほど坂道を行く。
ダンダンダンっと。ブッシュを散らし、土を固めてゆく。
左に大きく曲がって、ちょっと急坂を上ると、小高い山の縁に着く。そこからの展望が良い。
青い空に、僕のようなウサギの形をした雲がいくつも浮かんでいる。
緑の森の向こう、南東には海と空の境が見える。
その左の上には、上りかけた大きな青い太陽が見える。まぶしっ!
まあ、確かにサバイバルを楽しむために、わざわざ人の居ないところを選んだのだから、煙の一つも上がっていないのは当然だね。
しばらく、佇んで降りてゆく。
ダンダンダンっと。ブッシュを散らし、土を固めてゆく。
出来たよ。散歩道。名前は”青の道”。(ネーミング最悪)
この他に4ルートを作った。
一つは青の道。
2つ目は、沼の道。
3つ目は、ニンジンの道。
そして、4つ目は希望の道。
これは、脈絡がないね。
一番、好きなのは青の道。
穴倉からまっすぐ南に降りると湿地帯がある。その際をぐるっと回る道が”沼の道”。時々カエルや蛇が道を塞いでいることがある。タンパク質だ。捕って帰ろう。
”ニンジンの道”は、言葉の通りニンジン畑の周りを主に巡るのだ。ぐるぐるとね。美味しいニンジンを見ながら飽きないね。
”希望の道”はね。ここから東に向かって、大きな木までの往復。単調なんだ。
でも、その木の周りが、昔訪れた緑の星にあった風景を蘇らせてくれるのだ。
そこは、一面緑だった。山もない、谷もない、家もない、町もない。もちろん誰も住んでいない?。
住人は、アンドロイドだった。
縦横に張り巡らされた道路から、緑の保守が行われていることがわかる。
2足歩行で2つの腕を持ったアンドロイドだ。
彼らは、大きな機械を使って、水やりや施肥、剪定などを行っている。
遠くに白い建物が見える。きっと、そこが保守をしているアンドロイドたちの拠点のようだ。
どこまでも続く、緑と色とりどりの花たち。大きな木は無い。
この星は直径8千キロメートル。海もない、川もない、まっ平な土地が地平線を象っている。
一か所だけ、小さな家があった。茅葺の、ほんの小さな家だ。
その、脇には大きな木があって、その下には白い小さな花が一面に咲いていた。
ドアのノッカーを叩くと、中から声がした。
出てきたのは、二十歳ぐらいの女性だ。
「いらっしゃいませ。どちら様でしょうか?」
「ルーレット・カガクと申します。素敵なところですね。つい見惚れてしまいました」
「私は、この星の守り人”グリミー”。主さんは”パトリシア・グリム”と申しまして、ここ2000年ほどお見かけしません・・ね?」
「失礼とは存じますが、あなたはアンドロイド?」
「いえ、ホムンクルスです。うーんと、この身体は80回目ぐらいでしょうか?」
それから、10日ほど、グリミーの世話になった。
二人で花園を飽きるほど歩いた。グリミーは聡明な方で、一人で住んでいるにしては、なぜか知識も豊富だった。
「私は実のところ、星間行商人をやっておりまして、何かお役に立てそうなことがありましたら、お伺いしたいと思います。滞在のお礼と言っては何ですが」
「それでは、もし主さんに会うことがあれば”わたしが待っている”と、伝えてほしいのです。よろしいでしょうか?」
「たやすいことです。お受けしました」
あれ以来”パトリシア・グリム”に会うことは無かった。
”希望の道”。
あの人のところに、主人が戻ることは、あったのだろうか?。