第一話 魔の星にダイブする
「ルーレット様。やっと見えましたよ。魔の星が」
コックピットの大画面に、その魔の星が映し出された。
直径2万キロメートルほどのお椀型をした建造物が、その後方50万キロメートルのところに3つある。それらは、可視光線、青い光、黄色い光を魔の星に放射している。それらの太陽は魔の星の周りをおよそ370日で回っており、3つの太陽は近接して、一時間周期で巴に回っている。そして、魔の星は24時間で一周の自転をしている。不思議だ、恒星があって惑星があるのが定説であるが、この星系は魔の星が中心になっている。
まったく、魔法が使えると言う噂を少し信じて、ここまでやってきた。
魔の星。それは降り立つと戻ってこれないという噂もあった。戻ってきた者が居ないので、それは事実なのだろう。
あの黄色い太陽は危険だ。俺の第六感が警鐘を鳴らしている。
「セバス、あの黄色い太陽の光が当たらないように周回軌道を割り出してくれ。あの黄色い太陽は危険だ。それと青色、白の太陽からの光も避けた方が良い」
(後にわかったことだが、あの黄色の光は我々の電子機器の機能をダメにする)
我々の母船は、あの太陽たちの周回軌道のさらに外側に位置を決めた。そして、幾日も望遠鏡で、魔の星を観察した。綺麗だ。緑の大きな大陸、その周りの青い海、白い雲があちこちに見える。星の大きさは、直径12万キロメートルほどあって、陸地が経度方向に10万キロメートル以上、緯度方向に6万キロメートル以上の大きな大陸を形作っている。それは緯度ゼロに中心があるようだ。大陸以外にも大小さまざまな陸や島があり、そのまわりは海で満たされている。
この大きな大陸は”ベルダ大陸”と名付けよう。ベルダ大陸は、西にある山脈と、東にある大きな森で三分割されている。真ん中の地域には町や村、そして王城のような囲まれた領域もある。赤道を中心にして、大きな砂漠が横たわっている。西の地域は草原と森。東の地域には、文明の廃墟がある。
王国と王都らしいところをズームアップして、観察を繰り返した。
先だって、モニター装置を1000個ほど投下したが、ことごとくで壊れたらしく通信ができなくなった。やはり電子機器が正常に動かなくなると考えられる。ならば、この星に降り立った者が帰ってこないのもうなずける。降下艇が母船に戻れなくなる。また救難通信もできなくなったのだろうか?。もちろん、救助に向かった者たちも母船に帰れない。ミイラ取りがミイラになる。で、あれば取り残された船の残骸があっても不思議はないのだが。それは見当たらない。
唯一、母船から望遠鏡で覗くことしかできない。望遠鏡の精度は地上10センチメートルと、高性能である。
さらに、画像処理を施すと1センチメートルまで解析可能である。言葉や文字までは、わからない。文明はレベル3の初期のようだ。戦争のような場面もあったが、剣と弓矢が主体で、鉄砲や大砲、爆弾などは無い。
まあ、文化もよく似たものと思われる。
周囲よりひときわ大きい建物があって王城と思われるが、その周りには高い壁が廻らされている。緑の庭園らしきエリアには、四阿があって綺麗なドレスをまとった人々が座っていた。裕福な生活もあるようだ。地上の人の手から、直接炎が出たかのような動作を何度も見た。あれは、炎を出す魔法?。
この星に来る準備として、大金を払って”ひいらぎの魔導書”を手に入れた。
試してみたい。
魔法を使ってみたい。
「ルーレット様。この星で良かったのですか?。何かあっても救助には向かえませんよ。救助に向かうと”ミイラ取りがミイラに”なんてことになりそうですから」
「よいよい、セバス、そこが良いのだ。冒険欲をそそるよ」
”ひいらぎの魔導書”は持った。準備は必要最小限。着の身着のままでダイブしようぜ。
セバスやメイド、母船の乗り組み員など生身の者はコールドスリープ装置に入って、50年後に目覚めるよう設定した。母船は、さらに魔の星から離れた周期軌道に移った。あの太陽らの影響を回避するように。