第1話 未来の君の話
前話から読むことをお勧めします。
セピア暦一九九八年。
舗装された道には、ガスを吹かす自動車が走り、夜を照らす光は松明からガス灯、そして電灯へと変わった。
幾度の世界大戦を経て、フェーリーン大陸の国境は幾度も変わり、文明の発展は止まることはなかった。
あらゆるものが変わりゆく世界で、ただ一つ変わらないのは僕らの家名。
千年前に王国を繁栄と導いた我がベルンシュタイン王家は、今やその城塞都市の中心にあるアカシア神殿の跡地の隣に拠点を移していた。千年の月日で王政はなくなり、資本民主主義社会となった。
オスカー・シリウス・ベルンシュタイン。
狂王と呼ばれた女王の名をミドルネームに持つ、ベルンシュタイン王家の名を持つ十二歳の少年オスカーは、この時、まだ自分の祖先がどんな歴史を作って来たか、深く理解をしていなかった。
オスカーはプライドが高く口の悪い姉レイラと、お調子者の双子の妹ミルティ、セリア。そして何でも口に入れてしまう幼い弟ルーカス。それから呑気な祖父の六人で歴史が残るこの町の一角で暮らしていた。
そして両親は出張と都会への単身赴任と出張が多く、家にいることはほとんどない。
いっそのこと家族で引っ越ししてしまったらと思うわけだが、子どものうちから都会に慣れさせたくないという古き良き教育方針を頑なに守り続ける両親に、子どもたちは逆らうことなどできない。姉のレイラは首都の国立大学を望んでいたが、それはシティライフを楽しみたいだけだとオスカーは気付いていた。まあ、要領が良く気が強いレイラであれば叶わぬ夢ではないだろう。
―――でも僕は、この町を離れる気になれないのはどうしてだろう。
オスカーが過去に遡る前の話です。