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第8話:戦う理由

久しぶりの更新となりました。

 戦に生きたリディアス・ココアニスは残虐だった。

かつては物語に出て来るような誇り高い騎士道を父も貫いていたはずだ。

 若かりし頃は騎士の仲間たちと共に正義を信じ

 しかし、仲間の騎士たちは悉く亡くなった。正義ある戦いも、誉れある死もなかった。

 槍に貫かれ、裏切られ、奸計に陥った。

 しかし父リディアスは生き残った。それは仲間たちが死力を尽くし自分を逃がしたからである。命の価値は等しくなかったのである。

自分は騎士ではなく、領主の跡取りに過ぎないことを思い知らされた。

度重なる青の国との戦の果てに、リディアスは勝利に固執した。剣を鞘に納めることは出来ず、その連鎖の果てに正義を語ることも理想を思い描くこともしなくなった。

戦争は自分の代では終わらぬと悟ったリディアスは、待望の息子に物心つく前から真剣を持たせ、戦う術の全てを叩きこんだ。

 そして十一になり騎士団に入団して間もない息子に。捕らえた敵兵たちの首を斬り落とすように命じた。

 父であり、上官でもあるリディアスにテオは逆らえることはなかった。

「殺すんだ、テオ」

「……」

「お前がやらないのならば、俺がやる」

「——っ、や、やります! 俺が……」

 期待に応えなければ。何より父に失望されたくなかった。

 せめて苦しまない方法で殺すしかない。一撃で心臓を突き、一閃で首を落とす。

 今でも時々夢に見る。懇願する敵兵の目と声。


 きっと、いつか、誰かが戦いを諦めてくれる。 

 戦に生き手柄を立てることだけが、自分の証明になった。


 その数年後。

青の国で最も優れた騎手であるルドルフ・リーガンと、ラピッド川の境界線を巡り、一騎打ちをすることになった。

その実力で王妃の寵愛を受け、テオよりも数年上の精悍な顔立ちの男だ。

何度も渡り合った英傑である。

 勝ったのはテオだった。その日からテオドロス・レグルス・ココアニスは「飛龍の騎士」と呼ばれるようになった。

 その勝利は決して気持ちの良いものではなかった。

 何せラピッド川は子どもでも渡れる程の浅く狭い川で目に見えない境界線上にあるだけなのだから。

 早く、早く、早く。

 この戦争を終わらせたい。


 それから数え切れない戦いの日々を越えた。

 このテレイシオスからはもはや人がいなくなるのではないかと言う程に。

「父上、塹壕に火を放つように命じたというのは本当ですか?」

「ああ、本当だ。お前がガイム戦線でもたついている間にな」

「なんてことを」

「お前は甘すぎる」

「相手は子どもですよ」

「その子どもは二年も経てば戦士になりうる」

「そんな道理のない勝利に一体何の意味があるのです⁉」

「道理などありはしない。私やお前にそれがあるというのか?」

「ならどうしろと言うのです!」

「勝て。それしか道はない」


 勝てば終わる。

 浅い考えしか持たないテオはそう信じて戦を続けた。


 友が子どもの兵士に殺され、自らの手で憎しみのあまり逃げる子どもを弓矢で射殺した時に、何かが壊れた気がした。

 子どもを殺しておいて感じたのは高揚。そしてすぐに襲ったのは絶望だ。

 この時、騎士としての自分はもう終わったのだと。

 この悔恨の想いを父も味わったのだ。

 終わりのないこの連鎖をどうやって断ち切ればいい。

 何もかもが限界だった。


 そしてこの何世代にも及んだ戦を終わらせたのは、英傑でも騎士でもない。

 たった一人の少女だった。

 彼女が新たな女王となったことにより、あらゆる戦が停戦を迎えた。

 鎧を着なくていい朝を迎えたこと、剣を下ろせたことにこれ程の安堵を覚えたことはない。



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