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第5話:ココアニス家


 紅の国の門前には多くの騎士が立ち並んでいる。

 王都の騎士たちよりも恰幅が良く、眼光は鋭い。戦場を生き抜いてきたことを物語っていた。

 荘厳で堅牢な門。複数の見張り台。そして丘の上にそびえる、戦のために備えられた城はまさに戦のための城と言えるだろう。

 石造りが多い王都とは異なり、レンガと花々に満ちている。きっと長い戦の前はもっと豊かで鮮やかな建造物に満ちていたことだろう。

 こんな事態でなければゆっくりと眺めたかったのだが。

 ————なんと声を掛けたらいいのか。

 シリウスは先行して戻っていいとテオに告げるが、しかしテオは「如何なる事態だろうと陛下の傍は離れません」と譲らなかった。

 シリウスの性格上、命令だと言いそうなものだが、その時のテオの表情は騎士のそれではなかった。憔悴しているものではなく、まるで何も考えないように感情に蓋をしているようだった。

「オスカー、何があったの?」

 カルマは恐る恐る小声でオスカーに尋ねた。

「テオのお父さんが亡くなったんだ。だからカルマ。今日は大人しくしていて」

「ふうん、分かった」

「本当に分かってる?」

 最近のカルマは好奇心旺盛で、と言うより落ち着きがなくて活発でオスカーの手に余っていた。


 城門には喪服姿のココアニス家が並んでいた。しかしそこに成人した男性の姿はなく、使用人を除いた全員が女性であった。

「陛下、この度はご足労頂きまして」

 シリウスに一番に挨拶をしたのは年長者の淑女。恐らくリディアス候の長女だ。彼女の腕には幼い男児がいる。

「姉のエイミーです。それから甥のルイス」

リディアスの子は女ばかりで、テオは唯一の男児らしい。

「姉が三人、妹が一人。ルイスは私以来のココアニス家の男児なのです」

 それから客間へと案内され、シリウスは改めてココアニス家に挨拶をした。

「お悔みを」

「父も、陛下にお会いする日を待ち望んでいました。十日程前から体調が優れず…………」

 葬儀には間に合うことはなく、慣わしのとおりすぐに火葬されたため、テオは最後に父の顔を見ることはなかった。

「私に、何かできることは?」

「そんな、陛下。これは予見できた死ですわ。若くもないのに無茶ばかりをしておりましたから」

 男は戦、女は家を守る。古くからの風習を守っている家だとよく分かる。

「長旅でお疲れでしょう。お食事を用意いたしますので、それまでお茶でも」

 夕食には早すぎるが確かに小腹が空いていたから、その誘いはありがたい。

「おい、カルマはどうした?」

「さっきまでそこに…………。探してくる」

 オスカーは呆れたように肩をすくめた。

 オスカーは方々を探してようやくカルマを見つけた。中庭で散歩を楽しんでいた。

「カルマ!」

「見て、たくさん花があるよ、オスカー」

「カルマ。今回の同行は大人しくするって約束だったろ」

「分かってるよ」

 これは分かっていない時の返事だ。

はあ、とオスカーは深いため息を吐いた。確かに美しい庭だけれど、どう見てもこの場所は誰かの部屋に付いている庭、プライベートな場所だ。

「そこの不敬ものども! ここをどこだと心得る!」

 突然、張り上げられた声に、オスカーとカルマはびくりと体が跳ねた。

 カルマと同じくらいの年齢の男装の少女だ。

 きりりとした顔立ち、緋色の髪とその度胸からココアニス家の血族であることは間違いなさそうだ。けれど、目の色が青と金色の異なる左右の目はココアニス家の特徴から外れていた。ヘテロクロミア、と言ってこの時代は嫌われている双眸のはずだ。

「何だい、君は」

 カルマはむっとして言い返した。

「あなたこそ。ここはココアニス家の城よ。許可なく入る何て非常識な!」

 少女はバルコニーから跳んで、くるりと身を翻して着地した。

 ————シリウス並の身の軽さだな。

 一応客人ではあるが、許可もなく庭へと入ったのだから、今回はこちらが悪い。オスカーは弁解をしようとしたのだが、非があるカルマをいつまでも庇ってあげるのも、と思い至った。というより、もう面倒になった。

 こっちだって長旅で疲れているんだから。

「侵入者は私が許さない!」

 問答無用、とばかりに少女は訓練用の木の模造剣を抜いて威勢よく飛び出した。

 まるで悪人を退治する正義の味方のように生き生きとしている。

「覚悟!」


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