第4話:ドラゴンの止まり木
女王シリウス十二歳。
セピア暦一〇一三年、春。
王国統一のため、女王自らが王都を離れ、各小国を巡っている。
後に女王の道と言われる巡礼の一つである。この巡礼は数年に渡って行われ、グラシアールの陸路を発展させる基盤となった。
そして、初めに気候が穏やかな紅の国を赴くことになった。
女王が初めてとなる小国への来訪に、テオはオスカーとカルマを同行することになった。
オスカー含めテオとカルマは一行の中に紛れ、馬車を囲むようにして乗馬していた。
「すごいなあ、歴代の王様はこんなことしてたの?」
「小国を訪れた最後の王は確か、ピュルゴス王じゃなかったかな?」
「違う。メノリアス王だ」
道中、一人馬車の中で引き籠っているシリウスは、一日中不貞腐れていた。
「どうして私だけ馬車の中なんだ」
「仕方ないよ。君は女王、僕らは従者と臣下だから」
小窓から文句を言い続けるシリウスはどうやら窮屈な馬車に飽き飽きしているようで、オスカーとカルマは気晴らしになるだろうと代わるがわるに道中の花を拾ってはシリウスに届けたが、二時間と持たなかった。癇癪を起して、馬車の扉を蹴破るのではないかと内心冷や冷やしている。
「こんな狭いところに閉じ込めて、私が暇で死んでしまったらどうするつもりだ!」
「陛下の身の安全のためでございます。今しばらくご辛抱を」
「そんなことは分かっている!」
ふん、とシリウスは不貞腐れた。
「それにしても、上達したな。カルマ、オスカー。もう俺の補助はいらないだろう」
「クラウディは誰でも上手く乗せるよ」
オスカーが選んだ馬はクラウディと名付けられた栗毛の牡馬で、誰が背に乗っても平然としている呑気な性格だ。食いしん坊だが、馬車を引ける程の力持ちでもある。
「今日はミザリエルがいてくれてよかったよ。こいつ、かっこつけてるみたい」
一方でカルマの馬はペールノエルと名付けられた若い牡馬で、全身が夜のように真っ黒だった。いつもは勝手に走ってしまうのだが、どうやらテオの牝馬のミザリエルが気になるらしく、今日は大人しい。
「陛下、見えてきました。我が国の象徴、ドラゴンの止まり木です」
長い山道の先。
黒く焼け焦げた巨木。見上げると首が痛くなる程に高く聳え、確かにドラゴンを支えられるほど太く思える。黒曜石のようにつやつやしていて、畏怖と神秘性を感じずにはいられない。
「すごい」
「ドラゴンの炎で燃やしても硬質化して、その後も成長しているなんて」
かつてこの地には確かにドラゴンがいたことを物語る生きた神話がそこにあった。
五日の滞在の後、王都へ戻ることとなるため、二日をかけて両国の情勢を、領主であるリディアス・ココアニスと語る予定だったのだが――――。
テレイシオス半島に着いた直後、早馬で紅の国の使者が訪れた。
使者の狼狽ぶりに、皆が戦慄し動揺した。
彼が届けに来たのは、リディアス・ココアニスの訃報であった。