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うぃず・めがっ!【第一部・完】  作者: 煮木 倫太郎
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8.女神様と帰郷(1)

ぜんかいのあらすじ


女神様とたくさんお喋りしたぞ!


 歩き出してからしばらくの間は道がそれなりに険しく、俺は体を半分引き()りながら、ずっと肩で息をしていた。

 道すがら、先ほど後回しにさせてもらった『この世界の説明』が聞きたかったのだが、女神様の後を追うだけでもう精一杯だ。うぁ、喉に血の味がひろがってる。

 一方の女神様はぴょんぴょんと足取りが軽やかで、後ろの俺を気にかけながらも草木を切り開いて道を作ってくれる。たまに木を登って辺りを見渡したり、少々の段差なら軽く飛び乗り手を差し伸べてくれたり。いやもう足取りが軽いどころか身軽を超えている気がするんだが、これも神の御業なのか?

 しかしながら、思ったことを口に出せるほどの余裕は今の俺には無く、まともに会話ができるようになったのは麓まで下りた頃だった。


「道だーーー!」


 林を抜けた先に広がる草原、その奥の方に柵に挟まれた道が見える。

 あぁ、人工物がこんなにも嬉しく思えるなんて、長生きはするもんだな。まあ、一度死んでるけども。


「ここまでくれば一安心ですねぇ。一旦休憩にしましょう。」


 俺とは打って変わって涼しい顔をしながらも、そう提案してくれる。

 きっと俺を気遣っての事だろう、ありがたい。もう女神様の株はストップ高だ。

 そのお言葉にまたもや甘えて、傍にあった岩陰に腰かけることにする。


「ふう、疲れた…。」

「お疲れ様ですぅ。体は大丈夫ですかぁ?」

「おかげさまで悪化はしてないですよ。ありがとうございます。」

「それならよかったですぅ。」


 そう言いながら横に座る女神様。ちなみに、俺とのスペースを人ひとり分きっちりと開けている。

 …もっとこっちに来てもいいのに。


「心のソーシャルディスタンスですねぇ。」


 普通に嫌と言われた方が幾分マシな返しだった。

 でも、それくらいの塩対応では上がった株価は下がらないぞ。むしろご褒美だ。

 そう無理に自分に言い聞かせてから、道中で気になっていたことを女神様に聞いてみた。


「女神様は疲れないんですか?道中もやけに軽快でしたが。」

「えぇ?それなりに疲れてますよぉ?でもまあ、普通の人よりは元気ですねぇ。」

「へぇ…、それはやっぱり神の力ってことです?」

「いえいえ、そういうわけではないですねぇ。というか、雄介さんにもいつか身に付きますよ?」

「俺にも?」


 そういえば、さっきも似たようなことを言われたな。

 何だっけ?えーと…イノシシの撃退をした時だったか?


「はい、イノシシの撃退時に使ったのと似たようなものですぅ。」

「それが、俺にもできるってことでしたっけ?」

「はい、そうですぅ。じゃあ少し説明しますね。」


 そう言った女神様はポンチョの中でごそごそし始める。何してるんだろう。

 ポンチョの下で行われているあれやこれやを想像しながら大人しく待つ。なんかエッチだ。


「エッチなのはあなたの頭ですよぉ。あ、ありましたぁ。」


 と言ってメモ帳を取り出す。

 どこにしまってたんだろう、バッグ的な物は持ってなかった気がするけど…。ポッケでもあったのかな?


「えーと…。雄介さんは、猫の前世の記憶を思い出してますよね?」

「はい、50年ほど前にですが。」

「正確には更にもう20年ほど前になりますねぇ。」


 あれ、70年ほど前になるの?どこで計算間違った?


「その説明をすると少し長くなるので、今回は後回しにしてください。というかぁ、しっかり考えればわ分かりますよぉ、川で休んだ時も軽く話題にしましたし。それはさておきぃ。記憶って言うのはぁ、魂に刻まれるって話もしましたよね?」


 え?そんなこと言ってたっけ?うーん…。

 まあ釈然としないが、いずれ教えてくれるなら今回はスルーしよう。

 それで、なんだっけ。魂に記憶が保存されるって話だったっけ?


「んー。そんなことも、言ってた気がしますね。正直あまり覚えてませんが。」

「雄介さんが昔聞いたんじゃないですか!」

「そうでしたっけ?」

「まぁ、いいですぅ。それでぇですね。魂に刻まれた記憶は、今の体でも引き出せるんですよぉ。」

「おお?」

「簡単に言えばぁ、猫の力がそれなりに使えると思いますよぉ?」

「おお!」


 しっかりあったのか不思議パワー。

 どれどれと、おもむろに両の掌を顔の前に持ってきて、ぐぱぐぱしてみる。

 …。

 ―ん?特に変わったことは、ないぞ?

 両手の位置はそのままに女神様の方へ首を回し、目で助けを求める。

 

「そんなチワワみたいな目で見られましてもぉ…。―はぁ。じゃあ、うーん…、そうですねぇ。では、ねこがパンチを繰り出すさまを想像してみてください?」

「は、はい…。」


 今の俺は女神様に服従の身である。女神様のいう事は絶対。言われるままに想像を始める。

 ねこが猫パンチ…。

 こんな日のために動画サイトでナショジオを見まくっていた俺に死角は無い。土曜夜7時も毎週Eテレを見てたしな。容易にドラマチックな猫パンチが想像できるぜ。


「無駄な努力が無駄に役に立ってるなんて、なんか釈然としませんねぇ。まあいいです、ではそのイメージを保ったままパンチを出してみましょう。」


 ―ブンッ!

 右手が人の限界を超えた動きで猫パンチの軌道を描いた。

 おお!


「わぁ!雄介さん、センスありますねぇ、一発でなんて。平々凡々設定はどこ行ったんですぅ?」

「おおおおお。すげぇ!よくわかんないけど、なんかすげぇ!」

「語彙がお亡くなりになってますよぉ。」

「あ、でも、うで。腕痛いです。」

「まあ、ケガしてますからねぇ。」


 でも、嬉しかったのでもう一発だけ…

 ―ブンッ!

 おお!すげぇ!カッコいい!しかもノーモーションで出るぞこれ!

 そしてイタイ!!


「平常時であれば、痛みもなく普通に使えると思いますよぉ。」

「ほんとですか!?」


 なんか異世界転生って感じがしてきたぞ。

 これこれ、こういうのを待ってたんだ。魔法が使えなかったときは落胆したけど、やればできるじゃないか異世界!


「いや、異世界は関係なくぅ、地球でもなめこ事故の後なら使えたんですけどねぇ。」

「ほへ?異世界に来たからじゃなく?」

「はいぃ。使えましたよぉあの時から。」

「えええ!どうして教えてくれなかったんですか?」

「あんな平和な日本で使われたら、世界に混乱を招くだけじゃないですかぁ。」

「…。ああ、はい。ソウデスネ。」


 なんだ。がっかりだ。がっかりだよ。

 何もやってないじゃん異世界…。


「慣れれば、身体能力はそれなりに猫に近づけると思いますよぉ。威力もねこのパンチを人間サイズで出せますので中々のもんですぅ。」

「へぇ~…。ああ、だから猪も撃退できたんですね。」

「いえ、あれは上手い事目に当てられたからですねぇ。もし外れてたら、すぐには逃げてくれなかったかと。」

「なるほど…。あ、女神様!」


 ビシッと手を挙げる俺。

 いきなりの大声にビクッとした女神様がかわいい。


「は、はい…何でしょう?」

「必殺技名を考える時間を少しください!」

「え?い、いや、まあ、別に良いですけどぉ…。少し落ち着いてくださいね。」


 引き気味の女神様から了承を得た俺は、待ってましたとばかりに熟考に入る。

 どうする?名前どうする?魔法じゃなかったけど、念願のスキルをゲットしたんだ。しっかり考えて上げないと!

 うーん…。

 ―あ。そうだっ!

 『虎猫の拳(タビィブロウ)』とかどうだ?最初に思いついたにしては、中々のもんだ!そうだろ?

 よしこれにしよう!決定!!


「『ぬこぱんち』」

「へ?」

「『ぬこぱんち』にしましょうぅ~。」


 いつもの甘ったるい声で、甘ったるい技名を提案された。


「いやいやいや。嫌ですよ!技名ですよ?ちゃんと中二っぽい、それにするんです!」

「82歳じゃないですかぁ」

「17歳です!技名も今考え付いたんですよ!『虎猫の拳(タビィブロウ)』って言うんです!中々のもんじゃないですか?」

「むぅ…。『ぬこぱんち』にしてくれないんですかぁ?」

「そんな目で見てもこれだけは譲れません!そもそもカッコ悪いじゃないですか!『ぬこぱんち』っていいながら殴るなんて!」

「もぉ、仕方ないですねぇ…。」


 そう言った女神様は、むくれつつも何故か俺にゆっくりと近づいて、そっと両手を差し伸べてくる。

 ―え?なに?何されるの俺?

 どう対応したものかと戸惑っている間にも、女神様との距離はどんどん狭まっている。

 そしてついに何も思い浮かばないまま、女神様の伸ばした御手が俺の両頬にそっと添えられた。―あ、ぷにぷにで気持ちいい。


「雄介さん…。恥ずかしいのでぇ、目、瞑ってくれませんかぁ?」


 やさしく俺に語り掛けながら、少しだけ淫靡な息遣いで、女神様はそのかわいいご尊顔を近づけてくる。

 えーうそうそ!どういうこと!?何でいきなりこんな展開になってるの?

 心臓!心臓がバクバク言い過ぎて止まりそう。というか転生前の老体だったら、絶対止まってるよ!


「雄介…さん?」


 目の前で俺の名前を呟く。

 そして、その俺の名前が乗った吐息が鼻に届きそうな距離にまで、既にお顔が迫ってきている。―ああ、きめ細やかな肌がきれいだ。

 いやいやいや、とにかく目か。目を瞑るのか。このまま彼女のお顔を見ていたいけど、女神様のご所望だ、しないわけにはいかない。

 俺は名残惜しくもギュッと瞼に力を入れる。

 すると視界が閉じられたことで、彼女のぬくもりがより一層強く感じられる。あああああ。

 ―ごめんっ、雪江!

 何故か雪江に謝罪を入れた俺は、この後に来るであろう優しい刺激を漏らすことなく堪能しようと、全神経を唇に集中させ―。


―ズボッ

「んんっ!?」


 いきなり両耳に指を突っ込まれた。


―ガンッ!

「あ゛だっ!」


 おでこに衝撃!!

 あれ?甘い刺激はどこ行った?

 混乱している俺を尻目に、女神様はヘッドバットを食らわせた状態のまま、例の()を紡いだ。


「はいっ。おわりましたよぉ。」


 謎呪文を唱え終えて俺から離れていく女神様。


「…終わりましたよって、何がですか?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔というのは想像しにくくて、その表現に対しいつも首を傾げていた俺だったっが、今まさにその表情を身をもって再現しているんだろう。

 女神様が遠ざかってしまう、その名残惜しさすら感じる余裕が無かった。

 え?俺、何かされたのか?

 いや、すげードキドキさせられたけども。肩透かし喰らったけども!


「先ほどの雄介さんのテンパり具合はぁ、確かにおもしろかったですぅ。」

「あんなこといきなりされたら、誰でもああなるでしょう!というか、いったい何だったんですか!」

「ちょっと、『ぬこぱんち』を出してみてくださいぃ。」

「…だから『虎猫の拳(タビィブロウ)』ですって。」


 と訂正をいれつつ、女神様の言う通りにしてみる。

 まず息を整え、精神を集中させて…。命名後、初の一発だ。かっこよく決めなければ!

 俺はもう一度大きく息を吸って、技名を叫ぶ準備をする。いくぞっ!―『虎猫の拳(タビィブロウ)!!』


「『ぬこぱんち!』」


 俺の口から出た言葉は、思い描いていたものとは全く違っていた。

 …。

 ……。

 ええーーーっ!どういうこと!?何されたの俺?


「『ぬこぱんち!』」


 もう一発出してみる。結果は同じだった。何で!?


「何したんですか!女神様!!」


 十中八九犯人であろう相手に大声で問い詰めたが、当の本人は腹を抱えて俺に背を向けていた。


「―ちょっと?女神様?」


 全身が小刻みに震えてらっしゃるんですが…。


「ぶはっ!もうだめですぅ。我慢できません。あは、あはははは。キメ顔でぬこぱんちって叫んでました。あははは。お腹痛いですぅ。雄介さん、私を笑い死にさせるつもりですかぁ?あははははは。」

「いや、面白くないですよ!っていうか、女神様が何かやったせいですよね?」

「あははははっは。はいぃ、そうですぅ。あははは。」

「笑ってないで戻してください!」

「お断りしますぅ。あははは。ああぁでもでもぉ、無言でも一応出せますよ。頑張れば。ぶふっ!」


 お断りされた。

 …とにかく、女神様に言われた通り、頑張って無言で一発撃ってみよう。


「あはは。気合で口を閉じててくださいねぇ。」


 目じりを拭いながらのアドバイス。いや、アドバイスするなら元に戻して欲しい。

 とにかく、言われたとおりに口をしっかり閉じ、再び虎猫の拳(タビィブロウ)もとい、ぬこぱんちを繰り出す。


 ―ブオンッ!

 (『ぬこぱんち!』)


 …唖然とした。

 技を出したと同時に、脳内で『ぬこぱんち』の音声が女神様のかわいいお声で再生された。


「あははっははは。ポカーンってしてますぅ!あはははは。」


 女神様はもう笑い上戸だ。地面をたたきながら息するのも苦しそうである。

 はぁ…。まぁ、紆余曲折あったが、こうして俺は無事?に初スキル『ぬこぱんち』を習得できたのだった。

 休憩もそこそこに、そろそろ出発しないとな。

 といっても、とりあえずは女神様の腹筋待ちなんだけど。


                                        ―続―

スキルを覚えたぞ!やったね!


基本的にプロット通りの進行をしていない謎小説ですが

このスキル覚える辺りは、執筆前の予定とほとんど変わってないと思います

それでも一応いろいろ考えながら書いてますので

今後も読んでくださると嬉しい限りです。

では、ありがとうございました。


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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします

すると次回は少し早く上がるかもしれません。

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