29.女神様とあとがたり(2)
ぜんかいのあらすじ
女神様とだらだらしてたら
おっさんが目を覚ましたよ
「なあユウ、一体どうなってんだ、こりゃ。あの『う、さぎ』はお前がやったのか?それに、そちらのけったいな髪の嬢ちゃんは誰だ?マオさんはどうした?」
女神様と一通りじゃれ通し、ようやく一息ついた頃におっさんから声をかけられた。
その声に振り向くと、おっさんは上半身を右手で支えながらも、なんとかそれを起こすことに成功したらしい。見る限りには命に別状はないようだ、よかった。
―いや、よくないな。
何しろ、投げかけられた先ほどの疑問は、俺たち二人を固まらせるに十分なものである。
さて、どうしたものか。
俺は返答に詰まり、助けを求めるように女神様を見やると、その女神様も引き攣った顔で固まっている。
おぉ、珍しく女神様が困ってるぞ。
そもそもこんなミス自体がらしくない。相当お疲れのようだ。
「マオ、全部話してもいいですか?」
俺は息を一つ大きく吸い、動けずにいた女神様をあえてマオと呼んで、許可を求める。
おっさんへの状況説明を兼ねて、マオという呼称で読んだが、それよりも女神様の退路を無くす為の方が大きかった。
この場をごまかせる理由なんて、でっち上げられそうにないし、それに―。
命の恩人に、いや、おっさんにもう隠し事はしたくない。
「はいぃ、わかりましたぁ。お任せしますぅ。」
そんな俺の覚悟が伝わったのか、女神様はすんなり提案を受け入れてくれた。
というわけで、俺はおっさんにこれまでの経緯をかいつまんで説明することと相成った。
で、どこから話すのかって?
そうだな―、最初からがいいと思う。
「―へぇ、なるほどねぇ。いや、まだ納得は出来ねぇが、まあ分かった。」
十数分後、俺の話を一通り聞き終わったおっさんは、眉間に皺を寄せながらも一応は理解したという体をとってくれる。
そりゃそうだよな。こんな話、すんなり信じられるわけない。
「今のユウは、ユウじゃなくて雄介という人間で、それは遥か遠い星から転生を果たした人間だ、と。ユウの誕生日から雄介はユウの体にユウと同居していて、いずれ一つに融合するはずだったのが、そうなる前にあの事件があり、ユウが閉じこもってしまった。それに加えて雄介も記憶喪失になり、その現状を憂いた女神がこの星に降り立った。それがマオさんだ、と。」
「…うん。そういうこと。」
「普通は信じられねえって一蹴するところだが―。」
そこで話を区切ったおっさんは、マオに目を移す。
それから後ろを振り返って、すこし遠くで胸を貫かれた『う、さぎ』に目をやった。
それにしても、俺が十数分かけた説明を一息でまとめるとは…。おっさんはホントに頭がキレるな。
「―さっきの嬢ちゃんが目の前でマオさんに変わったのと、後ろの『う、さぎ』の死体。これを見せられたらなぁ…。あれはユウ…じゃなくて、あー…雄介、が例の前世の力ってやつでやったんだろ?」
「えーと、俺も信じられないけど、一応。」
「…。あー、頭がおかしくなりそうだ。」
わしゃわしゃと頭を掻きむしりながら、おっさんはさらに続けた。
「そもそもだ!なんで俺がここにいるのか分かるか?」
「え?いや、それは俺も聞きたかった事なんだけど。」
なぜ来てくれたか分からないけど、おかげで命が助かったのは分かる。
「それはな―。」
「あ、ちょっとまって、おっさん!さっきは、助けてくれてありがとう。おっさんがいなかったら、たぶんあそこでやられてた。」
「ああ、そうだ!お前ら、『う、さぎ』に遭遇したら逃げるって言ってたのに、なんで戦ってんだ!死んだらどうするんだ!」
「え?あ、いや、それは…。『う、さぎ』を放置したら村が危ないと思ったからで…。」
「村の事は、村のやつら全員で対策を練るんだ!『う、さぎ』も今村で対策を練ってたところだ!一人で無茶をするな!雄介も一応村の一員なら、しっかり覚えておけ!わかったな!」
「う、うん。気を、付けるよ。」
怒られた。
齢80を超えて大の大人に怒られるって、なかなかメンタルにくるもんがあるぞ…。
「ただ、まあ。村への恩返しっていう気持ちは凄く嬉しいもんだ。ユウの中に居るっていう雄介って奴が悪い奴じゃないことは分かったよ。それに―、現に村への脅威は去ったわけだしな。礼を言う。」
「いや、礼をしたいのは俺の方で―。って、あーいや、この話はお互いさまってことにして、話の続きを聞きたいんだけど。」
怒られて、礼を言われて、うーん、なんともバツが悪い。
とにかく話を進めよう。
「ああ、そうだな。えーとたしか、何で俺がここに来たかって話だったか。それはな、お前たち二人が怪しかったからだよ。だから様子を伺いに俺が来たんだ。」
「へ?」
まさかの理由だった。
てっきり心配して追ってきてくれたのばかりと思っていたのに。
「いや、それも間違ってねえよ、むしろ俺がここにきた理由の半分以上はそれだ。ただ、村の連中はそうじゃない。奴隷商人の襲撃から一人生き残った奴が、記憶を無くしてるって言うんだ、怪しいと思うに決まっているだろう。そもそも、記憶を無くすって創作の話でしか聞いたことが無いやつがほとんどだ、そいつらにはお前が気持ち悪く映ってるさ。ユウの家族と親しくない奴らには特にだ。お前に悪魔が憑りついてるんじゃないかって、そういったやつらの中では持ち切りだったぞ―。」
どうやら、そんな人たちをおっさんが抑えていてくれたらしい。
今朝村を散歩した時、みんなからの注目を一身に浴びてたけど、実はそういう意味が込められていたのか…。
マオも、この村の人に既に信用して貰えてましたぁとか言っていたが、結局それもユウの家族と親しい人達だけに、という事だったらしい。何百人と人口がいるんだもんな、俺もマオも都合よく考え過ぎていたようだ。
俺に声を掛けてくれた人たちも、その親しい間柄だった人たちに過ぎないってことか。
何が『俺はアイドルマスターだ』、だ。恥ずかしい。IDOL(間違った認識)マスターじゃないか。
「まあ、何かあった時は俺がジョーさんの代わりになるって、昔からジョーさんとの約束だったからな。ユウに何があろうと、ユウを守るのは俺の義務みたいなもんだ。気にするな。それでも、俺もお前たちの仲の良さに怪しさを感じてたのは確かだからな。村の代表として様子を見に、こうやって後を付けてきたってわけだ。ただまあ、追いついた時にはユウがピンチだったから、そのまま盾を構えて突撃する羽目になったが。」
そしてユウに起こっていたことは俺の想像の斜め上を行っていたがな、と続けるおっさん。
文字通りに、頭を抱え込んでしまってもいる。
なんかほんとに申し訳ない。
「雄介さんと仲がいいって見られてたのは、なかなかに遺憾ですね。」
―いや、そこっ!?
今の説明受けて、引っかかるところそこ?
こんな時に何言ってるんですか!久々に喋ったと思ったら、この人はもうっ!
しかもギリギリ俺にだけ聞こえるようにボソッと言ったのが、たちが悪いなあ!
そんなマオの呟きが聞こえてないおっさんは、気にせず話を進める。
「まあ、わかったよ。信じることにする、というか信じるしかない状況だしな。それに、ユウがどうなろうと守るのは俺の役目だ。だから安心しろ、村の奴らには俺が上手い事言っといてやる。」
「ありがとう、助かるよ。えーとライルさん。」
「だから、おっさんでいいって言ってるだろう。よく分かりはしないが、雄介もユウも同一人物なんだろ?じゃあ、今更変える必要はないさ。それに、俺に対するその喋り方は間違いなくユウそのものだ。むしろ今まで通りで頼むよ。」
「わかった。ありがとう、おっさん!」
「ああ。」
ジョーさんとおっさんの間に何があったかは知る由もないが、こんな荒唐無稽な話をされても俺を信じるくらいに固い約束があったんだろう。
父であるジョーと、おっさんの偉大さに感動を覚える。
―ふたりとも、本当にありがとう。
「で、マオさん。話によると『う、さぎ』から一撃貰ったらしいが、打ち身程度で済んでるのはなんでだ?大盾を構えた俺でさえ、今まで意識が飛んでたんだ。例の神?の御力ってことか?」
あ、たしかに。
カプサイシンとの死闘で、そこまで頭が回ってなかった。
「え?いえ、そんな大層なことじゃないですよ、ここでは人間と大して変わりませんし。ただ、そうですね、私は雄介さんから見て左側から『う、さぎ』に飛び込んだんです。雄介さんを殴ろうと『う、さぎ』が振り上げたのは右腕でしたからね、その攻撃を出だしで受けただけです。攻撃の出だしはまだ力が乗ってませんから、飛ばされる程度で済みました。」
「はあ、なるほどねぇ。さすがはマオさんと言った所か。」
実際はそれだけではなく、インパクトの瞬間体を捻ってかかる力を受け流していたらしい。
後から俺はそう説明を受けた。
相変わらず器用で関心するな。俺もここぞというときに真似してみよう。
「じゃあ話も済んだことだし、村に戻るとするか!…と、その前に、だ。二人とも、『う、さぎ』の皮を剥ぐのを手伝ってくれ。高く売れるんだ。」
高く売れるなら仕方ない。
俺とマオは疲れた体を押して、おっさんと一緒に川まで『う、さぎ』を引きずる。
三人がかりでも引きずるのが大変なこの重さが、倒した敵の強大さを物語っていた。ほんとよく、無事だったな俺たち。
それからしばらくは『う、さぎ』の皮を剥ぐ作業が続いた。作業自体は初めてだが、俺は動物の解体にあまり抵抗が無いらしい。
だから、おっさんの指示に従って黙々と作業を行えた。命令に従うのは前世からの得意技だ。
あ、そういえばさっきの一撃に技名を付けないとだけど―。まあ、落ち着いてからでいいか。
「―雄介、マオさん。肉はそれほど旨くないが、少し食ってくか?内臓はもう時間が経ってて無理だが。」
川の中での作業中、半分ほど川が捲れた辺りで、おっさんがそう提案してくれる。
いつの間にか随分と作業が進んでいたようだ。
熊肉かー。北海道の熊肉カレーは個人的にあまり好きじゃなかったけどなあ、でも今はお腹空いてるし―。
「じゃあ、遠慮なく。」
一応悩むふりをしてみたが、食欲に加え好奇心にも抗えなかった。
日々キノコや山菜を取ってた俺には、ジビエにも興味津々だ。
未知の世界の未知の動物の肉、食べてみたいに決まっている。
「おう、じゃあコレ焼いてくれ。こっちの作業はもう終わるから、あとは任せろ。」
ドンっ!と切り出された肉を放られる。
いわゆるブロック肉だ。初めて見る。
いや、そもそもクマの解体自体を初めて見たんだけどね。すごい迫力でした。
それでもおっさんが言うには、川の上だから完璧にとはいかないらしい。取れるとこだけ取るとのことだ。
なるほど、だからもう作業は終わりなのか。まだ中盤くらいだと思ってた。日本の現代人にはよく分からない話だな。
「さ、雄介さん。焼きますよ。」
マオはもう食事モードらしく、すでにブロック肉を薄切りにする作業に取り掛かっていた。
俺みたいに感慨に浸るという事は無いっぽい。
あーそういえば、クマの解体の時も慣れた手つきで手伝ってたよな。
…おそらく、というか間違いなく、今回が初めてじゃないんだろう。どんな経験を積んでるのか想像もつかないけど。
いやいや。とにかく、肉だ。俺も準備に取り掛かろう。
「マオ!俺が肉薄切りにします!マオは焼く道具の方をお願い。そっちは勝手が分からないから!」
「あー、はいはい。わかりましたよ!」
肉の焼ける臭いが、辺りに漂い始める。
温められた油が溶けて滴り、石の上でジューッとはじけた。
ああ、見るからに旨そうだ。
一仕事、いや一仕事どころではないけど、仕事を終えた後の肉はきっと上手いに違いない。
さあ、大自然で取れたてBBQの開催だ!
―続―
お疲れ様でした。
一応今までのいろいろを、
いろいろ回収してるつもりです。
回収しきれない箇所は、次の章以降で回収するんだと思います。きっと。
とにかく、次話で一旦区切りとなります。
よろしくお願いいたします。
では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回もお待ちしています。
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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします
すると次回は少し早く上がるかもしれません。




