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うぃず・めがっ!【第一部・完】  作者: 煮木 倫太郎
25/30

25.女神様とうさぎ(1)

ぜんかいのあらすじ


妹見つかんない。かなしす。


「この辺ですかねー。」

「ああ、はい。見覚えありますね、この木。あの絶望に満ちた時、俺はこの木にすべてを預けて、気絶したはずです。この木以外に縋るものがありませんでした。‥いや、もうこの木が俺の全てでした。」

「言い方。」


 なにアホな事言ってるんですか、と眉をへの字に曲げながらそう言うマオを尻目に、俺は見覚えのある懐かしい木の根元に歩み寄った。

 森を徒歩で歩き始めてから十五分ほど経っただろうか。残念なことにルイを見つける事は出来なかったが、数日前俺が森の中で意識を取り戻した時に背を預けていた大きな木、その木に再び相見(あいまみ)えることができた。

 その再開からもたらされた何とも言えない感情。そのせいかは分からないが、気が付くと俺は、その腕が回らない程太い幹に軽く手をかけていた。


「すごい…。」


 強い生命力にあてられ、ふと自然に零れた言葉。そしてその力強さは、俺に視線を強制的に上へと向かせるに十分すぎるものだった。

 ―ああ。これほど大きくなるのに、どれだけの年月がかかったんだろうか。

 視界一杯に広がる、緑一色。

 地上からでは決してその全貌を視覚に収めきれない程の、大きく立派な木だった。

 けれど、こうして自然のパワーに圧倒される一方で、俺はなんとも複雑な気持ちも感じている。

 ―そうか、ここから全てが始まったんだ。

 “始まりの場所”―そう思うと感慨深いところはあるが、それとは別に、ここは絶望に暮れてすべてを投げだした場所でもあったのだ。

 感情が入り乱れて仕方ない。

 この気持ちを、これ以上言葉するのは、難しい。それに―。


「ここは、ルイのリボンを拾った場所でもあったんですね。」

「そうなりますね。」


 マオが相槌を打ってくれる。

 つまり、そういうことだ。

 声が潰れそうなほどルイの名前を叫び、記憶を無くしてからも彷徨い続けて尚、ルイを見つけるに至らなかった場所。

 それが、ここなのだ。

 その事実が、ルイの見つかる可能性がほぼない事を、嫌でも俺に知らしめてくる。

 ―それでも、諦めてたまるかっ!


「ルイ―っ!」


 あの時と同じように、幾度となく叫ぶ。

 何度も、何度も叫ぶ。

 それでも、ルイの姿が現れるはずが無い。分かってたことだ。


「ル、イ―っ!」

「もう、それくらいにしましょう。」


 もう何度叫んだか分からなくなった頃、木に登って周りを見渡してくれていたマオが、ストンと降りてきて俺を(なだ)めてくる。

 その顔は、少し泣きそうな顔に見えなくもなかった。


「…はい。付き合わせてしまって、すみません。無駄―、とは分ってたんですけどね。」

「無駄、なんてことはありませんよ。可能性はゼロではありませんでしたし、結果は…残念ですけど、雄介さんが先に進むために必要なことだと思います。」

「そう…、ですね。それに!」


 思った以上に大きく発せられた声に驚き、少し深呼吸を挟む。


「…それにまだ、いや、近くにはいないかもですが。それでも、どこかで生きてる可能性もありますからね。」 

「はい。まだ、諦めるには早いです。」

「ありがとうございます。…あ、このあたりを、もう少し見て回っていいですか?なにか手がかりがあるかもしれませんし。」

 

 何もない可能性の方が圧倒的に高いのは、言うまでもない。けど、出来ることは全てやっておきたい。

 でも。それにしても、何が俺をここまでさせるんだろうか。

 ユウの事を他人事(ひとごと)にしか思えなかったはずで、そんな自分に辟易していて。

 ―もしかして、そんな冷酷な自分への罪悪感、からか?


「まぁ、それもあるでしょうけど。それよりきっと、たとえ記憶を無くしてても、やっぱり魂が同じだからじゃないでしょうか。ちゃんと雄介さんとユウさんは繋がってるんですよ。」

「そう―、なんですかね。」


 簡単には納得はできないけど、そう思っておくことにしよう。

 そうじゃないと、先へ進めない。誰も、得しない。


「はい、それでいいと思います。では、私も周り探すのお手伝いしますよ。」

「お願いします。」

 

 ―それから30分程、二人で辺りを調べて歩いた。

 結果から言えば、ルイは見つからないどころか手がかりの一つさえ見つからなかったのだが、それもやはり予想通りで、改めて落ち込むほどではなかったのが救いだ。

 あの別れから何日も経ってるんだ、そりゃ何も見つからないさ。


「マオーっ。」

「はいはーい。」


 もう終わりにしようかとマオに呼びかけると、元気に返ってきた返事の少し後、俺の反対側の方からゴソゴソと茂みをかき分けてマオが俺の元に戻って来た。


「やっぱり何も見つかりませんでしたね。…そろそろ帰りましょう、手伝ってもらってありがとうございました。」

「感謝してください。って言いたいところですが、今回は当たり前の事をしただけですので、気にしないでください。と言っておきます。」


 そのいつもと変わらない返事に、俺は少し笑みを浮かべる。

 これくらい軽い返事をしてくれた方が、むしろ気が楽だ。おそらくこのお方は、俺のこんな性格を分かってて言ってるんだろう。

 うーん…でも、だとすると、俺ってすごく分かりやすい人間ってことになるのか?

 もっとミステリアスでありたいんだけど…。だって、そっちの方がカッコいいじゃん?


「それがカッコいいかはさておき、雄介さんには似合いませんよ。それに気を遣ってもいません。私だって、沈んだままの雰囲気でいたくないですからね、適度におちゃらけてるだけですよ。それが雄介さんの心を楽にしてるんだったら、不本意ですが、意外と私と気が合っちゃうんでしょうね。不本意ですが。」

「なんで不本意って二回も言うんです?俺は光栄ですよ?」

「そんなこと言い出すから、二回言ったんですよ!」


 意味ありませんでしたけど、っとムスっとした声で付け足すマオ。

 大事なことだから二回言ったんじゃないなら、きっと照れ隠しだ。ここは喜んでおこう。


「ところで、マオ。さっきからずっと考えてたんですけど。」


 さっきというのは、辺りで手がかりを探していた時の事だ。


「ルイは奴隷商人に捕まったって、考えられませんか。」


 正直考えたくは無いシチュエーションだけど、それならまだ生きている公算が高い。少なくとも、一人山を彷徨うよりは、確率が高いだろう。


「うーん、何とも言えませんね。根拠はあるんですか?」

「いえ。一旦村に帰って、皆に確認をしないと何とも言えないんですが…。」


 一応は、根拠らしいことも考えている。

 マオはそれを悟ってか、無言で俺に続きを促してきた。


「まず、ですね。奴隷商人三人の内の一人だけ、死体が見つかってないんじゃないかと思うんですよ。もっと言うと、ヨウコさんが身を(てい)して止めたはずの人のですね。ヨウコさんはあの時、武器になるようなものは持ってませんでしたし…。」

「ああ、確かにそうですね。」


 俺の推論を聞いたマオはその場で腕を組み、片手を顎に当て少し顔を伏せる。どうやら、可能性を探っているようだ。

 そんな女神様に、俺は更に情報を付け加える。


「それに、馬車です。奴隷商人の馬車。これも村の人に確認を取らないとですが、俺たちが森から村に戻ろうとおっさんの馬車で街道を通ったあの時、その奴隷商人の馬車を見かけませんでした。記憶では路上に停車してたはずなのに、です。まあ、もしかしたら村人が先に回収したのかもしれませんが、村に帰った時のクルトの様子からその可能性は低いんじゃないかと。ということは、その生き残った一人が乗って帰ったのかも?と思ったんです。」

「…。」


 そう言い終わると、マオは伏せていた顔を上げ、丸くした目を俺に向けてきた。


「…雄介さん、意外と考えてるんですね。正直、見直しました。」


 ん?

 なんかニュアンスにトゲがある気がするが、一応は褒められたらしいので素直に受け取る。

 とにかく、それほど的外れではないっぽいぞ。


「まあ、商人らの馬車に御者か誰かがもう一人乗っていた、という可能性も十分残ってますが、それを加味しても悪くない考えだと思います。ルイちゃんを諦めない理由には十分です。ルイちゃんの遺体も見つかってないですしね。」


 マオの意見を聞き、ホッと一安心する。

 賛成されなかったらどうしようかと、結構ドキドキだったのだ。


「良かったです、納得してくれて。ルイをまだ諦められませんでしたから。」


 ルイを守るのが、ユウとの約束だ。

 いや、約束というほどのものではなかったが、これくらいしかユウにしてあげられることはなかったので、何とかルイを探し続けたかったのだ。


「私だって諦めたくなかったですよ。現に私も色々と可能性を考えていましたし。残念ながら、いい案は出てきませんでしたが。…雄介さんに負けたみたいで、なんか癪ですね。」


 ドヤ顔しておこう!ドヤッ!


「うわー、ウザいですねー。」

「ウザいとか言わないでくださいよ。まあ、それはさておき、これで今後の方針は決まりましたね。まず山を下り―。」

 『うう゛う゛ぉおおお、おおお゛ぉう…』


 すると突然、俺のセリフを遮るように遠くから低い唸り声が響いた。

 瞬間的に、背筋が泡立つ。

 その異様な声は、明らかに俺たちの身に降りかかるだろう危険を孕んでいた。


「聞こえ…、ましたよね?」


 マオの問いかけに、神妙な頷きで返事を返す。

 

「正直、今すごく嫌な考えが頭を(よぎ)ってるんですが、それはおいといて…。一旦確認の為、木に登りましょう。さっきの唸り声から察するに、おそらくまだそれほど近くはないはずです。」


 そう静かに言ったマオは、例の木を指さす。

 俺はその提案にまたもや頷きだけで返事をし、マオに先に上るよう促した。

 

「かなり上まで登るので、落ちないよう気を付けてください。」


 そう言付けて、木をスルスルと登っていくマオ。

 その見事な木登りを見届けた後、俺も同じコースを辿って上で待つマオに追いつく。

 うん、下から見上げて感じた通り、かなり大きな木だ。周りの木々を追い越しても尚、枝に座れるくらいの頑丈さがある。

 現にマオはその太い枝に腰をかけ、俺を待っていてくれた。

 こっちに来いと、手招きしている。


「お待たせしました。」

「いえ、今来たとこですよ。って、そうじゃなくて、あれ見えます?」


 ノリのいいマオが指さす先に、顔を向けて目を凝らす。

 木々が少し開けたところに流れる川の岸に、一つの大きな生物の影。あれは…、クマか?


「雄介さん、一つ確認ですが…。ウサギの注意勧告の紙、ちゃんと見ました?」

「え?…見ました、けど?」


 ん?

 なんでそんなこと聞くんだ?

 ちゃんと見たぞ?ウサギって書いてあったぞ?

 

「『う』と『さぎ』の間に『、』が入ってなかったですか?」


 顔を引きつらせながら、更に問いかけてくる。


「うん?…ええ、入ってましたね。それがどうかしました?」

「はぁ、やっぱり。『うさぎ』と『う、さぎ』は…別の動物です。今後、覚えておいてください。」

「え?という事は…。」


 ため息と共に口調が少し重くなったマオは、遠くに見えるクマらしき陰に視線を向けながら―。


「アレが、『う、さぎ』です。」


 と言い放った。


「クマじゃないですか!!」

「ええ、クマですね。クマの中で特に好戦的な種族、今見えてるアレですけど、アレを一般的に『う、さぎ』と呼んでいます。」


 なんじゃそりゃ!詐欺じゃないか!!


「ええ、そうですね、その通りです。この地域では『うさぎ』は美味として重宝されてまして、昔から『うさぎ』を見たと嘘をついては、あのクマの所に誘い出し、憎い相手を殺させたという事件が相次ぎました。そう言った話から、あの種類のクマだけ特別に『う、さぎ』と呼ばれるようになったらしいです。まあ、いわゆる昔ばなしで、ただの通説ですが。」

「紛らわしいっ!」 


 そんなダジャレみたいな、名前の付き方したのかよ。

 ダジャレどころか、数多のファンタジー小説で使い倒されたような、手垢塗れの名前じゃないか!この名前考えた奴、面白いと思ってんのか!?ふざけてるとしか思えないんだが!!


「いや、地球の生物の名前も大差ないと思いますが。モドキとか多すぎません?」

「確かにそうですけど!!」


 そうなんだけど!

 なんか納得いかない!


「で!?アレはヤバいんですよね?地球のよりも!」

「いや、私にキレないでくださいよ、もう…。あー、はい、ヤバいです。なるべく気付かれたくないです。そもそも実際の所、普通の『うさぎ』でさえ一般人では手に余ります。いわんや、クマをです。雑食ですよ、ここでも変わらず。」

 

 正直、最後の豆知識は聞きたくなかった。

 熊に食べられる事件というのは、地球でも少なからず起こっているんだ。この世界だと、もっと一般的なことなんだろう。…考えたくないな。

 でも、そうか…。


「というか、なんでこんなとこに居るんでしょうか。この辺りに生息するなんて聞いたことないですが。」


 俺が考えこんでる間に呟いたマオの言葉で、覚悟が決まる。

 ―よしっ!


「マオ!」

「はい?」

「アイツ、俺たちで倒せませんか?」


                                   ―続―      



お疲れ様でした。

とうとう森の中で出会ってしまいました。

次回からバトルパートになります。

あまり書きたくないけど。というか、苦手。

ほのぼのした日常パートを延々と描き続けていたい。

まあ、それはともかく。

今回も最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。

次回もお待ちしています。


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すると次回は少し早く上がるかもしれません。

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