23.女神様と二人乗り
ぜんかいのあらすじ
おっさんに色々と助けてもらいながら
あの忌まわしき森へ再び乗り込むことになったぞ!
―パカラッ、パカラッ。
夢で見たあの場所に向かって、マオが馬を走らせている。数日前通った街道を、今度はほぼ逆走する形だ。
一方俺はと言えば、その後ろに跨り、マオの肩を掴んで体勢をなんとか安定させていた。
というか、馬ヤバい!馬ヤバい!むっちゃ速い、むっちゃ揺れる!
太腿!太腿つっちゃう!
富士サファリパークでの乗馬体験は、全然体験じゃなかった。あんなの、スカイダイビングをVRで体験したようなもんだ、子供だましだ!
「雄介さん、肩!肩、痛いです!もう少し力抜いてください!」
少しスピードを落としてから、マオが軽く振り向きそう仰る。
そんなこと言われても!
無理な相談にもほどがある!
「だったら、胴に抱き着かせてくださいよ!それなら安定するんですから!」
「それはダメだって、言ってるじゃないですか!」
そうなのだ。
話は出発する直前、マオにエスコートされて馬になんとか跨った時に遡る。
その馬の上で、マオの後ろに何とかお尻を落ち着かせたまでは良かったのだが、思った以上に馬上というのは不安定で心許なかった。
なので、仕方なく。本当に仕方なく。
悪いなぁと心の底から思いながらも、マオのお腹に手を回すことで姿勢を安定させようと試みたのだ。
しかし、マオのお腹の両脇からおずおずと差し伸ばした俺の手は、彼女の胴を掴むことは終ぞ無かった。というのも、俺の両手はマオのお腹の前あたりで、見事彼女にキャッチされてしまったのである。
そしてマオは、掴んだ俺の手をそのまま自分の肩に持っていき―。
『では、出発するので、振り落とされないよう注意してください。』
と、言ったのも束の間、馬を走らせてしまったのだった。
―そして今に至る。
おそらく今の俺たちを客観的にみると、かなりカッコ悪い。馬に二人乗りで手が肩って、優雅さの欠けらも無くないか?
「誰も見てませんよ!それに、何が『おずおずと伸ばした』ですか。なんの迷いも躊躇いもなく、すがすがしいほどに勢いよく、その手をお腹に回してきたじゃないですか。」
「ちょっと!俺の好感度が下がるようなこと言わないでくださいよ!見解の相違です。そもそも、振り落とされないよう、しっかり捕まるのは大事なことでしょう!」
「だから、肩を掴ませてあげてるじゃないですか!ありがたいと思ってください。というか、雄介さんの自業自得ですよ!もっと紳士的な行動を心がけていれば、胴につかまるくらいは許してたかもしれないのに。」
「十分すぎるくらい、紳士でしょう。何言ってるんですか。」
「何が紳士ですか!胴に掴まったら、背中クンカクンカするつもりだったですよね!」
「―っ!そんなことはっ!…ありますね。」
間違いなくクンカクンカしていただろう。
自信がある。
だって紳士だから。
「全世界の紳士に謝ってください。まあ、正直なところだけは、紳士的ではありますけど。」
むぅ。
最近女神様のガードが堅い。
これは憂慮すべき案件だ。今後の楽しい異世界生活に支障をきたす。
「とにかく、スピードもう少し落としますので、手の力少し抜いてくださいね。」
「はい、分かりました。」
パカラッ、パカラッのリズムがリタルダンドし、同時に体への負担が軽減されていく。
そして、ある程度の速度まで落ちたところで、再び一定のリズムを刻み始めたのだった。
「はぁ、雄介さんは前世でどんな生活送ってたんですか…。」
あきれながらボソッと、マオがつぶやく。
どんな、って言われてもなぁ…。
「雪江とも大体こんな感じでしたね。」
「苦労が目に見えますね。」
失礼な。
二人楽しくやっていたさ、多分。
「心許した人だけですよ、こんなやりとり。」
「それは失敗でしたね、心開き過ぎました。なめこ事件での出会いからやり直したい気分ですね。」
あれ?おかしいな。
今の所は、少しときめいてくれるはずだったんだけど…。選択肢を間違えたか?
製薬会社に勤め始めてから、ほとんどギャルゲーできなかったからなー。退社後に、また始めとけばよかったぜ。
「というか、結局敬語なんですね。ライルさんにはタメ口なのに。」
「え?ああ、はい。おっさんは、なんというか、それが自然と言うか、自分でもよく分かりませんけど敬語はなんか違う気がするんですよ。女神様はマオの見た目でも、敬語じゃないとか無理ですね。最初はタメ口にしようと努力したんですけど。なんででしょうか。」
「なんか曖昧な答えですね。まあ、楽な方で良いですけど。雄介さんに任せますよ。」
ユウの時の記憶が、俺の無意識に働きかけてるんだろうか。それくらいしか、理由が思いつかない。思い起こしてみると、おっさんとは街道で拾われた時からタメ口だったし。
マオについては、まあ女神様だし、仕方ないよね。
お互い敬語で話し合う親密な関係とか、逆にエモいじゃん?
「エモいって、もう死語ですけど…。意味わかって使ってます?」
「いえ、結局50年間、よく分からないまま使ってましたね。」
数回しか使ってないけど。
でも、結局エモいって何なんだろう。萌えの倒語か?
「ああ、そんなことより女神様。実は密かに考えてたことがあるんですけど。」
「はい、何でしょう。今はマオですけど。」
細かいなぁ。
まあ、いいじゃないか女神様で。
「えーと、あのですね。もしかしてですけど、俺の前世の一つは『アリ』だったりします?」
「えー?いきなりですね。まぁ、違いますけど。で、なんで今それを?」
「違うのっ!?」
えぇ…。
実はなめこ事件からずっと前世が何かを考えてて、一番自信があったのがアリだったのに!
というか正直、外れてても教えてくれないと思ってた!はぐらかされると思ってた!
…それが普通に否定されるなんて。
俺の50年間の推察は、ちがいます のたった5文字で無駄になってしまったじゃないか!
はぁ…、がっくし。
「あー…。いえ、今からうさぎに出会うかもしれないってことなので、前世を思い出せれば、少しは戦力の足しになるかなと思いました。」
『ぬこぱんち』みたいな技が出せるようになるかと思いました。
まあ、徒労に終わったけど。
「あー、なるほど。それなら納得ですけど。…ちなみに、なぜアリだと思ったか理由を聞いても?」
外れた回答の理由なんて、話すのも阿保らしい。が、まあ、女神様のご要望だ。断るという選択肢を俺は持ち合わせてない。
「製薬会社で逆らうことなく、働き続けたので。」
「ああ、確かこの辺から森に入っていきましたね。」
理由を告げた瞬間、割り込むように女神様が森へと方向を変えた。
その言葉に、俺も後ろを振り返る。
うん、確かこれくらい村と離れたところだったはずだ。
「はい。だいたいこの辺でしたね。」
「じゃあ今から森に入りますけど。枝とか気を付けてくださいね。」
「はい、了解です。」
「では、続けてください。」
ん?続けてください?
何を!?
「…。」
「…。」
しばしの沈黙。
あれ?何か話が噛み合ってないよな。
「あの、女神様。何を続けるんです?」
「はぁ?前世をアリだと思った理由ですよ。ついさっきの事ですよ、しっかりしてください。まあ、話の腰を折ったのは私ですけど。」
「…え?続けるも何も、あれで全部ですけど。」
そう告げるや否や、女神様はゆっくりと馬の脚をとめた。
そして、これまたゆっくり息を吸い込んだ後パッとこちらに振り返り、今日一番の大声でまくし立ててきた。
「浅いですよ!何が50年の推察ですか!のび太君の悪知恵の方が、まだ考えられてますよ!」
「そ、そんなこと言われても…。」
ちょっと言い過ぎじゃない?
さすがにジャイアンをぎゃふんと言わせるくらいなら、俺でもできるよ。たぶん。
「はぁ。もういいです、時間を無駄に使いました。先に進みましょう。」
手綱を握り直した女神様は肩を落として、再び馬を走らせた。
俺はそんな女神様の肩に、再び手を乗せて来る振動に備える。
「無駄とか、流石に俺だって傷つきますよ。」
「あぁ、はい、ごめんなさい。」
謝ってる割には、釈然としない声である。
まあ俺だって別にこれくらいじゃ怒りはしないから、いいんだけど。
「でも実際のところ無駄なんですよ。仮にその推論、…推論と呼ぶには余りにもお粗末ですが。夕飯は蟹だと言われて楽しみにしてたら、カニカマどころか普通の蒲鉾が出てきたレベルですが。」
散々な言われようだな、オイ。
完全に別物じゃないか。形を取り繕う努力すらされてないとは。
「その推論が当たってたとしても意味ないんですよ。」
「ん?どういうことですか?」
「結局、思い出してはいないからです。えーと、そうですね。ではまず、ユウさんの家族を、雄介さんはまだ自分の家族とは思えず、客観的にしか見られないでしょう?でも実際、雄介さんはそのことを頭では理解している。つまりユウと自分は同一人物で、ユウの家族は自分の家族だと、そう理解はしているはずです。どうです?」
異論をはさむ余地もない。
俺なんかより、俺の気持ちを的確に表現している。
「そうです、その通りです。」
「それと一緒ですよ。答えだけ分かっていても使えないんです。前世の記憶を思い出して、初めて力が使える…、いや、使い方が分かるってことです。」
「あー…。」
なるほど、そういう事か。
と、マオの説明に深くうなずいたその時、不意に彼女が体をかがめる。
ん?なんだ―。
「―痛でっ!」
「あ、枝、危ないですよ。」
「…遅いです。」
顔面を片手で抑えながら、俺は恨めしく声を搾り出した。
体をかがめる前に言って欲しい。
「それに、神になる条件も前世を全て思い出すですからね。これも答えが分かっただけじゃ、ダメですからね。」
そして何事もなかったかのように、先ほどの話を続けるマオ。
そういえば、この世界に転生した目的ってそれだったな。色々あり過ぎて忘れていたのは、たぶん俺だけじゃないはずだ。
「わかりました。確かに考えるだけ無駄ですね、それだと。」
「そういう事です。」
マオの言葉を最後に、しばらく会話が途切れた。
道が険しくなり、馬を操るマオに余裕がなくなったのと、その馬に揺られる俺にも余裕がなくなったのと、まあそんな理由だ。
記憶でみた逃亡劇の時とは違い、今回は馬一頭。後ろに馬車を引き連れていない分、より森の奥へと馬で進めているらしい。
そりゃ道も険しくなるはずだ。
…いや、それにしても、だ。
なんかこの馬、飛んだり跳ねたりし過ぎじゃないか?俺の思い描く馬と、明らかに動きが違うんだが…、まあ例のアレなんだろう。ここの生物は、逞しいってやつ―。
「あ、雄介さん。私も一緒に記憶を覗いてましたけど、流石に細かいところまでは覚えてません。道間違ってたら言ってくださいね。」
「分かりました。任せてください。」
手拍子で返事をしたが、正直は自信ない。
それでも、転生してからの記憶はちゃんと戻ってるし、それに、山の道を覚えるのは前世から得意だったんだ。
「女神様、あっちです。」
「はい。」
俺が指さした方へ、向きを変える女神様。
そうやって数分馬を走らせた後、俺たちは地面に横たわる何かを見つけたのだった。
―続―
お疲れ様でした。
馬の上だけで一話使っちゃいましたね。
こんなことだから、話がなかなか先に進まないんですよ。
この二人はその辺のこと分かってるんでしょうか。
イチャイチャは見えない所でやっていただきたいですね。
…おほん。
それはさておき、今回も感想をお待ちしております。
では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回もお待ちしています。
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すると次回は少し早く上がるかもしれません。