22.花子
ぜんかいのあらすじ
当たらないで欲しかった予測が当たった
それでも最後の希望を探しにいこうと諦めない主人公
準備、とは言っても特に変わったことをするわけではなかった。
女神様曰く、荷物が多いと邪魔なだけとのことなので、用意するものも多くない。
まあ、それもそうだ。俺も前世ではよく山に入っていたので、異論はない。
「水と、緊急時の食料くらいですね。服装は、言わなくても分かると思いますが、長袖長ズボンですよ。」
「はい、分かってます。」
実は、未だ寝巻のままだった俺は、女神様に言われるまでもなく長袖の着衣に着替え始めていた。
それからアルミ製の水筒に水を入れ、乾パンに似た食料と共に腰に巻いた小さい鞄にしまう。ウエストポーチという洒落た呼び方は、およそできそうにない意匠のそれは、しかし小物を持っていくうえで十分な機能を備えている。
肩から斜めに掛けるような、昔流行った風な着こなしなぞ出来なくても、なんら問題はない。
よし、こんなもんかな。
「女神様は、前とおんなじ恰好ですね。」
「これが慣れてますからね。というか、この見た目の時はマオで良いって言ってるのに。」
「いえ、まだちょっと慣れないんですよ。誰か周りにいるときは気を付けます。」
女神様、もといマオは、この世界で初めて会った時と同じ格好だ。つまり、膝まであるワンピースに例のポンチョを羽織っている。足元は丈の長いブーツだ、もちろんヒールは無いけど。
本人曰く、機動性と可愛さを兼ね備えた装備とのことらしい。
スカートに加え、胸元を開けているのはサービスとも言っていた。…よくわからないが、ありがたいことこの上ない。
「では、ライルさんの所に行きましょう。あ、これも持ってください。」
そう手渡されたのは、いわゆる小型のランタンだった。
「暗くなる前に帰ってくるつもりですが、何が起こるか分からないので。」
「了解です。…というか、よくそこまで頭が回りますね、女神様。」
「慣れてるだけですよ。じゃあ、改めて出発です。」
そう言ってマオは、玄関に置いてあった剣を腰に携え外に出る。例のチンピラから拝借したあの剣だ。
それにしても「慣れてるだけ」ね…、何に慣れてるのやら。ほんとに謎だらけな女神様だな。
まあとにかく、おっさんの所に行こう。どうせ女神様は何も教えてくれないだろうし、そもそも今はそれどころじゃないしな。
そうして、家に戻ってから10分もかからず準備を終えた俺たちは、すぐにおっさんの家へと向かったのだった。
とは言っても、目の前の家なんだけど。
「おう、待ってたぞ。この槍を持っていけ、軽くて使いやすいはずだ。」
「ありがとう、おっさん。」
玄関の扉を叩くと、おっさんはすぐに出てきてくれた。しかも準備万端で。
なんかこの世界に来てから、周りの人が優秀過ぎてダメになりそう…、気を引き締めないと。
いやそんなことより、槍だ!初めて持ったぞ!へー、すげぇ!
「あ、珍しい物がありますね。」
受け取った槍をまじまじと観察していると、マオが何かを見つけたらしい。何を見つけたんだろうか。
―気になる。
気にはなるけど、それ以上に、初めて手にした槍から興味を外せない。仕方ないよね。
「おう、流石マオさん、知ってるのか。確かに、この辺ではめったに見ないもんだな。暑い地域では流通してるらしいが。だからってわけでもねぇが、興味本位で買ってみたんだけどよ、如何せん使い道に困ってな。こうやって吊るして、持て余してるところだ。」
「じゃあ、少し分けて頂けますか。もちろんお金は払いますので。」
「分けるのは構わねぇが、買うとなると結構いい値段するぞ?遠慮せずに持ってってくれりゃいい。」
「いえ、購入させてください。ユウさんを助けたお礼は十分に受け取りましたから。」
「そうか?マオさんがそういうなら、わかった。じゃあ、800オルだ。」
「う、ホントに良い値段しますね。…じゃあ、そこのニンニクと合わせて1000オルでお願いします。」
「了解。ありがとな、マオさん。」
槍に夢中になっている間に、商談が一つ決まったらしい。
遅ればせながら二人に顔を向けると、マオがおっさんから商品を受け取ったところだった。
何買ったんだろう、ニンニクと…なんだ?吊るされてるとかいってたな。えーと…あれは、唐辛子か?
「お、そうだ。二人ともこっちに来てくれねぇか。」
確認に至る前に、おっさんから声がかかる。
うん、あとでマオに聞いとこう。それより今は、おっさんを追いかけないと。
マオと一瞬顔を見合わせてから、おっさんの後を追うと、連れてこられたのはおっさん家の裏にあった厩舎だった。
おっさんはそこで、ちょっと待っててくれと俺たちに言い残し、一人その厩舎に入っていった。
へぇ、こんなのあったのか。
地球ではあまり見る機会がない建物の為、少し感動を覚えている。待ってる間に、じっくり観察しておこう。
「おう、またせたな。こいつらも使ってくれ。」
五分程経ったあと、厩舎からでてきたおっさんは、2本の手綱を握りしめていた。
その先にはなんと―、馬が二頭繋がれていた。
「―え?」
面を喰らって、思考が一瞬停止する。その後に何とか声を搾り出したはいいが、出せたのはたったの一音と、何とも情けない結果だった。
えーと確か、使ってくれって言ったよな。何?俺が、乗るの?馬に?
またもやマオと顔を見合わせる。マオも予想外だったらしく、珍しく目を丸くしていた。
「この馬は、もともとジョーさんのもんだ。ジョーさんを捜索していた時に、森の中に居たのをみつけたんで、保護しておいた。だからお前が好きに使え、ユウ。」
「えーと、あ、ありがとう。何から何まで。」
思考が追いついてないが、今度は何とか無難な言葉を脳から引き出すことに成功した。
きっとその成功は80年の人生経験の賜物なんだろうとは思うが…、なんとも情けない活躍の仕方だな!俺の人生経験!
まあ、とりあえず一旦落ち着こう。
なんだかんだ言っても、やっぱりここは異世界なんだ。日本ではおおよそ経験しないであろう事が、次々と起こっている。少しずつ慣れてかないと、いろいろと持たないぞ俺!
「なに。お前のお父さんには多大な恩があるんだ。今はもう、それを返せなくなっちまったが…。まだ、お前がいる。俺を親代わりだと思って、何でも頼ってくれユウ。」
肩を叩きながら、そう優しく言ってくれたおっさんの声には、怒りと悲しみが見え隠れしていた。
やはり今日の事は、おっさんも相当応えているようだ。
何とか明るく振舞おうと元気な声を振り絞っているのが否応なく伝わり、その健気さが俺の涙腺を締め上げる。
我慢しろ俺!泣くのは、ダメだ。おっさんの気遣いを無駄にするな。
お前が泣くのは記憶が戻ったときだ!二人が亡くなってしまった事を、心から悲しめる時まで、泣いちゃだめだ!
―そう言い聞かせながら、おっさんの言葉に答えようとしたが、しかし、声で返事をすると堰が切れそうだったので、頷くだけに留めておいた。
そんな情けない俺の頭を、余っていた右手でおっさんが撫でてくる。
…無骨なその撫で方に優しさを感じるのは、きっと気のせいじゃないはずだ。
そんなやり取りの後、ちょいちょいと服の裾が横から引っ張られた。
「ちょっと、いいですか。」
マオだ。
お取込み中申し訳ないのですが、と前置きした彼女は更にこう続ける。
「もしかしなくても、ユウさんは馬の乗り方分からないですよね?」
「あ、…はい。」
「…あー。そうか、覚えてないのか。」
くしゃくしゃと髪を掻きむしりながら、おっさんが天を仰いだ。ごめん、おっさん。
「競争馬の名前を関した女の子なら育成してたんですけどね。」
おっさんに聞こえない声で、女神様に耳打ちをする。
「聞いてないですよ。こんな時にボケないでください。雰囲気壊さないでください。」
ごめんなさい、俺がこの空気に耐えられなかったんです。
「うーん、でもやっぱり乗れませんか。うーん…。」
俺の答えに、マオは悩む時間を十分に取ってから、仕方ないですね、とおっさんにこう提案した。
「今日の所は一頭で大丈夫です。私が操る馬に、ユウさんを一緒に乗せることにします。馬車引かせると遅くなりますからね。」
えっ、それ―。
「いたいいたいいたいっ!」
いきなり声を挙げた俺を、おっさんが訝しそうに見やる。
俺も吃驚したよ!だって、マオにいきなりお尻つねられたんだもん。
「何するんですか!」
「いえ、変なこと考える前に止めただけです。」
「考える隙もなかったですよ!」
「だから、その前に止めたんですよ!」
なんて酷い!
罪を犯す前に罰を与えられた!違法だ!ドストエフスキーも黙ってないぞ!
「はっはっは!」
そんな俺たちを見ていたおっさんが、いきなり高らかに笑い出した。
その声に、マオと二人、三度顔を見合わせて呆然とする。
「いつの間にかそんなに仲良くなってたのか。おかげで、少し気が晴れた。…ふぅ。マオさん、改めてユウの事よろしく頼みます。」
「ええ、任せてください。あと、今日の夜までには帰ってくるつもりですが、帰ってこれなかったとしても明日の朝までは探すの待ってください。夜は危ないですし、一日くらいはなんとかなりますから、信じて待っててください。」
「…おう、分かった。」
「では、いってきます。」
「行ってきます。」
マオに合わせて、俺もおっさんに向かって言葉を繋げる。
そして一本だけおっさんから手綱を受け取った後、馬と共に歩き出した。
おお、すごく大人しい。ユウの家の馬らしいから、俺にはなついてるのかもしれないな。
それにしても、行ってきます、か。いい言葉だ。
いったん別れるけど、かならずまた帰ってくるという約束の言葉。
今の俺の変える場所は、この村だ。
「あ、ちょっとさっき買った荷物おいてきますので、少し待ってください。」
「はーい。」
おっさんの家の裏から自分の家の前に戻って来た辺りで、マオからそう告げられたので大人しく待つことにする。
ちなみにおっさんは、家の勝手口から自分の家へと戻っていて、既に姿はない。
それよりも、だ。
馬!馬だよ馬!見るのも久しぶりだし、乗るのなんかそれこそ富士サファリパークに言った時以来だ、すごくドキドキする。
あ、触ってみても大丈夫かな?…少しだけなら大丈夫かな?お腹の部分に少しだけ…。あああ、あったかい!気持ちいい!もう抱き着いちゃえ!
…ふあぁぁああ。
心地いい、それに大人しい。それどころか、頭を俺に擦り寄せてきた!かわええ!
「お待たせしましたー。って、何やってるんですか。」
「花子に癒されてました。」
「花子って…。テキトーな名前つけないでください。」
「いえ、この子は花子らしいですよ。ほら、手綱に名前書いてありますし。」
「ええ?…あ、ホントですね。じゃあ早速、花子に乗って出発しますよ。」
そう言うと、マオは軽々と花子に跨る。
…なんか慣れた動きだな、ホント何でもできる女神様だ。なんかできないことは無いんだろうか。
「何でもはできませんよ、できることだけです。」
「あー、さいですか。」
やっぱり教えてもらえなかった。
というか、女神様も隙さえあればネタ挟んでくるな。人の事言えないじゃないか。
「ほら、ボーっとしてないで、乗ってください。」
疑いのまなざしを気にも留めず、マオは俺に向かって手を差し出してくれる。
よし、じゃあ気を引き締めて、大切な妹を探しに行こう。
―続―
お疲れ様でした。
今回のように、重い雰囲気がずっと続くことは無いと思います。
それは、私が書いてて楽しくないからですね。
なんなら、一生女神様とのバカなやり取りを書き続けていたいくらいです。
それはさておき、今回も感想をお待ちしております。
では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回もお待ちしています。
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すると次回は少し早く上がるかもしれません。




