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うぃず・めがっ!【第一部・完】  作者: 煮木 倫太郎
21/30

21.凶報

ぜんかいのあらすじ


村を一人さみしく散策してたら、変な人にあったぞ。

これは早く家へ帰ってウドの天ぷらを作るしかないじゃないか!


「天ぷらは盲点でしたぁ、雄介さんナイスですぅ。」

「いえいえ、お礼はシイラさんに言ってください。よろしく言ってましたよ。」


 目を覚ましたばかりの女神様は、天ぷらを目の前に目を輝かせる。

 でも、盲点って。


「天ぷら、もしかしてこの辺だと食べないんですか?」

「そうですねぇ、今度会った時に言っておきますぅ。でぇ、天ぷらはここら辺では聞きませんねぇ、他の国に行けば作る地方もあるかもしれませんが。」


 ふーん。

 まあ、料理なんて地域が変われば、全く違うからな。無くても不思議ではない。


「でも、片栗粉が見当たらなかったので、小麦粉だけの即席です。あと、氷もないですし。」


 なくても勿論美味しく頂けるが、やっぱりあったほうが美味しいと思う。

 ちょっと残念だ。

 あぁ、ちなみにだが、山菜獲りが趣味の人で天ぷらを作れない人はいない、と断言しておこう。もちろん、俺もその例に漏れない。


「いえ、十分ですよ。氷…は少し厳しいですがぁ、片栗粉は似たようなものはちゃんとありますぅ。まあ、たしかにこの家にはおいてないようでしたが。」

「へぇ、そうなんですか。でもまあ、とにかく頂きましょう、お腹すきました。」


 二人手を合わせて、食事を始める。

 この口内にあふれる香り。至福の瞬間だ。…サクッと感は少し足りないが。


「というか、女神様。いつの間に町の人と仲良くなったんですか?」


 今朝のシイラさんを思い出しながら、食事の片手間に聞いてみる。

 あー、お米が欲しいなー。


「この家は私にとって他人の家ですからねぇ、いつまでもいると不審に思われますぅ。村の人からしても、ただの旅人ですしぃ。なので、その根回しの一環ですよぉ。でも、村に初めて来たときから思ってましたが、ユウさんの家族は村のみんなとかなり親密だったらしいですねぇ、村を回ってみて改めてそう感じましたぁ。ユウさんの恩人ってだけで、もう十分すぎるくらいに信用を得てしまっていたらしくてぇ、特別に何かする必要は無かったですぅ。ふつうに、挨拶に回ったくらいですねぇ。」


 なんと。

 俺が寝込んでいる間に、女神様はそんなことをしてくれてたらしい。


「…何してるんですぅ?」

「拝んでます。ありがたや、ありがたや。ウドの天ぷらをどうぞ。」


天ぷらの皿を押し出しつつ、深々と頭を下げた。


「うむ、くるしゅうない。…でも、やっぱりお米欲しいですねぇ。見かけたら買いましょう。」


 ですよねー。 

 パンをちぎりながら、二人お米に思いをはせる。

 でも、お米はちゃんとあるらしいぞ、楽しみだぜ。


「でぇ、これは何ですか?」


 ふと、女神様がテーブルの上でくしゃくしゃになっていたビラを広げて読み始める。どうやら、ずっと気になっっていたらしい。

 えーと、カクさん…だったかな?

 とにかくその彼からもらったビラは、あの後、ウドに巻きつけるのにちょうどいいと、新聞紙の様に使っていたのだ。

 くしゃくしゃなのは、そう言ったわけである。


「アイミー教、女神マイン…、へー、どこにでもこんなのあるんですねぇ。」

「変わった人に勧誘されました。女神様は知ってますか、女神マイン。」

「いいえぇ、聞いたこともありませんねぇ。」


 まあ、気にしなくていいでしょう。と、女神様が付け加える。

 そりゃそうだ。宗教勧誘なんて、どこでもあるもんな。


「そうですね、忘れましょう。あ、そういえば帰りに皆に声かけられましたよ。同年代の子から、ご年配の人まで。ありがたいですが、おかげで表情筋が()を上げてます。」

「仕方ないですぅ、諦めてください。」

「まあそうなんですが、心は痛いです。俺にとっては知らない人、みたいなもんですし。」


 どうやら、作り笑いによる疲労はどこの星にいても変わらないらしい。それを身をもって経験したよ、疲れた。

 でも、あれだな。こうやって何でも話せる女神様がいてホントに良かった。

 もし一人だったらと考えると、恐ろしくてたまらない。

 …うん。

 また拝んどこう。ありがたや、ありがたや。

 そうして、俺が両手をまさにこすりつけていた時―。


 ―ドンドンドンッ!

「おーいっ!」


 突如ドアをたたく音と共に、おっさんの声が居間に響いた。


「いるか、二人とも!ちょっと出てきてくれねーか!」


 その声にすかさず、俺は箸を置き、女神様はマオへと姿を変える。

 おっさんのその声色は、凶報があると伝えるに十分すぎるものだった。


「すまねぇな、二人とも。とりあえずついてきてくれ。」


 玄関へと二人で出ていくと、うかない顔をしたおっさんはそれだけを告げて、無言で歩き出した。

 その後を追い、村の入り口辺りまでたどり着いたとほぼ同時に、何を言われずとも呼ばれた理由を理解してしまった。

 理解?―いや、そうじゃない。

 ()()()()、だった。当たってなんて、微塵も欲しくなかった予想だが。


「日が経ってしまって、面影はほとんど残ってないですが、服装と背格好から恐らくジョーさんとヨウコさんだと…。」


 それでもクルトが、そう教えてくれる。

 そこには全身に布を掛けられた、人くらいの大きさの何かが二つ、地面に横たわっていた。

 …。

 思わず立ち尽くす俺。―それは数秒だったのか、それとも数分だったのか。

 とにかく、酸欠を訴える肺に、忘れていた呼吸を思い出させられた俺は、ゆらゆらと地面に横たわるそれらに近づいて、手をそっと伸ばした。

 

「ユウ、止めた方が…。」


 クルトが止めに入るが、おっさんが首を振って止める。

 俺はそれを横目で捉えつつも、しかしながら、被せてあった布をそっと取り去ったのだった。

 

「…。」


 もうあれから四日経っている。

 二人の顔はほぼ崩れ、骨も所々見えている。雨が続いたおかげか虫はそれ程湧いていなかったが、ところどころ獣に食いちぎられた箇所が散見された。

 傷んだ肉体から二人が父さんと母さんとは見て取れないが、着ている服が今朝女神様に見せてもらったそれと同じだ。

 …間違いない。

 間違いなく、父さんと母さんだ。

 

「おっさん、クルトさん、それにみんなも。こんな状態になってしまった二人を連れ帰ってきてくれて、ありがとう。大変だったよね。」


 運ぶのも大変な状態の上、当然異臭も漂っている。

 俺の感謝の意に、声を返せる人は…さすがにいなかった。

 

「俺、やっぱり記憶が戻らないみたいで、ごめんなさい…。気の毒だとは思っても、悲しいとは思っても、他人事(ひとごと)の様にしか、感じられないっぽい…。なのに、なんでだろう、涙が止まらないのは…。なんでだろうね。」


 まるでテレビで殺人事件のニュースを見ているような、そんな俺の内心とは裏腹に、なぜか涙が溢れて止まらない。壊れた蛇口から水が溢れ続けるように、いくら堪えようとしても、涙はとめどなく流れでてくる。

 それでも頭はひどく冷静で、吐き出したその冷たい声には、少しの乱れも混ざっていない。

 そんな異様な俺を前に、周りの皆はただその場で立ち尽くすしか無いようだった。


「ユウさん。」


 いや、その中でひとりだけ。

 マオだけが俺に近づいて、捲られた布を優しく元に戻してから、俺の手をそっと取ってくれた。

 

「女神様。」


 優しい彼女にだけ聞こえる声で、呟く。


「鬼殺隊はどこに行けば入れますか。」

「こんな時に何言っ―。」


 俺はそう問いかけてからマオに顔を向けると、マオは言いかけた言葉を途中で飲み込んだ。

 俺は真剣な顔つきそのもので、涙だけが未だとめどなく溢れ続けている。いつの間にか、手も力いっぱい握りしめていたようだ。

 そんな俺を目の当たりにしたマオは、ゆっくりと目を閉じ、一つ大きく息を吸ってから答えてくれた。


「残念ながら、奴隷商人は基本国家ぐるみです。仮に、そんな隊があったとしても、民間団体一つでどうにかできる規模じゃありません。」

「そう、ですか…。」


 聞きたかったことを、あんな質問だけで全部答えてくれる女神様。

 ユウと一緒に悲しんでやれない俺だからこそ、何かユウのためにしてあげたくて聞いてみたけれど…。

 どうやら世界の理不尽さに対する怒りを、ユウの憎しみと同調させるくらいしか許されないらしい。

 いや!それはあまりに、あんまり過ぎるだろ―!。


「女神様と一緒なら、あの奴隷商人グループ一つくらいなら何とかなりませんか?」


 何もできない自分への怒りをどうにか抑えつつ、更に問いかける。

 そうだ。

 別に奴隷制度を廃止したいわけじゃない、ただ、あいつらに報いを受けさせたい。それだけだ。


「残念ですが、それも無理です。チンピラ数人なら相手できますが、兵士数人だとお手上げです。ましてや、奴隷商人グループのバックは国ですから。」


 軍隊レベルです、とのことだ。

 それなら仕方ない。

 怒りに任せて無鉄砲になれるほど俺は若くない。

 そんな自分の冷静さに腹が立つが―。

 仕方ない。


「じゃあ、出来ることは一つですね。」


 そう言いながら俺はすっと立ち上がり、おっさんの方へ向き直る。

 気持ちを切り替えよう、出来ることからやるんだ。

 まずは―。

 俺の後ろでマオが同じように立ち上がる気配を感じつつ、おっさんへ確認を取る。


「ルイはまだ見つかってないんだよね?」

「ああ。…すまない。まだ、捜索中だ。」

「じゃあ、俺が今から森に行ってくるよ。記憶は戻ってないけど、襲われた時の記憶はおぼろげながら思い出してきたから。ルイと別れた場所に戻ってみる。」

「いや危険だ、一人では行かせられねぇ。あそこには今―。」

「うさぎ、だよね?」


 昨日見た張り紙を思い出す。

 注意喚起がなされていたのは、例のあの付近だったはずだ。もしかしたら、捜索が難航したのは天気のせいだけじゃなかったのかもしれない。


「あ、ああ。そうだ。だから、俺たちも一緒に―。」


 おっさんが少し眉をひそめてから、途中で遮られた言葉を続けるが―。


「私が一緒に付いていきます。皆さんはお疲れでしょうし、休んでいてください。」


 マオがまた、おっさんの言葉を遮った。

  

「いや、マオさんがいくら強いからって、それでも二人だけじゃ…。」

「討伐するわけじゃないので、遭遇したら逃げるだけです。それでも、守れるのは一人が限度だと思います。なので、皆さんは村で待っていてください。それに―。」


 マオはここで一つ間をおき、笑顔を皆に投げかけてから―。


「この村には良くして頂いたのでお礼がしたいのです。」


 と、とどめの言葉を言い放った。

 しばらく周りがシンと静まり返る。


「―わかった、ユウはマオさんに任せる。」

「でも、ライルさん!」


 クルトがおっさんの決定に、食い下がる。


「マオさんの強さは、一昨日お前も見ただろう。信じて待とう。」

「…。分かりました。」


 おととい?俺が寝込んでたときか?

 女神様は一体何してたんだろう。


「では、今から向かいます。…あ、流石にユウさんが手ぶらだとアレですので、何か武器を貸していただけませんか?」

「ああ、分かった。借りると言わず、持っていってくれ。何がいい?」

「ユウさん、何がいいですか?」


 武器?

 それは予定外だった。異世界に来たんだから、武器の一つや二つ手にする時がくるだろうと思っていたが、こんな急に言われるとは。何も考えてないぞ?

 うーん…。


「あまり悩まなくていいですよ、護身用なので。インスピレーションで言ってみては?」

「おう、曲がりなりにも商人だ。大体の物は揃ってるぞ。」


 女神様とおっさんが、急かしてくる。

 いや、急かされてはいないんだろうけど、早く決めないと悪いな。

 うーん、じゃあ―。


「槍、で。」


 80年生きて得た知識の中から、一番強い近接武器と言われていたはずの武器を選び出す。

 たしか、そうだったよな?


「わかった、ちょっと待ってろ。」


 言うや否や、おっさんは自分の家へと駆けて行く。

 俺たちも準備のため一旦家に帰ろう。

 そう女神様と目でやり取りしていると、クルトがおずおずと話しかけてきた。


「あの!今夜、二人の葬儀をするから!だから、必ず帰って来いよ!」


 その言葉に俺たちは深く頷き、周りの皆にも頭を一つ下げてから、おっさんの後を追った。

 

「おっさん!」


 俺の呼びかけに、足を少し緩めたおっさんと共に村へと速足で戻る。

 家の前に着いた頃、「準備出来たら、おっさんの家に行くから。」とそう約束して、一旦家の前で別れたのだった。


                                    ―続―

 

お疲れ様でした。

本話から、第一部の最終局面に入ります。

たいしたことは怒りませんが、ゆっくりお待ちください。

では、是非とも感想をお待ちしております。

それでは最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。

次回もお待ちしています。


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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします

すると次回は少し早く上がるかもしれません。

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