17.女神様と俺の記憶(2)
ぜんかいのあらすじ
記憶をサルベージしてもらうつもりが
いろいろふざけ過ぎて、女神様を怒らせちゃったぞ
「―!…プンッ!」
やかましい、誰だ、こんな夜中に。
「…プンッ!」
寝付いた所なんだ、邪魔するな!
「オープン!」
オーブン?
お腹でもすいたのか?パンなら女神様が買ってきたのがあっただろう。それでも食っててくれ!
「ステータスオープンッ!」
ああ、もう―。
「うるさーい!」
今までで一番の大きく叫ばれた声にとうとう根負けした俺は、睡眠を邪魔された怒りを吐き出しながらカッと目を見開いた。
そして急いで犯人を捜し始める。誰だ?もし女神様以外なら、極刑だからな。
「オオーーープーンッ!!」
いたーっ!!お前か!
お前か、犯人は!俺の睡眠を邪魔しやがって!一言文句言ってやる!
「おいっ!」
「おおおおおおぉぷううううぅん~★」
思いのほか近く、というか真横にあったベッドの上で胡坐をかいている少年は、俺の怒声を歯牙にもかけず、ひたすら叫び続ける。いや、叫ぶだけでは飽き足らず、ついにはヘンテコなポーズを取りながら謎の奇声まで発し始めていた。
うお、何だこいつ?まじ怖いんだけど。
一言文句言うつもりだったのだが、その少年のあまりの異常さに日和ってしまった。なんなんだ一体?
声には、うーん、聞き覚えがないし、顔は…あれ?どっかで見たような…。誰だっけ?
んん?あ、そういえばこのベッド、いや、ベッドどころかこの部屋って多分―。
「もぉっ!!いきなり大声出さないでくださいよぉ!」
「わぁ!!」
思考に入りかけた瞬間、突然逆サイドから響いた、また別の大声に鼓膜をつんざかれた。
うわっ―。
「びっくりした!」
急いで振る返ってみると、そこには両耳を抑えて頬を膨らませた女神様が御座し遊ばされていた。
なんだ、女神様か。よかったぁ。
「びっくりしたのはこっちですぅ、良くないですよぉっ!」
「じゃあ、おあいこですね。」
全然おあいこじゃないですよぉ、と女神様はぷんぷんと怒り心頭でいらっしゃる。
でもこっちの鼓膜も被害甚大なんだ、痛み分けで手打ちとして頂きたい。
いやーそれにしても、女神様がいてくれて一安心だ。
「で、女神様。この状況の説明をしてくれるんですよね?」
「はいぃ?」
しらばっくれられた。
怒ったアピールはまだ続いているようだ。
「続いてるのは、今日の昼からですからねぇ。大声にびっくりしただけじゃないですよぉ?」
「…。はい、反省してます。」
そうだった。
女神様の機嫌を損ねたのは、他ならぬお昼の俺だった。ふざけすぎ、良くない。
「反省してます。反省してますから、この状況の説明をしてください。ここって、俺…というか、ユウの部屋ですよね?」
そう、この部屋は女神様に距離を置かれた俺が、つい先ほど一人寂しく眠りに入った部屋だった。
そして目の前にあるベッドは、その眠りを懐深く受け入れてくれたベッドだ、たぶん。
でも今そのベッドには、いまだ奇声を発しながら謎のポーズを取り続けている少年が座っている。
…うるさくて仕方が無い、すこし落ち着け、な。
「じーーーー。」
しかして女神様はそんな彼を気にも留めず、擬態語を可愛らしく自ら発しながら俺の目をねめつけている。えーとあのぉ、そんなに疑わなくても…。
―いやしかし!
この曇りなき眼を見てもらえれば、反省していると信じて下さるだろう。不埒な事も今この時ばかりは考えないぞ。お昼に許可貰ったはずだけど、今はそんな場合じゃない。
女神様と見つめあえて嬉しいけど。
嬉しいけど、考えない。
考えない、考えない。
心を無にするんだ。
―女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい、女神様かわいい―。
「―はぁ、わかりましたぁ。説明しますぅ。」
どうやら俺の紳士さ、おっと真摯さが伝わったようだ。よかった。
無表情、無感情で念仏を唱え続けた甲斐があったってもんだ。
「見ての通り目の前に、雄介さんが居るんですけど、この雄介さんは4日前の―。」
「ちょっと待ってください!」
右手のひらをバッと女神様の前で広げる。
説明を乞うておいて失礼なのは百も承知だが、さすがにそこはスルー出来ない。
「もぉ!」
女神様が両手を挙げて不満をアピールしてるが、いやちょっとまって!
俺は少しだけ間を置いた後、広げている右の掌から人差し指1本だけを残して握りしめる。
そしてその残した指の先を、こっそり心の内で珍獣認定していた少年に向けてから、女神様に改めて聞いてみた。
「これ、俺ですか?」
「そうですけどぉ?何か?」
持て余していた左手が、自然と目頭を押さえていた。
あーそっか…、得心がいった。
どこかで見た顔だと思ったら、あーそうか。そうだよなぁ。
これ、俺かぁ…。なんかすごく、堪えるなぁ…。
もし理解が追いついてない読者の方がいたら、しばらく続きを飛ばして読んでいただきたい。
「い、え、説明、続けてください…。」
とにかく、内情を悟られないように声を搾り出すんだ。
こんなことバレたら、一生バカにされる。
「ん~?…あっ!」
訝しみながら俺の顔を覗き込んだ女神様は、何かに気付いたのか急にポンと手を打った。
あぁ…。何かに…気づいちゃったのか…。
「あーれぇ?もしかしてぇ、雄介さん、この子誰か分からなかったんですかぁ?あぁ!もしかしてぇ、それだけじゃ飽き足らず、変人扱いしてたとかですかぁ?へー。まぁ、そぉですよねぇ、こんな変なポーズ取りながら、奇声発してますからねぇ。今だってぇ、聞き覚えのある魔法を、片っ端から放とうとしてますからねぇ。もちろん、魔法なんてぇ出るはずないんですけどぉ。ぷー。それにしてもぉ面白いですよねぇ、初めてこの世界に降り立った瞬間に魔法を繰り出そうとこれだけ頑張っていたのに、記憶を失った後にまぁた同じこと繰り返すんですからぁ。あの森に隠れた時、ホントお腹痛くてヤバかったんですからねぇ、声を抑えるってホント大変ですねぇ。」
一生どころか、一瞬でバカにされた。
話の途中から俺はもう立ってはいられず、その場にうずくまって顔を隠していた。反論したいけど、余りにも内容が図星過ぎて、二の句どころか一の句も継げない。自分でもこれはないと思う。
こんなのを、ここと森とで2回も見せられたら俺だって笑うよ。大爆笑だよ!
あー、もう誰でもいい!俺を殺せぇ!
「あはははは。―ふぅ。」
「…満足しました?」
ひとしきり笑い終えた女神様が一息入れたのを合図に、俺は顔を上げる。
見上げて見る女神様は、ちょうど目尻の涙をぬぐっているところだった。ついでに俺も涙をぬぐおう。
「はいぃ、満足しましたぁ。今日の事は水に流してあげますぅ。ふふっ―。」
「…はい、ありがとうございます。」
と言いつつ、3本の指で口を抑える女神様。もうちょっと笑いたいらしい。
そんな彼女に対し、今度は俺がジト目を返して数秒目を合わす。はぁ。
結局、俺はお礼を言う事で場を丸く収めることにした。まあ、女神様と特殊なプレイに勤しんだと思うことにしよう。
「あ、覗かないでくださいよぉ。」
今気づいたとばかりに、スカートを軽く押さえて女神様。
「そんな心の余裕は、今持ち合わせていませんよ。」
「あらぁ、残念ですねぇ。」
ホントに残念だ。今思えば、見放題だった、何がとは言わないが。
「それで。」
閑話休題と言わんばかりに、声を発しながら、俺はすっと立ち上がり話を進める。
「結局どういう状況ですか、これ。まあ、おおかた女神様がこの世界に来た時の俺の記憶を見せてくれてるんでしょうけど。今の女神様の恰好、初めて会った時と同じですし。神々しい恰好ですし。」
ああ、ようやく本題に入れる。
ちなみに後ろの自分(過去)は、未だ魔法を諦めていないらしい。まだうんうん唸り続けていた。
「それであってますよぉ。正解ですぅ、ぱちぱちぱち。絶賛記憶サルベージ中ですぅ。」
可愛い拍手を頂いた。やったね!
「あれ?でも、例の『ぬこぱんち』の時と同じ儀式が必要なんじゃなかったんですか?」
「だから、してますよ?今。雄介さんが寝入った後に、こっそり部屋に入って、こっそり始めましたよぉ?」
「え?」
なん、―だと?
じゃあ今現実の俺は、女神様とベッドの上で二人きりってことか?真夜中に?そんなことがあっていいのか?女神様との密着チャンスが台無しになっていいの?いや、良くないよね、許されないよね。神様が許しても、女神様が許しても、俺が許せないよね。なんで、どうしてこんなひどい仕打ちをするの?え?なに?女神様は女神様じゃなかったの?鬼なの?悪魔なの?
―。
いや!まだ…、まだ間に合うんじゃないか?女神様が言うには、今、絶賛真っ最中ということらしいではないか!ということは、だ。今頑張って目覚めたら、女神様との甘いスイートタイムがまだ味わえるんじゃないだろうか!思う存分、クンカクンカ出来るんじゃないだろうか!!
そうだ!まだ遅くない!よし、だったら善は急げだ!さっそく行動だ!
「女神様、ちょっと申し訳ないですけど急用ができてしまいました。今すぐ目を覚ま―。」
「目を覚まして、女神様をクンカクンカしなきゃいけません。とか言ったらぁ、好感度が80さがりますよぉ?」
「…。え?」
キョトンという擬態語を顔で表すだけでは全然足りず、思わず俺は間抜けな声を漏らした。
それに対して、女神様はニコっと笑顔を返すだけだ。
「考えるだけなら許しますといいましたけどぉ、行動に出したらダメだって事、今日学ばなかったんですかぁ?」
相変わらず、笑顔を崩さない。主演女優賞をお贈りしたい。
「はは。そんなわけないじゃないですか!ちょっと目が疲れたので、サマーバケーションという休暇を目に与えないといけないかなと思っただけですよ!でも、大丈夫です。『女神様を見てるだけで、十分癒されてるぜ』と目が言ってくれましたので、その必要は無くなりました。それでは、続きをお願いします!」
「ですよねぇ~。」
咄嗟の言い訳は、全スルーされた。
あれぇ?昔読んだ本に、女性は褒められると機嫌が治る、と書いてあったけど嘘だったのかな?いや、少し遠回し過ぎたのかもな。今度から気を付けよう。
「それより、女神様。女神様の俺への好感度、80もあったんですね、嬉しいです。」
「はあ?あるわけないでしょう。30ほどしかありません。嫌いになりますよって意味ですよ。」
「あ、はい、ごめんなさい。」
語尾が伸びてない、これはマジなやつだ。これ以上は邪魔しないでおこう。
というか、30かぁ…。ぎりぎり友達かもってレベルじゃないか、これ。俺への好感度低すぎない?
「では、改めて。おほん。」
俺が内心ショックを受けているところで、わざとらしく咳払いをした女神様が話を進める。
「この雄介さんは、こちらの世界に記憶を移されてすぐの雄介さんですぅ。およそ4日前ですかねぇ。見ての通り、痛々しいですぅ。」
言葉にトゲがあるが、…甘んじて受けよう。ちょっとふざけすぎたのは事実だ。
どうぞ、説明を続けてください。
「この時はまだ雄介さんとユウさんの二つの記憶がしっかりと存在してるはずですぅ。両方の意識が独立して、ひとつの体、もとい脳内に存在したはずですねぇ。でぇ、その状態が一週間もすればぁ、慣れて馴染んで一つの人格にまとまる予定でしたぁ。」
「言ってる事は分かりますが、ホントに人格が統合されるんですか?二重人格みたいに?」
なまじ信じられない。
「はいぃ。実際、二重人格、…えーと、多重人格障害みたいなものですぅ。以前に説明したときは、雄介さんの記憶を、17歳になったユウさんに上書きすると言いましたが、正確にはちがうんですよぉ。魂に記憶されている雄介さんの記憶を、17歳になったユウさんに思い出させる、というが正しいですかねぇ。輪廻転生をしたことで肉体は生まれ変わっても、魂は同じもの、同じままです。なので昔の記憶を思い出させられるんです。そしてそれを思い出したとしても、しばらくすればなんの後遺症もなく普通の生活を送れますぅ。元は同じ魂ですからぁ。自分の臓器を自分自身に移植するようなもんですねぇ。」
ふむ、最初に会った時は、理解しやすいように嚙み砕いて説明してくれたらしい。たしかに、いきなりこんな話されても理解できないし、嘘くさくなるな。
それにしても、自分に臓器移植か。うん、言い得て妙だ。そりゃ、拒絶反応も怒らないか。
「分かってくれましたかぁ?でしたらぁ、少し時間をすすめてみましょ~。」
と女神様が言うや否や、目の前に繰り広げられていたシーンがガラッと変わる。
なるほど、こんな感じで遡っていくのか。
先ほどの黒歴史を量産していた過去の俺は、今は大人しくテーブルの席に付いていた。どうやら、居間に場面が移されたらしい。
そしてそのテーブルには、他にもユウの家族たちが座っていた。
―続―
お疲れ様でした。
あいかわらず、この二人イチャイチャしすぎですね。
話進まねーじゃん!!
喧嘩したばっかりなのに!
反省してほしいですね。
次回からまじめパートになりますので、落差にご注意ください。
それでは最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回もお待ちしています。
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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします
すると次回は少し早く上がるかもしれません。