15.女神様の謎
ぜんかいのあらすじ
メイナという世界にどうやらいるらしい。
そう教えてくれた女神さまは、一人で村にいってしまったぞ。
「って、寝れるか―!」
目を瞑ってから三分後、ぬいぐるみを上に放り投げながら、俺は誰とも知れない誰かにツッコミを入れた。
真上に飛んだぬいぐるみは、投げた時に描いた軌道をしっかり逆にたどり、ポスッと胸の前に落ちてくる。そのぬいぐるみをギュッと抱きしめるように受け止めると、中の空気が押し出された。
ふぅ、女神様の香りだ。幸せだ。
「36時間も寝てたんだもんな…。」
そりゃ眠れるわけないよな。目を閉じていることすら難しいほどに、目が冴えてるよ。ギンギンだ。
でもなぁ、今日は安静にしてろって言われたしなぁ…。
「なぁ、どうしたらいい?」
腕の中に居座るぬいぐるみに問いかけつつ、その首をクイっとこちらに向けて顔を覗き込む。
黒く輝く瞳からは、当然、答えが返ってくるはずがない。
「よし、決めた!今日はとことん話し相手になって貰うからな!覚悟しろよ!」
返事がないのをいいことに、自分勝手にぬいぐるみの予定を決めてやった。
ふふっ、すごくいけないことをしてる気分だ、今日は寝かさないぜ?
「さて、まず何から話してやろうか!」
悪い笑顔を浮かべながら、手をワキワキと、どこぞの悪役の様に話しかける。
中身80代の爺さんが一人何やってるのだろうか。もし、この場面を誰かに見られたら恥ずかしいどころか恥ずか死ぬところだが、幸い今は部屋に一人きり、いやぬいぐるみと二人きりだ。思う存分その耳を汚してやろう、ククク。
あ、一応言っておくが、誰にも見られてなくても恥ずかしいだろというツッコミは無しでお願いしたい。
「うーん、そういえば、考えないといけないことが沢山あるな。それでいこう。」
話す内容は、俺の思考垂れ流しに決めた。
この世界に来てからというもの、ひとり落ち着いて考える時間が全くなかったからな、これはいい機会じゃないか?
昨日…じゃなくて、一昨日の夜には少し時間があったけど、溜まった疲労でそれどころじゃ無く、すぐに寝ちゃったしな。
ま、とにかくいつものアレと思って欲しい、自問自答タイムである。今回は、ぬいぐるみが聞いてくれるので、いつもよりも楽しくなりそうだ。
「―さて。」
と、一言漏らしてから俺は上体を起こし、ベッドの上でヨイショとそのまま壁に寄りかかった。ぬいぐるみは俺の膝の上にしっかりお座りだ。特等席である、贅沢な奴め。
「じゃあ、一つ一つ考えていこうか。」
その頭を撫でながら会話をはじめる。
やれやれ、という言葉がぬいぐるみから聞こえそうだが、うん、気にしない。
「まず、俺の記憶と家族について…は、置いといて良いと思う。今すぐどうにかできることでもないし、そもそもベッドの上で分かることなんて一つもないしな。逆に言うと、体が元気になりさえすれば、女神様の力で進展が望める。記憶をサルベージしてみてくれるらしいしな。どう思う?」
聞いてみたはいいものの、ぬいぐるみのその全てを吸い込みそうな漆黒の目をみていると、どうも不安を搔き立てられる。
「いや、皆まで言うな!分かってる、分かってるって、だって自分の事だし、しかも人命がかかってる。実際、ストレスでお腹が痛いくらいだけど、今はどうしようもないからな。だから一旦置いておこう、な?」
ぬいぐるみの眼前に右の掌を広げ、早口でまくし立てる。
村人の話ぶりからすると、ユウの家族が無事だとは正直考え辛い。もちろん、そんな最悪の事態なんて考えたくないのだが、部屋でひとり黙っていると嫌な想像ばかりしてしまう。
だからこうして、ぬいぐるみに話し相手になって貰い、気を紛らわしているのだった。
そしてさっきも言った通り、今の俺に出来ることは何もなく、この不安を解消できないのである。
ああ、懸案事項というものは本当に厄介だ、時間が遅く感じるぜ。
「じゃあ、次な。」
不安を振り払うように、話題を変える。
「次はこの世界についてだ。名前はえっと―、ああ、メイナ。メイナだったな。メイナは女神様が言うに、地球と似た星だって話だけど、今の所大きく違うところはない。もちろん、イノシシは狂暴だったし、見たことない植物とかもあったし、村の建物も地球とは雰囲気が違ってたけど。」
そう言いながら、それら様子をもう一度思い出してみる。
…うーん、でもやっぱりそれほど大きな違いは無いように思えるな。
「この世界にしかないような物があればいいんだけどなぁ。」
―あ。
そういえば部屋をしっかり確認してなかった。どれどれ。
えーっと、箪笥、机、椅子、掛け時計…。うーん、目につく物の中に特段変わったものはないように思える。どこにでもありそうな普通の家具や小物にしか見えないな。
もちろん、それらの中には見たことない意匠の物もあるが、デザインが違うくらいは誤差だろう。地球との差異にはカウントできないと思う。
と、そこで、ふと机の上に気になるものを見つけた。
何だろう、とぬいぐるみを一度脇に置きベッドからおりる。
「よっこいしょーいちっ。」
ぷっ―。
無意識に零してしまったセリフに、少し笑いが漏れた。
「横井正一さんも、百年以上自分の名前が呟かれ続けるなんて思いもしなかっただろうな。…しかも地球じゃない星で。」
おほんっ、それはさておきだ、えーと筆立て筆立て…。あ、あった。
「おお!」
筆立てに立ててあった、とある筆記具を手に取り声を上げる。
「鉛筆が…、鉛筆じゃない!」
黒鉛の板が木の板に挟まれて、両端を紐で縛られていた。すげぇ、ウェハース状の鉛筆だ!
これはついに異世界の証拠、ゲットだぜ!!
―と叫びそうになる直前に、はたと思いとどまる。
「…いやまてよ。そもそも鉛筆って昔、というか最初期、どんな形してたんだ?」
調べたことは無いけど、今の地球にあるような形だったとは思えない。むしろ、今手に持っている鉛筆が、実は昔地球でも使われてた可能性まであるよな。
そこに思い至ってから、今朝女神様とした雑談を思い出した。
『進化の可能性は無限にあるとお思いでしょうけどぉ、実はそうでもないんですよぉ。例えばぁ、雷が電気の通りやすい道を選んでジグザグに落ちるように、進化も通りやすい、えーとぉ、すなわち進化しやすい道を通るという法則があるんですぅ、ポケモンの様にいきなり形状が変わることはあり得ませんねぇ。各生物の中でぇ、それぞれの生息する厳しい環境を生き抜ける特徴を持った特殊な個体がぁ何とか生き残り、その命を繋いで少しずつ変化していったのが進化ですぅ。なのでぇ、環境が似た星には似たような生物が生まれるのは、それほど不思議なことではないですよぉ。』
とのことらしい。
実はこういう会話を、あの後交わしていたんだよ。えらいだろ?
それはさておき、その女神様の言葉に俺はこう聞き返したはずだ。
『うん?えーっと…。うーん…、俺の体験談なんですけど、その昔、スノボを始めてみようと友達と二人でスキー場に行ったことがあるんです。でも、二人とも初心者のくせにコーチもつけずに行き当たりばったりで滑り始めたんですよね。調子こいてたんでしょう、若さって怖いですね。で、えーと、もちろん沢山転ぶ事になったんですが、結局誰に教わったわけでもないのに、自然と木の葉滑りを最初にマスターすることになりました。…いわゆるそういう事ですか?』
ちなみに、木の葉滑りとは初心者講習で必ず習う滑り方だ。もちろん一番最初に教わるのは、転び方だろうけれど。…良い子の皆は、上級者の方に教わってから滑り出そうね!
閑話休題。
とにかく、そう聞き返した所―。
『あー。えー、うーん…。まぁ、はい、そういう事でいいと思いますぅ。多分。』
と物凄く曖昧な賛同を貰ったのだった。
余りにも雑談って感じの、要領を得ない会話だったので飛ばしたんだけど、まさかここで思い出すことになるとは…。人生というのは何が役に立つか分からないものである。
「えーと、つまり何が言いたいのかというと、この鉛筆はこの世界、えーと『メイナ』だっけ。『メイナ』独自の物とは言い難いってことだな。」
一人、うんうんと頷いてからベッドに戻り、先ほどと同じ体勢を取る。
ああ、もちろんぬいぐるみを特等席に乗せるのも忘れていない。
「結局これも考えるだけ無駄か。外に出てみないと分からないことだらけだ。なー。」
『そうだにゃん。』
ぬいぐるみの両腕を手で動かしながら、ひとり腹話術をする。腹話術といっても、自分の口は完全に動いているので、ままごとと言った方が近いけれども。
そうしてそのまま、ぬいぐるみの腕をワキワキと動かしていたのだが、ふとあることが気になり、俺はぬいぐるみを隅から隅まで調べ始めた。
『どうしたにゃん?』
「いや、女神様の事だから、盗聴器とか仕込んでて、どこかで笑ってそうで」
そう言いながらも腹話術を止めないあたり、本気で思っているわけではない。ただの遊びだ。
『あ!窓の外を見るにゃん!』
自分の手でぬいぐるみの腕を操作し、窓を指させる。
「何!?」
俺はその声にバッと振り向き、件の窓を確認した。
―何も、いない。
しつこく言うが、ただの一人遊びである。
「なんだ。何もないじゃん。」
『にゃにもにゃいということは、めがみさまはどこからも覗いてにゃいということにゃん。』
―ふむ。そうだな。
ここまで手の込んだ確認をしたんだから、女神様は村に用を済ませに行ったんだろう。
もしどこかで覗いていたなら、今頃笑みを浮かべてドSな言葉を俺に投げつけているはずだ。よかったよかった。
「んー…。でも、女神様も謎の多い人だよな。」
自分の言葉につられて、思考を女神様へとシフトさせる。
これまでの女神様の言動や行動を思い浮かべてみることにした。
俺をこちらの世界に送ってくれたのは神様の仕事だからだとしても、こちらの世界で付き添ってくれるだなんて思ってもみなかった。
まあ、それも女神様が言うにはイレギュラーがあったから、という理由があるらしいが、それにしても至れり尽くせりすぎやしないか。
口では悪びれて適当に誤魔化す傾向があるが、かなり俺のために動いてくれている。そのことについては感謝してもしきれないが、どうしてここまでしてくれるのだろうか。
女神だから、で片付けていいのか?
それに、だ。他にも思うところは沢山ある。
例えば、地球の娯楽の知識の豊富さもそうだし、こちらの世界の知識も多く持っている。今思えば、芥子の扱いとか何故知ってるんだろうか。こちらの世界では常識なのか?
そして一番の謎は、やっぱりあの特殊能力だよな。せっかくの初スキルが『ぬこぱんち』にされたし。
(『ぬこぱんち』)
うーんと唸りながら、『ぬこぱんち』を空中に一発放つ。やっぱり脳内に女神様の声で『ぬこぱんち』と再生される。相変わらず、かわいい声だ。
もう数発、試しに打ってみる。
(『ぬこぱんち』)
(『ぬこぱんち』)
(『ぬこぱんち』)
…。
「ハッ!これって、いつでも女神様の声が聞き放題なんじゃないか!??」
凄いことに気付いた!世紀の大発見だ!
(『ぬこぱんち』)
(『ぬこぱんち』)
(『ぬこぱんち』)
(『ぬこぱんち』)
(『ぬこぱんち』)
「あぁ、幸せだぁ。」
そんな即席の幸せにどっぷりと浸っていると、ぬいぐるみがまたもやその漆黒のまなざしを向けてきた。
いや、もちろん気のせいなんだけども、そのまなざしに後ろめたさを覚えたので、今日はこの辺にしておく。
「ご主人様には内緒だぞ。」
でも一応、釘を刺しておこう。バレたら、脳内『ぬこぱんち』再生機能が取り上げられそうだし。そうなるくらいなら死んだほうがマシだ。
あっと、話が逸れた。えーと、女神様の特殊能力についてだな。
今やった通り、こんなすごい特殊能力をもち、さらに変身能力も持っている。実際は変身ではない、と本人は言っていたが、それでも十分すごい。
こんなすごい能力を持っているのに、鏡を出してとお願いした時には、ここは現実世界なのでそんなことできません、と言われてしまった。
うーん…、脳に何かしらの影響を及ぼす力と、変身っぽい力と、鏡を取り出す力。これらにどんな違いがあるのだろうか。むしろ、鏡を取り出す力が一番ショボく感じるんだけど…。
「なあ、お前のご主人様について教えてくれないか?」
ぬいぐるみを持ち上げて聞いてみても、当然答えは返ってこない。
「はぁ。ま、今度本人に聞いてみるとするか。」
どうせ教えてくれないだろうけど。
でも聞くだけならタダだ。それに、もしかしたらヒントくらいはくれるかもしれない。
「ただいまですぅー。」
そうこうしているうちに、女神様がご帰宅なされた。
いつの間にか結構な時間が経っていたらしい。
「おかえりなさい。」
と俺は声を張り上げ、小走りでリビングに女神様を出迎えに言ったのだった。
―続―
お疲れ様でした。
今回も今回で説明回みたいな話になってしまいました。
しかし、いろいろな謎があるという事が伝わってくれたなら嬉しいですね。
なるべく読むのが苦痛にならないよう、たのしい文章を書いたつもりですが
あまり自信はなかったりします。
それでも最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
是非とも評価、いいね、コメントをお寄せください。ブックマークもお願いします。
このページを下にスクロールして頂くと出来ると思います。
めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします
すると次回は少し早く上がるかもしれません。




