14.女神様が語るこの世界(2)
ぜんかいのあらすじ
「って、雪江死んじゃったんですか?あの後すぐに?」って
主人公がびっくりした所からです。
考え過ぎて、危うく衝撃の事実をスルーするところだった。
―ちょっと待って!
「いえ、正確には雄介さんの死後15年たったあとですねぇ。85歳まで生きました。大往生とは言えませんが、家族に見守られて幸せに息を引き取られましたよ。」
「そう、です…か?それは、―よかったです、本当に。ん?―でも、あれ?計算合わなくないですか?」
俺が死んでから15年後に死んだ?じゃあ、まだ生きてるんじゃないの?あれ?
また混乱するじゃないか!さっきから分からないことだらけで、ちょっと泣きそうだよ。
「もしかして雄介さん、地球で亡くなってすぐ4日前にこの家で目を覚ましたと思ってます?」
「はい。そのあと、奴隷商人に襲われ記憶を無くし、森で目覚めたんですよね?」
「残念ながら違いますねぇ。」
違ったらしい。ホントに残念だ、俺は何もわかっていない。
「地球で亡くなった後、こっちの世界でレイコさんの子供として生まれ、ユウと名付けられました。その17年後、魂に刻まれていた雄介さんの記憶を私が神の力で思い出させたんですぅ。だからぁ、今の時点で雄介さんが地球で亡くなってからだいたい17年と妊娠期間分を足した時間が経ってますねぇ。」
ああ、なるほどそういう事だったのか。これで今までの女神様の言動の辻褄が合う。
「わかってくれましたかぁ?」
「はい。冷静に考えれば、輪廻転生だって初めから言ってましたね。俺が死んでから生まれ変わるんですから、17年経ってる方が自然ですね。」
ようやく、ほんとにようやく一つ納得することができた。理解遅くて、ごめんなさい女神様。
―でも、そうか。
雪江は約束を守って子供たちを見守ってから逝ってくれたんだな。ありがとう雪江。
「分かってくれたようで良かったですぅ。一応これがこの世界の簡単な説明になりますがぁ、なにか質問はあります?」
説明を終えた女神様は、軽く笑みを浮かべてから質疑応答タイムにシフトさせる。
質問、…質問ねぇ。
質問する程理解はしてないのだが…。うーん、とりあえず―。
「雪江は死んだ後どうなったんですか?」
これは聞いておかないと、死んでも死にきれない。いや、すでに死んで転生しているけども。
「雪江さんは大多数の人と同じように、85歳で亡くなった後の魂は輪廻転生せずに安らかに成仏していますねぇ。」
「それは良かったです。」
雪江の顔を思い出し、しばらく物思いにふける。
年を取ると涙もろくなっていけねぇや…。
「あ、そういえば前に、普通の人の輪廻転生回数は三、四回だって言ってましたけど―。」
「ああ、ちょっと待ってください、輪廻転生の話を広げるのは長くなるので無しで。今回はこの世界についてのお話にしましょう。」
しんみりした心を振り払おうと無理やりひねり出した質問は、最後まで言い切ることなく女神様に制されてしまった。むぅ。
「そんな顔しないでください、隠してるわけじゃないですぅ。いずれお話しますから。いっぺんに説明しても理解できないと思うので、少しずつお話しますってことですぅ。」
―そうか。まあ、いつか話してくれるなら、ここは潔く引き下がろう。
言葉の終わりに「2巻や3巻まで続けばの話になりますが」と、よく分からない事を最後に呟いていたが気にしないことにする。
じゃあ話を世界の方に戻すか。で、何を聞こう…。
えーと、じゃあ―。
「地球とこの世界の違いは、これから自分でゆっくり探していくとして、分からないのは言葉ですかね。言語が全く同じなのは何でですか?俺は日本語しかわからないんですけど、この村の人と会話出来ましたよね。」
みんなも不思議だと思わないか?
「誰に聞いてるんですか。…まあそれはさておきぃ、結構いい質問しますねぇ。結論から言うと、言語も同じではないですよぉ?それなりに地球と違いますぅ。」
「え?でも違和感なくコミュニケーション取れてましたよ?」
一昨日、村の皆と話したんだから間違いない。変なところは特になかったと思う。
「まずぅ、この村というか、この地域の言語は日本語と似た進化を経ているのは確かですぅ。でも、日本語とはやっぱり違いますねぇ。日常会話の中で常に齟齬が発生するレベルで違います。じゃあ何故、雄介さんにはしっかり理解できるのかというと、それはですねぇ…。」
ここでもったいぶるように、間を少しとられた。
一千万円の賞金はかかってないのでサクッと説明して欲しいが、説明を受ける身なので、女神様の説明プレイに付き合ってあげよう。
「ユウさんとして17年この世界で過ごした記憶があるからだと思いますぅ。」
「だと思います?」
珍しくあやふやな答えだった。もったいぶった意味あまりないじゃん。
「そもそも俺にユウだった時の記憶は無いですよね?」
「うーん、そうですねぇ。でも、記憶喪失っていうのは主に『自分に関する記憶』を忘れるのであって、生活に必要な知識は覚えてるっての聞いたことありませんかぁ?」
「ありますね。というか、それしか思いつきません。」
「まさにそれだと思うんですぅ。ユウさんが17年間の生活で得た記憶は忘れていないんじゃないかと思いますぅ。実際に雄介さんの頭の中を覗き見ることは出来ないのでぇ、憶測でしかないのですが。」
でも、それだと納得がいく。というか、そう説明されると、もうそうとしか思えない程筋が通っていた。
ちなみに後から聞いた話にはなるが、女神様はこの事について昨日考えていたようだ。つまり俺が寝ている間にってことになる。
それはさておき、とにかくユウはしっかり俺の中に居るらしい。今そのことを初めて実感できた。
そっと胸の近く手をあてて自分の鼓動を感じながら、ありがとうと心の中でユウにお礼を言った。もちろん、ユウからの返事などなかったけれど。
「なるほどです。納得いきました。」
「はいぃ。でも良かったですぅ、言葉が通じて。その記憶まで無くなってたらすごく大変でしたぁ。でもぉ、イノシシはユウさんの知識を引っ張ってこれなかったっぽいので、あくまで言葉だけなのかもしれませんねぇ。うーん、生きる上での最小限の事だけ忘れてないのでしょうか、言葉さえ忘れてなければ周りの人に助けを求められますし…、特に今回は雄介さんという別の意識が存在してるので…」
最後の方は、女神様が考え込んでしまって独り言みたいになっていた。
今もぶつぶつと何やら言っているが、それをしっかり聞いたところで俺に出来ることはないだろう。
唯一出来ることは、うんうん考えている女神様を見つめ続けることだけだ。
「あぁ、ごめんなさい、考え込んでしまいましたぁ。」
「いいんですよ、気にしないでください。どうせ今日はずっと暇ですから、女神様観察ぐらいしかやることないですし。」
「あ、今日私外出てきますねぇ。」
しまった!言わなきゃよかった!なんてこった!
「残念な人ですねぇ、相変わらず。でも、雄介さんの言葉とは関係なくてですねぇ、ちょっと村を見てきたいので、今日はしばらく外に出ますねぇ。」
「僕も行きたいです。」
「だめですよぉ、治るまで安静にしていてください。明日、明後日くらいにはよくなりますのでぇ、それまで我慢ですぅ。ぬいぐるみは貸しといてあげますので、それで我慢してくださぁい。」
女神様とのデートはお預けらしい、もう今日の予定はふて寝で決定だ。
ゆいぐるみと添い寝でふて寝だ。クンカクンカしてやろう。
「じぃー…。」
ん?女神様が自分でオノマトペを発音しながら、こちら見つめてるぞ?
「あんまり変なことに使わないでくださいねぇ。」
「使いませんよ、大丈夫です。ぬいぐるみの貞操は俺が守ります!」
「なんですか、ぬいぐるみの貞操ってぇ…。」
ため息をつきながら女神様が言う。
なんか俺と喋ってるとため息多くないですかね?
「気のせいじゃないですよぉ。」
「いや、そこは『気のせいですよ』でしょ!」
その後はしばらく、こんな感じで女神様とじゃれつつ他愛もないやり取りを交わした。
楽しいお喋り時間を三十分くらい味わった頃、女神様が少し出かけてきますねぇと席を立った。
「あ。最後に質問いいですか?」
歩き出そうとした女神様を、呼び止める。
「はい、なんでしょう?」
「この世界というか、星の名前ってなんていうんです?」
「ああ。」
言ってませんでしたねぇ、と女神様。そして以外にも、もったいぶらずに教えてくれた。
「それはですねぇ、『メイナ』ですよ。少なくともここら一体ではそう呼んでますぅ。」
へぇ、『メイナ』か、いい響きだ。
うんうんと二回ほど深く頷いて、俺はその名前を心に刻み込む。
「あ、さっそく地球と違うところ発見しましたね。もしかしたら、ここも地球と呼ばれてるのかと思いました。」
「そうですねぇ。ただぁ、他の土地に行けば『地球』と呼んでいる地域があるかもしれないことは頭に留めておいてください。少なくともこの辺りでは、メイナって呼んでますぅ。地球にもたくさんの言語があるように、この星にもたくさん言語がありますのでぇ。さすがに私も、全ての言語は把握してません。」
世界が、もしくは星が、どの地域でも共通の呼び方をされているとか創作の中でしかありえませんよぉ、と女神様が付け足す。
あぁうん、確かに地球も国によっていろんな呼び方されてるしな。
「ちなみに、意味とかあるんですか?」
「メイナのですか?えーと…たしかぁ、すべての命がまとまった土地とかそんな意味だったはずです。」
説明は終えたとばかりに、女神様は出かける準備を進め始める。
すべての命がまとまった土地、か。うん、思っていた以上にカッコいい名前だ、地球とは大違いである。いや、別に地球という言葉が嫌いというわけでは決してないのだけれども。
「では、いってきますねぇ。先ほども言った通り、雄介さんの体が治ったら記憶のサルベージ作業を行うので、しっかり休んでくださいねぇ。」
「了解ですよ。引き留めてすみません。」
いえいえ、と言いながら振り向きざまにサッとマオに変身してから玄関をくぐろうとする女神様。右手を軽く上げて、背中越しにひらひらと言ってきますの合図を送ってくれた。
そんな彼女を気持ちよく見送ろうと、いってらっしゃいと声をかけるために口を開く。
「あれ!?変身バンクは?」
「はい?」
俺の大声にビクッとした後、女神様が振り返る。
自分でも予想以上の大声だった。いや、でもだって、仕方ないじゃん?
いってらっしゃいとか、呑気に言ってる場合じゃいない!
「くるくる回ったりとか、一瞬裸になるけど謎の光でシルエットしかみえないとか、豪勢なBGMが流れるとか、ないんですか?」
「はぁ?あるわけないでしょう?そもそも変身ではないって、前に言いましたよね?」
「えー、たしかに言ってましたけど…。視聴者サービスとか、ほら、ないんですか?」
なんだ、がっかりだ。がっかりだよ。
「ないですよ。そもそも視聴者ってなんですか。」
「ここにいるじゃないですか。」
と、自分に指を向ける。視聴率100%で待ってますよ。
「はぁ…。そんなサービス過多、ありませんよ。じゃあ、いってきますぅ。」
―ちぇっ。
「はーい。いってらっしゃい。」
女神様、もといマオを見送った後、テーブルに置いてあったフルーツを一つ掴む。それを二つに割ってみると…うん、見た目通りイチジクみたいだ。甘くておいしそう。
その甘みをじっくりと堪能してから、ベッドに戻って体を横たえた。ふぅ。
―お?
ぬいぐるみがお帰りと言ってくれた気がするぞ。うりうり、可愛い奴め、クンカクンカしてやるぜ。
そうして思う存分女神様の香りを間接的に堪能した俺は、体を早く回復させる為にもう少し眠ろうかと、ゆっくり瞼を閉じたのだった。
―続―
お疲れ様でした。
この世界についての説明が、一応軽くですが終わりました。
前回も後書きで書きましたが、
また世界についてはどこかで語られる時が来るかもしれません。
それまでは、皆様の好きに想像していて大丈夫です。
では、今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
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すると次回は少し早く上がるかもしれません。