13.女神様が語るこの世界(1)
ぜんかいのあらすじ
村に戻って来た主人公。
村人に心配をされながらも、何とか帰宅。
お風呂にはいってぐっすり寝ましたとさ。
「知らない、天井だ…。」
目を開くと、木造の天井が広がっていた。
お分かりの通りだが、こんなセリフを吐くくらいには頭はもうしっかりと覚醒している俺。一度は言ってみたかったセリフを言えたのが、嬉しい。
にやける顔を抑えながらゴロンと横へ寝返りを打ち、お隣さんに声をかける。
「おはよう。」
添い寝をしてくれていたぬいぐるみを手に取ると、そこから女神様の香りが溢れ出る。うん、安心する。
そしてまた、よいしょと体を転がして仰向けに戻り、ぬいぐるみに語りかけた。
「えーと、確か昨日の夜、女神様と晩御飯を頂いた後に…俺のらしいベッドに横たわって、そのまますぐ眠りについた…んだっけか。」
語りかけるというより状況確認だな、こりゃ。
―よしっ!
一つ気合を入れてから掛け布団をはねのけ、足を振り上げた。そしてその足を振り下ろす勢いで、上半身を起こす。ふんっ!
「あ゛がっ!」
あ、体痛い…。まだ万全じゃないようだ。
痛む箇所を擦ろうと手を動かしたが、痛む箇所が多すぎて諦めた。その代わり、とは言うわけではないが、背中を丸めて嵐が過ぎ去るのをおとなしく待つ。
薬はどうやら切れてるらしい、そりゃそうだ。それでも、昨日森で目覚めた時よりは随分とマシだ。
―うん。
よし、じゃあ女神様に挨拶に行こうか。
「おはようございます。」
部屋を出たあと、居間で座っている女神様を見つけたので挨拶をする。昨日の冒険者ルックではなく、普通の村娘という格好だ。えと、たしか昨日見た村人の女性たちもこんな恰好をしていたはずだ。
その女神様は、顔を上げてこちらを向いて気持ちよく返してくれた。
「おはようございますぅ。よく寝てましたねぇ。」
「今何時です?」
テーブルでメモ帳を開き何か書き込んでいたらしい女神様は、俺の質問を機にとそれを懐に仕舞う。
何を書いてたんだろうか、少し気になる。
「朝の8時ですねぇ。」
壁にかけられた時計を見ながら答えてくれた。
「ああ、そう言えば時計あるんでしたね。」
昨日お風呂の前に発見していたのに、完全に忘れていた。お恥ずかしい。
「懐かしのゼンマイ式ですよぉ」
「おお、マジですか!初めて見ました。」
ちょっと感動だ。あとでゼンマイを巻いてみよう。
それはさておき、昨日最後に時計を見た時は確か7時頃だったはずで、―だとしたら寝たのは8時過ぎくらいか。
うん、我ながらよく寝たな、お腹もぐぅぐぅなっている。
「朝ごはんにしましょう、お腹すきました。」
「でしょうねぇ、丸一日何も食べてないですもんね。今用意しますよぉ。」
「はい、お願いします。」
んしょっ、と立ち上がる女神様はそのまま台所の方へと歩き出す。
―ん、あれ?
首をかしげる。
「ちょっと待ってください。」
「はいぃ?何でしょう?」
歩みを止めて、俺の方をむきながら応対してくれた。
「昨日の夜、食べましたよね?幼虫。」
「ああ。それは一昨日ですねぇ。」
「へ?」
何だそんなことかと、女神様は止めた足を再び動かして、パンを取り出しにかかる。
朝食はトーストらしい。
いや、そんなことより!
「俺、丸一日寝てたんですか!?」
「ええ、まあ、そうなりますねぇ。というか、何回か目覚めてお手洗いに行ったり、水飲んだりしてたじゃないですかぁ。覚えてないんです?」
「いや、そう言われればそうなんですが…。」
そんなに時間が経ってるとは思ってなかった。
というか、36時間寝るとかあり得るのか?いや、実際自分が体験したらしいけども。
「ここの一時間は地球の一時間よりちょっと短いのでぇ、実際は36時間も寝てはいないですが、それにしても沢山寝ましたねぇ。」
そう言いながら、女神様がトーストをテーブルに並べる。お、ゆで卵付きだ、やった。
「どうりで…。だからあんなにスッキリと目覚めたのか。」
「どうせぇ、『知らない天井だ…』とか言いながらぁ、ひとりベッドの上でニヤニヤしてたんでしょう?」
ばれてる!?
「うわぁ、パン美味しそう!いただきましょう!」
「はいはい、図星ですねぇ。いただきます。」
そうして、朝のひと時が過ぎる。必死のごまかしも残念ながら無駄に終わったのだった。
◆◆◆
「雄介さんはまだ万全じゃないのでぇ、今日もおとなしくしていてくださいね。」
朝食が終わり、一息入れた後に女神様がそうおっしゃられた。
体の痛みは大分マシになったとはいえ、まだしっかりと痛む。うむ、仕方ない、言われた通り休むことにしよう。
「安静にしている間、この世界についてお話しますよぉ。」
「あぁ、そういえば、まだ聞いてませんでしたね。」
「タイミングがなかったですからねぇ。」
昨日…じゃなくて、一昨日はイベント盛りだくさんだったからなぁ。今日はゆっくりしたい。
すると、あぁその前に!とテーブルを挟んで座っている女神様が手をぱちんと合わせる。
「雄介さんの―、というかユウさんのご家族のことですがぁ。」
「なにか分かったんですか?」
「いえ、そうじゃなくてぇ、村の人が捜索隊を出してくれてます。」
それは本当にありがたい。
自分の事とは思えないとはいえ、俺のために尽くしてくれるみんなの気持ちはとても嬉しい。
いい村に生まれたんだな。
「体が治り次第、俺も参加します。」
村の人にだけ任せてしまうのは忍びないという思いからの提案だったのだが、女神様にすぐさま却下されてしまった。
「いえ、雄介さんには体が治り次第記憶を思い出して貰いますぅ。この世界に来てからの記憶になりますけど。闇雲に探しに行くよりは、いいと思いますぅ。」
「え?まあ、それは構いませんが、そんなことできるんですか?」
「うーん、正直上手くいくかは分かりませんがぁ、やってみる価値はある、かと?」
目線を上に向けながらの返答、少し自信が無さそうだ。
方法はよくわからないが、女神様がやることなら余計な心配はいらないだろう。彼女に一任しよう。
「わかりました。じゃあ、それでお願いします。」
「はいぃ、任されましたぁ。」
では、と断りを入れてから、女神様が本日の本題に入る。
この世界について、だったか。大事な話だ、しっかり聞かないと。
俺は椅子にしっかりと座り直して、彼女の声に耳をかたむけた。
「雄介さんは、収斂進化ってご存知ですか?」
「読めないです。ルビ振ってください。」
「えぇ~、めんどくさいですねぇ。『収斂進化』です。これでいいですかぁ?」
「ああ、はい。ありがとうございます。しゅうれんしんか、聞いたことがあるような…。うーん、分かりません。」
説明を始めながら、例のメモ帳を取り出す女神様。
どうやら、それを見ながら説明をしてくれるらしい。ほんと何が書いてあるんだろうか、この世の理全てか?
「収斂進化っていうのはぁ、違う種類の生物が似たような環境で育つと、それぞれ似かよった進化を遂げることですぅ。」
「うん?」
「例えば、ですねぇ…。サメとイルカ、アリとシロアリ、アルマジロとセンザンコウとか。」
「ああ!なるほど。」
そういう事か。サメは魚類でイルカは哺乳類、それなのに似たような形してるよね、あいつら。
どこかで聞いたことがある言葉だと思ったら、ナショジオで聞いたのか!なるほど、なるほど!
シロアリはたしかゴキブリの仲間だし、アルマジロとセンザンコウも全然別の生き物で住む場所も違うのに、うろこで身を守るのが得意なフレンズだった。
「フレンズって…。別に友達通しじゃないですけどねぇ、その二匹。」
「いいんですよ、スルーしてください。で、収斂進化については、なんとなくわかりましたが、それがこの世界と何か関係があるんです?」
「そんなに焦らないでくださいぃ。えーとぉ、雄介さんはこの世界のイノシシを見た時にぃ、ちゃんとイノシシだと分かりましたよね?」
「はい、見た目がそのままイノシシのソレでしたから。ん?それが、収斂進化の結果ということですか?」
腕を組み、右手の拳の上に顎を乗せて考えながら問いかける。
地球のイノシシと似たような環境で育ったこの世界の生物、それが前見たイノシシだという事かな。
いわゆる、結果的に地球のイノシシと似たように進化した別の生物。
「うーん、まあ間違ってはないです。けどぉ、正解ではないですねぇ。別の生物と言えるほど、遺伝子的には違いませんし。それにですねぇ、それだとこちらの世界でも、地球と同じようにイノシシと呼ぶ理由にはなりません。」
「というと?」
「イノシシ自体と、イノシシと名付ける側の生き物は別々の進化を辿ってきているはずですぅ。地球のイノシシとこの世界のイノシシが似ているのは収斂進化した結果だとしても、この世界の人間がその動物をイノシシと名付けるとは限らないってことですぅ。」
そう…、だな。
イノシシは自分がイノシシと呼ばれていることなんて知らないだろうし、興味もないだろう。それは人間が勝手に決めた呼称だ。
じゃあ、どういうことだ?
「ヒント。」
人差し指をたてて、女神様が手助けしてくれる。
いや、答えをそのまま教えて欲しいんですが。
「今朝食べたものは、こちらの世界でもパンと卵ですしぃ、昨日食べたものは羊肉ですぅ。イノシシだけがたまたま同じ呼称というわけではないですぅ。」
俺の思いとは裏腹に、すんなりと教えてくれるつもりはないらしい。
仕方ない、少し考えてみるか。うーん…。
名前を決めるのは言語を喋れる人間なわけで、だとしたら―。
「人、間も…、地球の人間と…こちらの人間で、収斂進化している?」
これならば、理由として成り立つか?
「少しは正解に近づきましたが、まだ足りないですねぇ。もっと視点をマクロにしてみましょう。」
もっと視野を広げろって?う~ん?
頭が固い俺には、どうも答えは出そうにない。首をひねり続けても時間の無駄だろう。
「降参です。教えてください、女神様。」
すんなり諦めて、両手を挙げる。
それを見た女神様は、もうちょっと頑張ってくださいよぉ、とぼやいてから正解を発表してくれた。
「正解は、この世界そのものが地球と収斂進化している、ですねぇ。」
予想よりはるかに規模が大きかった、というか規模が大きすぎて想像がつかない。
相槌の言葉すら口から出てこなかったので、目をパチクリさせて女神様に続きを促す。
「雄介さんはこの世界をファンタジーか何かだと思っているかもですけどぉ、実は地球と同じ宇宙にある別の星になりますぅ。なのでぇ正確には異世界ではなく、異星界ですねぇ。」
女神様はそう前置きしてから、さらに説明を続けてくれる。
「地球と似たような条件の星、つまり気圧、気温、気候、物質、光量等々、いろんな物が同じと言わないまでも、かなりの割合で似通った星がこの星ですぅ。なのでぇ地球と似た生物が生まれ、似たように進化してきました。もちろん人間に似た生物も生まれ、その言語も似たようなものに発展。言語だけでなく、技術や知識も似通ってますぅ。むろん、雄介さんもお気付きの通り、地球程この星はまだ発展していませんがぁ。」
ここまで説明して女神様が一息つく。少し考える時間をくれるようだ。
惑星の、収斂進化…か。言いたいことは分かるし、それなら今までの話の説明が確かにつくが…。
そんなこと、起こりうるのか?
いや、確率的にはありうるのだろうが、その確率はゼロに限りなく等しいだろう。となれば、それはもう可能性ゼロと言い切ってもいいんじゃないのか?
「にわかには信じがたい話ですね。」
とりあえず、手放しで肯定できないという意志を明らかにしておこう。
「うーん…、確かにそう思われても仕方ない話ですが…。」
どうやら説明が難しいらしく、女神様が腕を組んで長考に入る。
そして、たっぷり1分ほど考えてから再び口を開いた。
「地球と全く同じ、という星は雄介さんの言う通り、存在しないでしょう。でも、地球と似たような環境の星なら、実は宇宙に結構たくさん存在してるんですぅ。その中でぇ、最も地球と似たような進化を遂げた星がこの世界になるんですぅ。もちろん似ているだけですのでぇ、違うところも結構ありますよ?」
「そうなんですか。えーと、例えば?」
「それは自身で世界を歩いて探してみてくださいぃ。某夢の国で幸運マークを探すよりは簡単に見つかると思いますよ?」
この世界には夢の国なんて存在しませんけどねぇ、と女神様。
その提案はとても楽しそうだけれど、俺はやはりまだ納得がいってないようだ。いつの間にか組んでいた腕に加えて、更に眉間に皺が寄る。
「ではぁ、雄介さんは、宇宙にいくつ星が存在するか知ってますか?」
「いえ、星にはあまり興味なかったので。」
「そうですかぁ。まあ、それは仕方ないとして、宇宙には星は10の24乗個程存在すると地球では言われています。実際はもっとたくさんですねぇ。」
10の24乗…途方もない数過ぎて想像がつかない。
そもそも数字の桁は京までしか知らないんだけど、それよりは多いんだろう。
「1京と言えば、安心院さんが持つスキルの数くらいですねぇ。1京は10の16乗ですのでぇ、その一億倍になりますぅ。」
「んんん?」
余計分からなくなった、いや安心院さんは分かるけども。
はぁ、もう諦めよう。とにかくたくさん、俺が想像できない程たくさんの星が宇宙にあるという事だ。
組んでいた腕を脱力させ、首を横に振りながら降参のポーズをとった。
「そうですぅ、雄介さんの頭では到底理解できない数の星が宇宙に存在してぇ、その中の2つの惑星がたまたま似たような進化を経て、似たような星になっていると考えて下さいぃ。」
「分かりました。無理やり納得することにします。というか、実際に俺がこの星にいるので納得せざるを得ませんしね。」
「それでいいと思いますぅ。というわけでぇ、雄介さんの子供や孫たちはこの宇宙のどこかで、今も頑張って生活していますぅ。雪江さんは、残念ながらもうお亡くなりになっていますが。」
そうか、この世界は地球と同じ宇宙で繋がっていることになるのか。
女神様が言った通りファンタジーな世界なんだと思っていたけど、SFのほうが近かったのか。まあ、フィクションじゃないんだけども。
「って、雪江死んじゃったんですか?あの後すぐに?」
―続―
お疲れ様でした。
この世界についての説明が、女神様によってなされています。
なるべく分かりやすく書いたつもりですが、分かりにくかったらごめんなさい。
次回も、引き続き女神様が説明してくれます。
説明してくれないことは、きっといつかどこかでまた
女神様が説明してくれると思いますので、ゆっくりお待ちください。
では、読んでくださりありがとうございました!
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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします
すると次回は少し早く上がるかもしれません。