12.女神様と一日の終わり
ぜんかいのあらすじ
村に帰って来たぞ。皆に心配されたけど、謎が少し解けたぞ。
「あ、女神様に戻ってる!」
頭を拭きながら居間に戻ると、いつもの見慣れた女神様が食事の準備をしてくれていた。
ちなみに俺は、一応ぎりぎり『タオル』と言えない事もない『タオルのような布』を使っている。どうやら柔軟剤というものは、まだ存在していないらしい。
それはさておき、食器をテーブルに並べている女神様は、意外と慣れたご様子だ。
「私を何だと思ってるんですかぁ?」
「いえ、神様なのでこういった事には慣れてないのかと…。」
女神様は別に怒った口ぶりでは無かったが、しっかりと言い訳はしておこう。好感度は大事だ。
そういえば前にコーヒーも淹れてくれてたな、家事もいけるのかもしれない。いや、うんちだったけども。
それに、お風呂場の前にはいつの間にか着替えも用意されていたし。万能だな、女神様。
「お料理もしてくれたんですか?」
そう聞きながら、台所の方へ視線を向ける。
あれ?使われた様子が無いぞ?
「ライルさんが持ってきてくれましたよ。いい方ですね、ライルさん。」
「ああ、持っていくって言ってましたね。ホントに頭が上がらないです。」
おっさんと出会えたことは、この世界に来てからの二番目の幸運だとおもう。ちなみに一番目の幸運は言うまでもない。
「では、頂きましょうか。」
そう言って席に着く女神様。俺もそれに合わせて向かいの席に座り、手を合わせる。
命に対しても勿論だが、今日はおっさんへの感謝を一番に―。
「いただきます。」
「いただきます。」
女神様と二人、声が重なる。見てみると、彼女も手を合わせていた。
「女神様もいただきますって言うんですね。」
「へ?あぁ、日本の神様ですからねぇ。」
俺の質問が予想外だったのか、目をパチクリさせてから答える女神様。皿に伸ばした手が、宙ぶらりんで止まっている。
ふむ、日本の神様だから日本の作法に則る、たしかに不思議でも何でもないか。
「そんなことよりぃ、さっそく食べましょう。これとか美味しいですよぉ!」
「あ、はい。」
差し出された皿を引き寄せ、一口分を掬ってみる。
…うーん、これはなんの料理だろうか。
スプーンの上に盛られた白くて小さく細長い粒々は、多少の差異はあれど、お米の様にも見えるな。
とにかく頂いてみるとしよう。あ~―。
「んっ?」
噛んだ瞬間にプチっと弾けた。
そんな予想外の食味に多少の混乱をきたして、少し声が漏れてしまった。
「どうですかぁ?」
感想を急かしてくる女神様に左の掌をピシッと見せつけつつ、じっくりと咀嚼する。
―うん。…うん、なるほど。
「いや、美味しいです。予想してた味と違ったので最初ちょっとびっくりしましたが、塩味の後からほんのり来る甘味や、このプチプチっとした食感。癖になりそうですね。」
「思ってた以上に、マジな食レポしますねぇ。でも気に入ったようで良かったですぅ。」
「幸福グラフィティが好きでした。」
「美味しんぼと言った方が、雄介さんらしいですよぉ?」
「それはさておき、これ何なんですか?」
問いながら、もう一口分掬う。
最初は米か何かと思ったが食味が全然違った、いったい何だろう。というか、俺らしいとは一体どういう意味ですか、女神様。
まあでも、そんなことは今はどうでもいいか。食欲には抗えないし、持っていたスプーンが早く口に運んでくれと訴えている。
よーし、じゃあすぐに迎えに行ってやるからなー。あぐっ、うん、うまい。
俺がもぐもぐする様子を嬉しそうに確認した後、さっきの質問に遅ればせながら女神様は答えてくれた。
「幼虫ですぅ。」
―ブフォッ!
「ちょっとぉ!今回で三回目ですよ!なんでまた吐き出すんですかぁ!!」
「誰でもこうなりますよ!というか、二口目を口に含むの、しっかり待ってから答えた女神様が悪いじゃないですか!」
「テヘペロッ。」
俺と違い擬音を口に出しながら、口の斜め上にチロッと舌を出す女神様。
可愛いので許す!
「はぁ。で?何の幼虫なんです?」
「蜂ですよぉ。美味しいですよねぇ。」
そう言って、女神様も幼虫を口に運び、もぐもぐする。ご満悦そうだ。
まあ蜂の子ならそれほど抵抗もない、ありがたく頂こう。美味しかったしな。
「それなりの高級食材ですからぁ、ありがたく頂きましょうね。」
「そうなんです?」
「養蜂家はもちろんいらっしゃいますけどね、数集めるのはやっぱり大変ですからねぇ。」
「なるほど。おっさんに感謝ですね。」
おっさんもホントに人がいい。
いや、いい料理を惜しげもなく出してくれる程、俺と、というか俺の家族と深い仲だったということか。
はやく思い出してあげたいな、おっさんのこと。
「あ。ちなみにですが、他の料理を先に教えてもらっていいですか。」
テーブルの上には、後二品のおかずが乗っている。
また後出しでビックリさせられたら心臓に悪い、しっかりと聞いておこう。
「あはは。もう、変わったものは無いですよぉ。ヒツジ肉と野菜のスープですね。」
「ならよかったです。」
パンをちぎりながら、会話をする。お、このパンも美味しい。
「変わったものと言いましたが、この世界では幼虫は変わったものじゃないですけどね。昆虫食は普通にポピュラーです。栄養価も高いですしねぇ。」
なんと。
ということは、今後は食事に昆虫が普通に並ぶという事か…。それなりに覚悟しておかないとな。
ちなみに、俺が30代の頃の日本は昆虫食はほとんど認知されていなかったが、死ぬ前くらいではそれなりに民衆に広まっていた。国際機関が昆虫食を推し進めていたのもあるが、やはり動画投稿サイトの存在が大きい。昆虫食動画はそれなりの規模で市民権を得ていた。
とはいっても、見た目はやはり受け入れがたく、未だに広く普及されるには至っていなかった。なので、俺もその例に漏れず、昆虫を食したのは今日が初めてだった。
でも、うん、おいしいな。
「そういえば、女神様に戻ってますけど、どうしたんですか?」
お風呂上りに聞きそびれた事を、今更ながら尋ね直す。おお、野菜スープもいい出汁がでてるじゃないか。
「マオのままが良かったですかぁ?」
「いえ、こっちがいいです。安心します。」
見慣れた女神様の方がやっぱり落ち着く。
マオも美人だけど、今の女神様の方が彼女の性格に合っているとも思うし。
それに、集会前の休憩中にマオが一度ポンチョを脱いでいたのを見たけど、今の女神様のほうが大きかった。どこがとは言わないけど。
「それならいいじゃないですかぁ。って、どこ見てるんですか?」
どうやら理由を教えてくれる気はないらしい、謎の多い女神様だ。
ちなみにその女神様は、腕で胸元を隠しながらジト目でこちらを軽く睨んでいる。
それにしても、ご飯を食べるだけで元気ってのは出てくるもんなんだな。お風呂に入ってた時は、会話するのも面倒だったのに。
「それじゃあ、こっち答えてください。」
「はい?何でしょうか?」
女神様が女神様に戻った理由を聞きだすのを諦め、道中で聞けなかった事を聞くことにする。
お、羊肉ってあまり食べたことないけど、これはこれで悪くない。もちろん臭みは独特だが、慣れれば癖になる。というか、ソースが上手い事臭みとマッチしておいしさを引き立ててるのか。もぐ。
「ん。えーと、どうして街道に出た時、この村と逆方向に向かったんです?まさか、勘で歩き始めたってことは無いでしょう?」
羊肉を飲み込んだ後に尋ねると、同じように羊肉を飲み込んで女神様が言う。
「ん。あー、それはですねぇ、えーと。…勘、じゃダメですかぁ?」
「今夜添い寝してくれるなら、それで手を打ちます。」
混浴チャンスを逃してしまったのに、添い寝チャンスまで失うわけにはいかない。フラグはちゃんとここに建てておかないと。
「そんな展開になるフラグは、そもそもありませんよ。」
またまたジト目で返された。―あ、すこし癖になってきたかも。
「はぁ。わかりました、答えますよぉ。とは言ってもぉ、森の中で言ったこととほとんど一緒ですが。」
そう前置きしてから、女神様が胸中を明かしてくれた。
「村の人から聞いた通り、かなり深刻な事件に雄介さんが巻き込まれていたのでぇ、せめて体が元気になるまでは雄介さんに聞かせたくなかったんですぅ。体と同時に心まで疲れてしまうと大変ですからねぇ。まあ結局、雄介さんは何も思い出せなかったおかげで、心にそれ程ストレスを与えなくて済んだわけですがぁ。はぁ、取り越し苦労でしたねぇ。返してください、私の心配。」
気恥ずかしいのを誤魔化すようにスープで喉を潤す女神様。
なんか申し訳ない。返せるものなら返したいけど、返せるものではないので、その代わりにお礼をお返ししておいた。ありがとうございます。
そう言ってから、女神様と同じようにスープに手を伸ばす途中で―。
「そもそもです!異世界と言えば、よく奴隷の話が出てきますけどぉ、そんな簡単に取り扱っていいような物じゃないんですよぉ!日本はそりゃ平和でしょうけど?現代の地球でも奴隷は数多くいるんです。もちろん奴隷という呼称では、ほぼ呼ばれてませんが、奴隷と変わらない生活を余儀なくされている人が沢山いるんですぅ!それを簡単に奴隷奴隷と、どのラノベも簡単に女の子を隷属させて!奴隷から女の子を救って俺カッケーとか、納得いかないんですよぉ!女の子を傅かせたいなら、まず男としての魅力をあげろってんですよぉ!」
いきなり、感情に任せて不満をまくしたて始めた女神様、どうやら何かの地雷を踏んだらしい。俺が踏んだわけじゃないが、女神様が自分で踏んだらしい。
あのぉ、それくらいにして頂けませんか、耳が痛いです。そんなラノベを楽しく読む日々を過ごしてごめんなさい。
「雄介さんはぁドМですのでぇ、女の子を隷属させるとかしなくて、安心ですよねぇ。」
「はい?そ、そうですね!」
上ずる俺の声。女神様の声がコワイ。
と、とりあえず頷いておこう。ドМかどうかはこの際どうでもいいや、女神様をこれ以上暴走させてはいけない。いろんなところから苦情が来そうだ。
「そ、それでですね!結局、森に入った後については分からなかったですね、どうして記憶を無くして倒れてたのかってのが。それに一緒に森に入ったらしい家族も見かけませんでしたし…。無事なんでしょうか…。」
「そうですね、そのことについて何ですがぁ…。」
話題を無理矢理戻したことで、女神様は冷静さを取り戻したようだ。忘れていたかのように中途半端だった手を再び動かし、パンをちぎって口に入れた。
「やっぱり雄介さんの体が回復したころにお話します。理由は先ほどと一緒ですぅ。ダメですか?」
いいに決まっている。
こんなに心配し続けてくれている女神様の言う事だ。よくないわけがない。
「聞くだけ野暮ってもんです。俺の体の事は女神様に一任しますよ。」
「そうですかぁ。」
嬉しそうに笑う女神様。うん、今日も良い笑顔だ。
「では、今日はすぐに休んでくださいね。まず、そのボロボロの体をしっかり治しましょうぅ。」
「了解です。」
食事もそこそこに、就寝の準備に入るため席を立つ。
片づけくらいやりますよ、という俺の言葉を言外に取り下げ、女神様は俺の背中を押して寝床へと導く。
こうして、俺の長かった異世界生活初日はようやく幕を閉じるのだった。
「あ、女神様。添い寝は?」
部屋の入り口で女神様に振り向き、ラストチャンスに賭けてみる。
「えぇ?仕方ないですねぇ…。ちょっと待っててください。」
そう言いながら、部屋の隅の方へ足を運ぶ女神様。
え?まじ?してくれるの?
「これで我慢してください。はい。」
と、再び近づいてきた女神様に何かを手渡される。
それは、いつか彼女の空間で見た、あのぬいぐるみだった。
―続―
お疲れ様でした。
とうとう長い一日が終わりを迎えましたね。当初は初日がこんなに長くなるとは思いませんでした。
それでも、初日に入れたい情報は大体予定通りに入れることができたと思います。
次回から、また色々なことが分かってくると思いますので
是非とも読みに来てくれると嬉しいです。
では、読んでくださりありがとうございました!
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すると次回は少し早く上がるかもしれません。