満月の夜 【月夜譚No.154】
満月の前で百鬼夜行が踊っている。
月明かりの逆光で黒々と浮かび上がった異形のモノ達の影が列を成し、飛んだり跳ねたりしながら、夜空を横切っていく。
あれを初めて見た時、幼かった彼は目を丸くして、影が小さく消えるまで凝視していた。今まで見たこともないモノ達が、如何にも楽しげに空を歩いているのだ。あそこに加わりたいと無茶を言って、両親を困らせた記憶がある。
青年は少年の頃のことを思い出して、思わず苦笑した。
異形のモノ達の中に人間が加われるはずがない。そもそも、人間は空の上を歩けない。
再び、百鬼夜行に目を戻す。彼等に直接会ったことはない。こうして影を見上げるしか彼等の存在を感じる手立てはなく、影しか判らない故に、彼等がどんな姿をしているのかはっきりしない。
あそこに加わりたいとは、もう思わない。けれど、一度で良いから彼等と直接会ってみたいとは思う。
青年は目元を緩め、一人百鬼夜行を眺め続けた。