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僕は居づらさを感じながら、本を読んでいるフリをしていた。
一応仕事中だし。
「もういい。次回までに各自意見をまとめてきなさい。そこで意見を検討して決めよう」川合のこの言葉で会議は終わった。
タケちゃんは憮然とした様子で会議室を出て行った。
僕は追いかけたかったが、図書委員の活動終了時間まで後10分ほどあった。
放課後に本を貸りにくる生徒など昼休み以上にいないのだが、変に躊躇してしまった。
すると、残った生徒達と川合が話を始めた。
「まったく、健志はしょうがないなぁ。お前らも賞なんかなくてもいいだろ?」川合が言う。
そうですね、僕達は平等ですし。そうですね、努力したことが大切ですしね。
みんな川合と同じ事を言っていた。これでは意見をまとめるも何もない。すでに答えは出ているようなものだった。
どうやら生徒会は、川合のいいなりになっているようだった。
生徒会が川合の思い通りということは、行事が全て川合の思い通りに動く可能性があるということだ。僕は、胸のむかつきを覚えた。
「しかし健志はあれでよく副会長なんてできるもんだな。もう少しまともな考えはできないものかね。場を乱してばっかりで、ほんとに使えないやつだ」
何だそれは。
この中で一番自分の考えを発言していたのはタケちゃんだ。
お前なんか自分の思い通りにいかないことは許せないのか。
大体、教師が生徒の前で言うことじゃない。中学生にとって、教師の言葉はまだまだ影響力があるのだ。
「まったくあいつは前から…」
「健志はそんな…」
「ん、なんだ?そこの…ええと、図書委員」
思わず口を挟んでしまった。図書委員か。生徒の名前なんか覚えてないか。
「いや、その…」
くそ、僕も何も言えないのか。
「図書委員には生徒会の仕事は関係ないだろう。そんなにヒマなのか」
「確かにヒマそうですが、関係無くはないでしょう。それにさっきから聞いていると、あなたの言葉は生徒達にとってふさわしくないものばかりだ」
本棚の裏から声がした。
聞いたことある声だ。
「なんだ、誰だ」
「そもそも、あなたは自分の意見を表に出しすぎていませんか?生徒会顧問はあくまで補佐的な立場で、運営は基本的には生徒達に任せることになっているはずです」
この少し高い声は…
本棚の後ろから、現れたのは、山岡だった。
「山岡先生、関係ないでしょあなたには」
「関係ないとはどういう意味ですか。私は間違っていると思ったことを発言しただけです。あなたは自分が全て正しいとでもお思いですか」
「な、な」
「君達ももう少し自分で考えないとね。健志くんに任せっきりにするんじゃなくてさ」
あたふたしている生徒会役員に言った。
「宗平くん、委員会の仕事の時間はもう終わりだよね。健志くんのところ行ってあげれば?」
「あ、はい…」
僕は突然現れた山岡に唖然としてしまっていたが、声をかけられて我に返った。
山岡の横を通り過ぎるとき、耳打ちされた。
「腹たったからさ、言っちゃった。僕大丈夫かな…」
僕は少し考えて答えた。
「微妙なところですね」
タケちゃんは部活に出ていた。
遠くから僕の姿を見かけると、部活を抜けてきてくれた。
退部した立場としては少し部活に顔を出しにくいので、助かった。
こういうところも気が利くのだ。
「宗も聞いてただろ。なんていうか、くだらないよな」
僕達はまた、中庭に腰をおろした。
「あいつらみんな川合の言いなりなんだよ。 自分で考えること全然しないんだ。わざわざ生徒会役員になって何考えてるんだかな」
タケちゃんはため息混じりに言った。
そりゃあなた、点数稼ぎでしょ。などとも思ったが、タケちゃんの前では言わないことにした。彼にはそもそもそんな概念はないのかもしれない。
「でもタケちゃん、よく面と向かってあんなこと言えるよね。僕は色々思ってたけど、面と向かったら出てこなかった」
タケちゃんは頭をかいた。
「あれ、宗あの後なんか言ったの?川合は根拠の無い自信があるからな。生半可なことじゃ言いくるめられちゃうよ。でも、アイツの言ってることムカついたしさ。それに、俺も色々えらそうなこと言ったけど、まぁなんていうか…」
「なんていうか?」
「賞あったほうが燃えるだろ、普通に」
もちろん、と僕は思った。
何日か後、帰りのホームルームで、山岡から連絡があった。
体育祭は例年通り行なうという。ただ、今回から新たにルールが加わった。
それは、順位ごとにポイントを与えることだ。このポイントは、秋に行なわれる文化祭のときに、ボーナスポイントとして加算され、総合的に評価される事となる。
タケちゃんに話を聞いたところ、生徒会長が出した意見だという。
あの後の生徒会会議で、みんなで色々な意見を出し合い決めたらしい。
川合の大人しさに少しタケちゃんは拍子抜けしていたようだが。
「まぁ結果はどうあれ、みんなで意見を出し合って決めていくのは楽しいよな。ただ従うだけじゃなくてさ。宗、体育祭では負けないからな!」