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翌週、僕は放課後の本の貸し出し当番だった。
その日は特に生徒会で使用するという話は聞いていなかったのだが、図書室に行ってみると生徒会のメンバーが集まっていた。
中にはタケちゃんもいて、僕に向かって両手を合わせて頭を下げるしぐさをしてきた。予定外だったのだろうか。
どうせ図書室を利用する生徒など皆無だったので、僕は笑顔を返し、早速読書を開始した。果たして卒業までに、何冊読むことになるのだろうか。
同学年の生徒が僕の姿を見たら、受験勉強をするべきだと糾弾されそうだが、まだ志望校すら決定していない僕としては、中々モチベーションも上がらないというものだ。
図書室には、真ん中に大きなテーブルの島がいくつか設置されており、それを囲むように本棚の群れが設置されている。僕が座っているところは、黒板の前。いわゆる教卓があるところだ。
普段教室では座る機会が無いポジションなので、ちょっとだけ新鮮な気分がする。
こういう何気ない経験が、遠い将来どこかで生きてくるのやもしれぬな。
などと、どうでもいい事を考えた。
ところで生徒会の議題は、どうやら夏休み明けに行なわれる体育祭のようだ。
そう離れていないテーブルに座っているため、話し声は嫌でも聞こえてくるのだ。
僕らが昼休みにどうでもいい議題を語っているのと同じテーブルで話されていると思うと、どこか不思議な気がした。
「今年の体育祭なんだけど、順位をつけるのをやめるっていうのはどうだろう」
川合が提案する声が聞こえた。僕は何となく耳を傾けていたが、おや、と思った。
我が校の体育祭は四つの色に別れ、様々な競技の得点を総合して順位を決める。
一年次の体育祭で、僕の所属した組は優勝を飾ったのだが、その時は本当に嬉しかった。
中々クラスがまとまらずに苦労したものだったが、それだけに優勝した時の喜びは格別だったのだ。
「いいと思います」生徒会長の山本が賛同した。
長いものに巻かれろとばかりに、次々と賛同者が出始めた。
川合は満足そうな笑顔を浮かべた。
タケちゃんは反対するだろうな…。何となくそう思った。
「反対です」
聞きなれた声。タケちゃんだ。
「なんだ健志、反対なのか」意外そうな川合の声がした。
タケちゃんが反対するであろう事を予期していたような含みを感じられたのは気のせいだろうか。
「賞なんてなくても一生懸命取り組めばいいじゃないか。みんながんばったのは一緒だし、一番を決めなくてもいいんじゃないかな。それともお前は賞を取る為に体育祭をやりたいのか?」
「別に賞の為に取り組みたいわけじゃありません。みんなで一つの目標に向かって一丸となって取り組む事が尊いと思います。それに、みんながんばったのは一緒と言いますが、果たしてそうでしょうか。みんながみんな、がんばるわけじゃない。やる気の無い人だっています。なんとかしようとがんばる人もいます。それなりにがんばる人もいます。みんな同列に扱う事は、一生懸命取り組んだ組に失礼ではないでしょうか」
「何も一番を決める必要はないじゃないか。みんな平等なんだから」
「本気で言ってるんですか。そんな事を適当に口にする教師がいるからみんな弱くなっていくんですよ」
川合は面倒くさそうな顔をしていた。
図書室は静まり返った。