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図書室に行ってみようよ、という結衣の提案で、僕達は図書室に向かった。
何度となく来ているはずなのに、図書室の雰囲気は初めての感覚だった。
昼休みとも、放課後とも、長期休暇中のそれとも違った。
そしてこの感覚を味わえるのも、もう今限りなのだろうな。
「思えば私達ってここで出あったんだよね」結衣が懐かしそうに言った。
出会ってから一年も経っていなかったが、随分前からの知り合いのように仲良くなったものだ。
「なんか僕、最初失礼な事を言ったような気がする」僕は出会った頃のことを思い出した。
「はは、そうだっけか」結衣は窓に近寄り、外を眺めていた。
「あ、そういえばさ」ふと僕は思い出した。
「んー?」結衣が窓の外を見たまま答える。
図書委員になり立てだった頃、僕は一つの疑問を抱いていた。
他校における、図書室の利用状況である。あまりに本の貸し出し利用者が少なかったから、そんな事を思ったのだ。ずっと結衣に聞いてみようと思っていたのだが、いつしか忘れてしまっていた。
何で今思い出したんだろう…記憶と言うものは不思議なものだなぁと思う。
「結衣の前いた学校って…」「あ、二人ともいた~」
僕が言いかけたとき、図書室のドアが開いて、由香と幹が入ってきた。
「宗、ベンチのとこにいるかと思ったのに、探しちまったよ…あれ、お前第二ボタン…!」幹が僕の胸元を見て驚いた声を出した。
そんなに驚くことかね、ふん。なんだか悔しかったので少し優越感に浸っていたが、幹の尋問が余りに執拗だったため、僕は白状した。
「幹、アンタのも貰ってあげようか?」結衣がイタズラっぽく言う。
幹は複雑な顔をしたが、しまいには断った。
渡せばいいのにと思ったが、ただあげればいいというものではないのだろう。
しばしの間、四人で思い出話にふけった。
ずいぶん色々な事があったような気がする。きっとこうやって思い出は作られていくのだろう。
今この瞬間も、もしかしたら一生の思い出になるのかもしれない。僕は今、その思い出の中にいる…そう思うと、何だか不思議な気がした。
校内放送が流れる。どうやら卒業生の最後の出番のようだ。
「んじゃ、そろそろ行くか」
幹が腰を上げた。みんなもそれに続く。
「あ、あのさ!」僕も慌てて立ち上がる。皆が僕の方を見る。
「うちの学校の図書室ってさ、全然貸し出し希望者いなかったじゃんか。他の学校の図書室ってどうなのか、ずっと気になっててさ。みんな来月から別の学校行くから、図書室の利用状況とか教えてほしいんだよね…」
もちろん、そんなこと本当に知りたいわけじゃない。知りたくないわけじゃないけど、わざわざみんなにチェックしてもらうほどの事でもない。
僕は不安だったのだ。みんな来月から新しい生活が始まり、忙しくなるだろう。そんな気はなくても、僕達が過ごした日々はいつしか遠ざかり、遠い未来の日に思い出して懐かしがるだけの物となってしまうかもしれない。僕自身だって、果たしてどうなるかわからないのだ。集まる口実を作って安心したかったのかもしれない。
「何それ。別にお安い御用だけど…じゃあ学校始まって少ししたら、またどこかで集まろっか」結衣が提案してくれた。
「じゃあわたしも学校の図書室調べておくね~。結構貸りる人いたりしてね」由香も賛同してくれた。
「俺はまだ学生じゃねぇよ…でもまぁ、確かにこの学校の図書室って全然貸し出し希望者いねぇよな。おかげで図書室好きに使えたけどさ。じゃあ来月の、最初の日曜日あたりで集まろうぜ」と、幹。
「あ…うん、ありがと」僕も皆に続いた。
みんな出て行ってしまった後で、僕は最後にもう一度図書室を振り返った。
窓の外から、吹奏楽部のメロディーが聴こえてくる。校庭の桜ももう少ししたら咲くだろうか。
図書室には優しい日差しが差し込んでいた。
最終回です。初連載ということを差し引いても色々とひどい内容でした…。
次回は反省を生かしてもっと考えて作ってみたいと思います。
読んで下さった方、本当にありがとうございました!