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3-2


次の日は休日だった。

僕は趣味のギターのスコアを探しに、楽器屋へ足を運んだ。

特別僕は上手いわけではないけど、音を生み出すのは心地よい感覚だ。


楽器屋は、新しくできた大型ショッピングモールの中にある。

あまり好きではないと言っておきながら、そこにある便利なものはやはり使ってしまうものだ。

少し距離があるので、自転車で向かう。

春の日差しを浴びながら自転車をこぐのは中々気持ちの良いものだ。


高くて手のでない楽器達を横目に見ながら、僕は早速楽譜のコーナーへ向かった。

最近好きなバンドが、スコアを出したのだ。弾きこなせるかどうかは別として、一プレイヤーとしては気になるところだった。

弾けそうな曲、現時点ではとても無理そうな曲、様々だった。

スコアは中学生の僕にとって、少しばかり高価なのだ。


「あれ、図書委員くん?」

買おうかどうか悩みつつしばらくスコアに没頭していると、突然声をかけられた。

図書委員くん…

隣を見ると、昨日のあのコだ。図書室に初めて本を貸りに来てくれたあのコだ。

「図書委員くんって…」

しかし、あだ名で図書委員と呼ばれるほど僕は本好きではないつもりだ。

僕程度の本好きレベルの者が全国の図書委員と呼ばれている人たちの仲間入りをするのは、少し申し訳ない気がした。

「だって名前知らないし」

「あ、そうか。僕宗平っていいます」

結衣(ゆい)です、よろしく」



僕たちはショッピングモールの中のコーヒーショップに入った。

僕はお腹も減っていたし、値段的にもファーストフード店の方がよかったのだが、結衣が嫌がったのだ。

いわゆるジャンクフードと呼ばれているようなものを、お金を払ってまで食べたくないとかなんとか。

そんな中学生、あまりいない気がする。

とはいえそこまで言われてしまうと、さすがにファーストフード店に入る気はなくなった。

コーヒーなんて飲み慣れていないので、僕は何を注文したらいいのかわからなかった。

メニューを眺めて決めかねていると、結衣が勝手に注文してくれた。


彼女は今年の四月に隣の市の中学校から転校してきたらしい。

ひとしきり自己紹介が終わった後、趣味の話になった。

どうやら僕達は、同じバンドのスコアを目当てにあの店に来ていたらしかった。


「宗平君ってギターやってるの?」

「うーん、一応。やってるっていうのがおこがましいぐらいの実力ですが」

「なんだか謙虚だね。私が前いた学校の男子はこれ見よがしに自慢してきたけど。俺かっこいいだろ?みたいな」

結衣は笑った。

うん、中学生男子がギターを始めるには充分な理由な気がする。

それに結衣はかわいいから、そういう男子がよけいに寄ってきたのかもしれない。

「まぁ実際大して上手くないから。下手だって言っとけばあんまり期待しないで聴いてもらえるから…」

「意外と上手いじゃんって思ってもらえるかも?」

「そうそう、そんな感じ」


コーヒーの味なんてわからなかったが、結衣が注文してくれたコーヒーはおいしいと思った。


「結衣さんも楽器やってるの?」

「さん付けってなんか他人行儀だからやだ。」

「え、うん。じゃあ…結衣はなんか楽器やってるの?」

他人行儀もなにも、まだ充分他人な気がするけど…。僕は特別女の子慣れしているわけではないのでそこらへんの距離感がうまく掴めなかったのだが、そういうものなのかもしれない。

「私は前にいた学校でベースやってたよ。バンドやってたんだ。転校するときに解散しちゃったんだけどね」

「へぇ…なんかかっこいいね。ウチの学校は多分そういうのないなぁ。僕も個人的にやってるだけだし。」

「なんか平和そうなところだもんね」

「はは、そうかも。まぁ平和が一番だよ」

「私はちょっと物足りないかも。中々気の合う友達できないしなぁ…」

「あ、それで昼休みは図書室通い?」

「…」

返事が無い。ちょっとデリカシーがなかったかもしれない。

「ま、まぁ、図書室でよかったらいつでも来ていいからさ。僕も昼休みは週2ぐらいでいるし…」

「友達のいない私の相手をしてくださるって?それはどうもありがとうございます!」


結衣は席を立って行ってしまった。

しまった、怒らせちゃった。短気なのかなあのコ。

うーん、やっぱり難しいなぁこういうの。

ていうかコーヒー代も置いてってないし…。

さっきスコアを買っていたら、代金足らなかったかもしれない。

見てるだけにしといてよかったと、変なところで僕は安心した。

あ、聞こうと思ってた、他校における図書室の利用率も聞きそびれてしまった。

変なところで僕はがっかりした。


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