8-4
翌日登校すると、クラス内はざわついていた。
何だろうと思ったけど、とりあえず良くない予感はした。
良くないことが起こる前って何となく胸騒ぎがするというけど、どうやら本当だった。
しかし胸騒ぎを感じたところで、所詮回避する事はできない。僕はとりあえず何があっても驚かない覚悟だけはしておこうと思った。
席に着いて一次限目の準備をしていると、横山さんが声をかけてきた。
横山さんとは体育祭のリレー以降よくしゃべるようになり、図書室にも時々顔を出していた。僕はもう図書委員は引退していたけど、図書室に集まる習慣だけは何となく残っていたのだ。
「宗君、昨日幹君の家行ったんでしょ?どうだった?」
「どうだったって…留守だったみたいで会えなかったよ。結局プリント持ってかえってきちゃった。はやく学校来てくれればプリントの束持ち歩かなくてすむのに…」
僕は何も感づいていないフリをした。なんだか恐かったのだ。
「あのね、昨日高梨君達が公園で…幹君を見たんだって。なんか家族の人たちと一緒だったみたいなんだけど…公園の駐車場に車止めてあって、そこで生活してるみたいなんだって」
僕は最初よく意味がわからなかったけど、生活臭がしない家と今聞いたことを考えると、なんとも嫌な感じがした。
「高梨君達に聞いてみれば」
「いいよ」
僕は横山さんの言葉を遮った。
高梨達とは元からあまり会話をする方ではなかったし、体育祭以来それは顕著になっていた。
しかし、僕の姿を見かけると、高梨から声をかけてきた。
「宗平君、なんかお友達大変な事になってるみたいだねぇ。何か聞いてる?」
「いや、何も聞いてないよ。なに大変な事って」
僕はぶっきらぼうに応えた。
「何って…ねぇ。宗平君だってわかってるんだろ。昨日幹の家にもいったんだべ?」
高梨は嫌な笑い顔を崩さず続けた。
「だからなんだよ。関係ないだろ」
僕はイラついていた。もう高梨となんかしゃべっていたくなかったので、会話を打ち切ろうとした。
しかし高梨はしゃべり続けた。
「あの公園ってホームレスの溜まり場になってるよな。なぁ、幹の家に行ったんだろ。どんなだった?」
「関係ないっていってんだろ!」
思わず大きな声が出てしまった。クラス内のざわつきが静かになった。
高梨は僕の大声に動揺するでもなく、満足そうに仲間達の下へ引き上げていった。僕の事なんてどうにでもできると思っていたんだろう。そしてそれは事実だった。
「宗くん…」
由香が話しかけてきた。
「みんなおはよー。席につけー」
山岡が教室に入ってきた。静かになっていた教室は次第にいつものざわめきを取り戻していたが、いつもどおりの日常なんてもうどこにも感じられなかった。
昼休み、僕は中庭のベンチでボーっとしていた。枯葉が足元を冷たい北風に吹かれて飛ばされていったが、寒さなんてあまり気にならなかった。
普段は図書室でたまっているのだが、今日はとてもそんな気分にはなれなかった。
幹はどうしたんだろうか。僕は同じ空の下にいるであろう幹のことを考えていた。
本当に高梨の言ったとおりなのだろうか。僕は高梨の言っていた公園を思い出してみた。
この近辺では結構広い公園で、駐車場まであった。
テニスコートはプールも隣接されておりそれなりににぎわってはいたが、確かにあそこはホームレス達の生活場にもなっていた。
幹をそこでみたという高梨の話が本当であるならば、可能性は…あるかもしれなかった。
公園に行ってみればあるいははっきりするのかもしれなかった。
しかし、僕は怖かった。色々なことを知るのが怖かった。
「あ、宗くんいた」
由香の声が聞こえた。ふと顔をあげると、校舎から由香と結衣がこっちに向かってきていた。
「宗平、放課後公園行ってみよ!」
「え…」
自分の世界に引きこもっていたので、上手く返事ができなかった。
「どうせまたボーっとしてたんでしょ。決定ね。放課後そっちのクラス行くから由香と待ってて」
「公園って…」
「宗くん、高梨くんの言ってた事確かめてみようよ。もしかしたら全然関係ないかもしれないし」
希望的観測な気がしたがしかし、考えていても答えの出る問題ではない事はわかっていた。
由香が話したようだ。先日幹の家を訪れたときに、二人ともやはり何か感じ取っていたのだろう。
知ったからといって何が出来るかはわからない。何もできないかもしれない。何かする必要なんてないのかもしれない。
だけど何か出来るとしたら、何もしないわけにはいかない。
幹は大切な友達だから。
僕は放課後、結衣を待つ約束をして別れた。