8-3
幹が学校に来なくなって、一週間が経った。
珍しい事だった。僕が知りうる限りでは、幹は皆勤だったはずだ。
風邪でもこじらせたのだろうか…入試大丈夫だったかな。
さすがにみんな心配になってきたようだった。
担任なら、何か連絡を受けているのではないか…という事で、僕は代表して山岡に聞いてくるよう、結衣から指示をもらった。
僕は職員室が苦手である。もっとも、得意な生徒なんていないかもしれないけど。
僕は、ホームルームが終わった後職員室へ戻る途中の山岡を捕まえた。
なんで教室で聞かないのか自分でもわからなかったが、何故だか聞きづらかったのだ。
「すいません山岡先生。幹なんですけど」
「あ、宗くん。幹くんのこと?立ち話もなんだから、ちょっと職員室行こうか」
結局職員室に連れて行かれることになってしまった。
職員室の雰囲気は、各教室と全然違う。
特別大きな違いは無いはずなのに、空気そのものが違う気がした。
なんだかどの先生も、教室で授業をやっている時と別人のような気がした。
僕は山岡の席に案内された。意外にも整頓された机だった。
「幹くん、実は学校にも連絡がないんだよ。電話かけても誰も出ないし、僕もちょっと心配しててね。宗くん、帰りにちょっと幹くんの家寄ってみてくれないかなぁ?はい、これ」
そう言って山岡は、僕に大量のプリントを渡した。
「幹くんの分のプリント。渡してあげてね」
プリントの束を渡され、僕はげんなりした。
それはともかくとして、どうやら学校にも連絡がないようだった。
僕はとりあえず教室に戻った。
教室に戻ると、結衣と由香がストーブを囲んでいた。
「あ、宗くんお帰り~」
「どうだった?山岡なんだって?」
僕は、学校にも何も連絡がないことを話し、プリントを届けるように言われた事を伝えた。
さすがに無断欠席をしているとは思わなかったらしく、結衣も由香も驚いたようだった。
「じゃあさ、帰りにみんなで幹の家寄ってみよっか。宗一人じゃ寂しいだろうし」
結衣が提案してくれた。なんだかんだ言って、結衣も心配なんだろう。
外は風が強そうだった。教室の窓から見える銀杏並木は丸坊主になっており、強風に枝を揺らしている。
僕達はそのまま少しストーブで暖まってから、教室を後にした。
外はやはり風が強い。空にはどんよりとした雲が立ち込め、あまり気持ちのいい天気とは言えなかった。
幹の家に行くのは久しぶりだ。そういえば三年生になってからは一度も行っていなかったかもしれない。
なんだか少し緊張した。
しかし、僕の緊張は空振りに終わった。
幹には会えなかったのだ。
呼び鈴を押してみたが、応答する者はいなかった。
留守なのだろうかと思ったのだが、家は何やら独特の雰囲気を発していた。
雨戸が閉まっていたため家の中は見えなかったが、なんだか家全体から奇妙な感覚を感じた。
みんなも似たような感覚を感じているようで、誰も言葉を発しなかった。
僕はなんだか胸騒ぎのようなものを感じていた。きっとみんなも同じだったろう。
僕達は顔を見合わせたがどうする事もできないので、幹の家を後にした。
プリント重いよ、幹。