8-2
入学試験当日は、やはり緊張した。
偏差値ギリギリの学校を狙っているわけではないが、そういう問題でもない。
周りは知らない顔ばかりで、誰もがみんな頭がよさそうに見える。
何の意味もないとわかっていながら、僕もできるだけ頭がよさそうに見えるように振舞う事にした。
僕の学校から受験する生徒は他のクラスの者が一人いるだけで、話したことがなかった。変に気を使ってしまうのも嫌だったため、僕は一人で会場の教室へ向かった。
学校というものは中々不思議なもので、つくり自体はどこも同じ様な物なのに、雰囲気から何から全く違う。学校に刻まれた歴史というか、住んでいる者の匂いというか。夏休みに入る前に、学校見学は必ず行くように進路説明会で口をすっぱくして言われたが、なるほどなと思う。こればかりは実際に学校の門をくぐって見なければ味わえない感覚だった。
僕は自席に着き、試験が始まるのを静かに待った。
試験官が現れ、問題用紙が配られる。この薄い問題用紙の向こうに、これから戦うべき問題が記載されている。数分後には、僕達の未来を決めるべき相手と相対する事だろう。
はじめの合図とともに、一斉に薄い紙をめくる音が教室を支配した。
試験が、終わった。
拍子抜けした、というわけではないが、出来はよかったと思う。勉強の成果だろうか。
これならば、あまり悪い結果にはならないような気がした。
このまま帰宅してゆっくりしたかったが、母校に戻らなければならない。
学校に試験の出来を報告しなければならないそうだ。
自己申告での報告になるためあまり参考になるとは思えないが、以前試験の出来が悪くてショックから行方不明になり、大掛かりな捜索が行なわれたという事件があったらしく、むしろそっちのための対策かもしれなかった。
学校に戻るのは面倒ではあったが、入試という大きな重圧から開放されたためか、心は晴れやかだった。
中学受験をしなかった僕にとって、高校入試は人生で初の大きな関門といってもよかったかもしれない。やはりストレスになっていたようで、久々に何も考えずに羽を伸ばせる気がした。
学校に戻ると、試験を終えた生徒が何人か戻ってきていた。
僕は山岡に報告を済ませた後、教室に戻った。
教室に戻ると、結衣と由香が話をしていて、僕の姿を見ると声をかけてきた。
「あ、宗くん。おつかれさま~」
由香のしゃべり方は何となく落ち着く。
「宗…どうだった?」
結衣が質問してきた。
僕が、出来がよかった旨を伝えると、結衣が悔しがった。
どうやらあまりできなかったらしい。
まぁ、僕の「出来た」と結衣の「出来ない」じゃ、雲泥の差があるんだろうけど。
「まぁでも、とりあえず肩の荷がおりたかな。後は結果待つだけだし」
口では出来なかったと言っても、どうやらそれなりに自信はあるようだ。
「ねぇねぇところでさ、入試も終わった事だし、打ち上げに行かない?」
結衣が提案した。
打ち上げか…まだ進路が確定したわけではないけど、この開放感。
「いいんじゃない?なんか僕、今すごい開放感だし」
ちょっと楽しそうであり、僕は同意した。
「宗くん余裕だねー。わたしもやりたい!」
由香も同意した。
「では過半数を得たので、決定します。場所どこにしよっか」
「あれ、そういえば幹はまだ戻ってきてないの?」
僕はさっきから幹の姿を探していたのだが、教室にはいないようだった。
「わたし朝から学校にいたけど、幹くん見てないよ。まだ戻ってきてないんじゃない?」
「そうなんだ。じゃあ幹が戻ってきたら声かけようか。場所どうする?」
僕達はそんな調子で打ち上げについて話を戻したが、幹はその日学校に来なかった。