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3-1

その日の昼休み、僕は図書室で本を読んでいた。

本を読むのは特別好きというわけではないが、活字離れが叫ばれている昨今、同年代の少年少女達に比べると読書量は多い方かもしれない。

しかし、貴重な昼休みを潰してまで読書をするほど好きというわけでもなかった。

この春、僕は図書委員に任命されたのだ。


図書委員の仕事は、楽である。週に二回、昼休みと放課後に、本の貸し出しの番をするのだ。

とはいえ、昼休みに図書室に生徒が来ることはあまり無い。

本のたくさんある場所に来ると便意をもよおす生徒数が異常に多いのかもしれない。

とにかく、ヒマを持て余す僕は一人読書に励むというわけだ。


しかし、本というものはなかなか素晴らしいものだと思う。

それは日常でありながら、全く違う世界を想像させてくれる。

同じ文章を読んでも人それぞれに思い浮かべる光景も違う。

「僕達は山に登った」

例えばこれだけの文章でも、人それぞれ思い浮かべる光景は違うのだろう。季節はいつか、誰と登ったか、天候は、山の大きさはどのくらいか。100人いたら100人が、別の光景を想像するはずだ。

そう考えると、僕は少し不思議な気持ちになった。



僕は本に熱中していたため、いつのまにか貸し出し希望者が目の前に立っていたことに気がつかなかった。

「ねぇ」突然女の子の声がして、僕は我に返った。

完全に本の世界に入り込んでいた僕は、すぐに反応できなかった。

「貸し出しお願いしたいんだけど」

「あ、あぁ。えぇと、じゃあこれにクラスと出席番号、名前を記入してください」貸し出し表に記入を促す。

季節は五月にさしかかろうという時期だったが、僕が対応した本の貸し出し数は未だにゼロだったため、貸し出し希望者の来訪には酷く驚いた。

記載してもらうのは貸し出しカードだけでよかったんだっけ。

図書委員の感じる感想としてはどうかと思うが、果たして本校における図書室の存在意義というのはいかほどであろうか。疑問に思わざるをえない。


「記入ありがとうございます。はい、どうぞ」僕は本を渡す。

そこでふと、彼女の制服が違うことに気がついた。

着こなしが違うと言うわけではなく、スカートの柄からブレザーまで、制服そのものが違う。

髪の色も、ウチの学校の生徒には珍しく茶色が少し入っていた。

「なに?」

しまった、じろじろ見過ぎた。

「いや、制服…」僕は正直に言った。

「私、おととい転校してきたの。急だったからまだこっちの学校の制服ないんだ」

「ふぅん。あ、なんかじろじろ見ちゃってごめんね。またのご来店をお待ちしております」

なるほど、転校生さんだったか。他校における図書室の利用率が多少気になったが、初対面の女の子にいきなりする質問ではないだろう。しかし、なんだか変な言い回しになってしまったぞ。

「何その言い回し」

案の定指摘されたが、彼女は少し笑っていた。


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