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結衣

私はどちらかというと図太い神経をしてる方だと思うけれど、私だって緊張する。

なんせ人生ではじめての転校だ。

今までこの学校でずっとやってきたのに、中学校三年生になって今更転校するのはなんだかもったいない気がした。


転校生というものは、過度の期待がかけられるものだ。

勉強ができ、運動もでき、容姿端麗でなくてはならない。

まぁさすがにそこまでは言わなくても、何かに特化しているような才能は必要だと思う。

例えば上記三つのうち一つに長けているとか、何か人に負けない強みがあるだとか。


自分で言うのもなんだけど、私は結構条件を満たしている方だと思う。

勉強はできる方だし、容姿もそれなりに自信はある。

しかし、かと言って緊張しない理由にはならない。

通う学校が変わると言う事は、中学生にとっては世界が変わる事と同じ様なものだ。

今の学校はそれなりに楽しかった。あんまり程度のいい学校じゃなかったけど友達は多い方だったし、活動していたバンドにはファンクラブまでできた。

学生っていうのは何かとグループを作り集団で行動する生物だと思うんだけど、私は常にいわゆるイケてるグループに属してきた。

自然と周りに人が集まってきたし、とりわけ友達を作るために努力した事はなかった。


新しい学校に入学したとき私は、なんと遅れた学校なのだろうと思った。

髪の毛の色は多くの生徒が黒かったし、男女交際をした事のある生徒なんてほとんどいないだろう。

私は髪の毛が茶色だったので、完全に浮いていた。なんとなく距離を置かれているのがわかった。

今まで交友関係で苦労した事がなかった私は、どうしていいかわからなかった。

私は今までと全然違うタイプのクラスメイト達と何を話していいのかわからず、次第に休み時間は校内をブラブラするようになっていた。

私の制服は未だ前の学校のものだったので校内を徘徊すると嫌でも目立ったが、クラスにいるのも気まずかった。


ある日の昼休み、私は図書室の前を通りかかった。

前の学校の図書室は、常に閑散としていた。学校で読書などしていると暗いヤツと思われてしまいそうで私は今まで図書室になど縁のある学校生活は送っていなかったのだが、本自体は嫌いではなかった。

ここなら一人でいても不自然ではなさそうな気がして、私は図書室に入った。

図書室は案の定人気が無かった。

誰もいないのかな…と、室内を見渡すと、図書委員と思われる男子が一人で本を読んでいた。

読書に夢中になっており、私が入室した事に気がついていないようだった。これだけヒマそうな図書室では読書に没頭するのも無理ないかもしれない。

私は特に気にせず本を選んだ。

学校の図書室なんて最新の本は大抵置かれないかったが、普段本屋では買わないような本を読む事ができ、それなりに楽しむ事ができるような気がした。

本の貸し出しって結構ありがたい気がする…ハードカバーの本なんて軽く千円以上はする。中学生には手痛い出費だ。

それに、私はよっぽど気に入った本でなければ読み返す事もあまりなかいため、置き場に困ってしまう。

本を売ればいいのかもしれないが、私は古本というシステムが好きではなかった。

確かに新品で買うより安く手に入りニーズはあるのかもしれないが、出版業界に歪を生み出す事は明らかなように思えた。

それに一冊数百円で手に入ってしまう本に、どうしても愛着が湧かなかった。

作者が頭を痛めて書いた(レベルはどうであれ)活字の集合体に、もっと敬意を払うべきだと私は思うのだが。


私は本屋ではもう扱っていないような、古い外国の小説を手に取って読み始めた。

軽い気持ちで読み始めたのだが、これが意外と面白い。

気がついたら昼休みは終わりかけていた。

私は少し悩んだが、本を貸りる事にした。授業で使うわけでもなく図書室で本を貸りるのは初めてだった。

貸し出し委員のところに本を持っていくと、図書委員は驚いたような顔をしていた。

図書委員の動きは変にたどたどしかった。これだけ利用者が少なければ、仕事になれないのも無理はないのかもしれない。貸し出し希望者が来た事に驚いたのかな…それとも今まで私に気がつかなかったのだけなのだろうか。

なんとなくどんくさそうな男子だったので、後者もありうるな…などと思った。

本を受け取るときにやけにじろじろ見られた。不審に思って聞いてみると、制服が違う事を気にしていたようだった。まぁ、そうよね。

じろじろ見た事てしまった事を申し訳なく思ったのか図書委員の動きはさらにたどたどしくなり、しまいには

「またのご来店をお待ちしております」

などとよくわからない言い回しをされて、私はちょっと吹き出してしまった。

たった数回のやりとりだったが、久々に私は笑った気がした。


そんなこんなでこのどんくさい図書委員と出会ってから、私の学校生活は少しずつ色がつき始めた。

図書室に何度か通っているうちに、宗平を通じて友達もできた。

宗はどんくさいヤツと思ってたけど、なんでもそつなくこなすくせにあまり前に出たがらず、パッとしない立ち位置にいる男子だった。前の学校ではあまりいないタイプだ。

幹はいかにも体育会系な感じだったけど意外と繊細なところがあり、そのギャップが面白かった。

由香は天然のようだけど一本芯が通っていて、決して何も考えていないわけではなかった。

宗平達とつるんでいるうちに、次第にクラスメイトとも打ち解けていく事ができた。


季節はいつの間にか移り変わり、金木犀の香りが立ち込めるようになってきた。

秋はイベントが目白押しだ。先日行なわれた体育祭では我がクラスの所属色は優勝し、クラスの雰囲気は高まっていた。

この分では文化祭も盛り上がりそうだ。

誰か誘ってバンドでもやってみようかしら。

とりあえず宗に声かけてみようかな。

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