7-1
二学期が始まった。
季節は九月に入ったが、まだまだ残暑は厳しい。
とはいえ盛りは過ぎたようで、昼間はやはり暑いが、朝夕は随分すごしやすくなったものだ。
暑さの雰囲気も、なんとなく秋のそれに変わり始めているような気がした。
久々に教室に入る。
休み中は全く顔を合わせないクラスメイトもいるため、どことなく雰囲気の変わったような者もいた。長い夏休み、色々あるのだろう。
髪型が変わっている者や、随分日に焼けた者もいる。
しばらくぶりに会うクラスメイトとは、どことなく気恥ずかしかった。
盆踊りの僕のステージを見ていた者や、噂を聞いた者から想像以上に話を振られ、僕は少し戸惑った。
普段話さないようなクラスメイトまで話しかけてきてくれて、それは少し嬉しかったけど。
僕は、この夏休みずいぶんと勉強した気がする。
受験を控えているため当たり前といえば当たり前なのだが、日ごろからこのくらい勉強できていれば学年順位も随分よかっただろうに。
夏休み中に受けた模試の結果を受け、もうワンランク上の学校を狙ってみようかという気持ちも湧き上がってきた。
とはいえ、学校が始まれば勉強だけというわけにはいかなくなる。
勉強はむしろ嫌いな方だったが、ある程度成果が出てくると実の入り方も違ってくるというものだろう。
それはともかく、体育祭の準備が始まっていた。
我が校の体育祭は九月の中ごろに開催される。
各学年は四クラスあり、一年生から三年生までが混合になって四色の色に別れ対抗するのだ。
一人一種目、好きな競技にエントリーすることになっており、順位に応じて得点が加算される。最終的に得点の最も高い色が優勝となる。
人気の種目は早々にエントリーが済んでしまう。
去年はパンくい競争が最も人気があったようだ。
両手を縛られ、吊るされたパンを口だけでゲットし、30メートルほど走ってゴールする。
僕はパンを食べる姿がどうにも間抜けに思えて、無難に100メートル走にエントリーした。
個人競技とは別に、花形であるリレーの走者も決めなくてはいけないのだが、立候補者が少なく、毎年走者を決めるのに苦労していた。
その日のホームルームは、体育祭の種目決めを行なっていた。
あらかたの種目は決まっていたが、やはり今年もリレー走者は中々決まらなかった。
リレー走者は男子三、女子二で構成される。
女子の走者は、クラスのムードメーカー的女子が早々と参加を表明していた。
こういうことはどうも、女子の方が思い切りがいい気がする。
男子の方はというと、三人のうちの一人に陸上部である佐藤の参加が決定していただけだった。
陸上部というだけで、黙っていても推薦されることは必死。佐藤はもはや諦めていたようで、最初から立候補した。
「他に希望者はいませんか?…それでは仕方ないので、推薦で候補者を決めましょうか」
クラス委員の木村が、困った口調で言った。
推薦…はっきり言って、嫌いである。特にこういう場においては、推薦という名の強制であろう。推薦するのも何となく気が引け、やはり中々声は上がらなかった。
「佐倉にやらせろよ」
窓側の席から声が聞こえた。見ると、バスケ部の高梨だった。
「そうだな、佐倉がいいんじゃねぇの」
誰かが続いた。
佐倉くんは驚いたような困ったような表情をしていた。
高梨というのは我がクラスのパワーバランスの一角、体育会系のボス的存在だった。
体も大きく、スポーツもよくできた。
しかし、性格に難あり。
かなり自分勝手なところがあり、面白さを第一に考える快楽主義者のため、体育会系の集団の中でも彼を敬遠するものは多かった。飾らずに言ってしまえばあまり性格がよくないのだ。
良くない噂も多い彼と、関わり合いになるのを避けたがる者も多かった。
佐倉くんというのは高梨と同じバスケ部の所属だが気が弱いところがあり、よく高梨のグループにからかわれていた。
僕は、佐倉くんとは気が合うところがあり、どちらかというと僕と同じグループとよくしゃべっていた。
「佐倉くんですね…他にいませんか。立候補でも推薦でもいいですよ」
結局他には誰も立候補者はでなかった。
次のホームルームまでに各自検討しておいてください、という木村の一言で、その日のホームルームは終わった。