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6-6

ステージを降りた後、僕は崩れ落ちてしまった。

崩れ落ちるというとなんだかカッコいい感じだが、要するに気が抜けて、ついでに腰も抜けただけだ。

それに、やはり緊張で精神的にもかなりの負荷がかかっていたのだろう。

幹が慌てて駆け寄ってきて、おぶって校庭の隅のほうまで運んでくれた。


「まずまずってとこだね。後半かなり走り気味だったしさ」

結衣にダメだしされた。

結衣は、いつもの結衣に戻っていた。

「でも宗くん、よかったよ〜。声もかっこよかったし。なんかボーカルみたいだった!」

一応今ボーカルやってた気がしたけど、僕。

「うん、お前結構いい声してんだな」

幹も同意してくれた。

どうやら演奏は微妙だったみたいだ。とはいえ、ほめてもらえるのは嬉しかった。


幹と由香が飲み物の買出しに行ってくれた。

「宗…なんかごめんね」結衣が謝った。

「いや、僕が勝手にその気になっちゃっただけだし別にあやまること」

「あいつさ、昔は見た目どおりのビジュアル系バンドやってたんだ。だけどその…あいつ私にホレちゃって、私の好きな音楽をやりだしたんだ。私それが嫌で、自分のやりたい音楽をやってほしくてさ…」

なるほど。前にコーヒーショップで結衣の話に出てきた、これ見よがしにギターを自慢してきた男子というのは、もしかしたらシンの事だったのかもしれない。

「あいつそれに気付いてくれなくてさ。見た目はあんななのに。それに気付いて欲しかったんだよね…」

中学生男子には中々ハードルの高い期待かもしれない。

あ、そういえば。

「そういえば結衣さ、さっきシン達が来る前、何か言おうとしてなかった?」

結衣はちょっと戸惑ったようだったが、口を開いた。

「あ、うん…今更なんだけどその…バンドやらない?って言おうとしてたんだ…」


今となっては、本当に今さらだ。

ん?

「もしかして、結構前から言おうとしてた?夏休み始まる前からとか…」僕は訊ねた。

「ん?うん、実はね。でも今年受験あるから、ためらってたの。どして?」

「いや、別に」

なるほど…。一時期結衣の行動がおかしかったのはこれが原因だろうか。

ボーリングの帰りに結衣の家に寄ったときなど、切り出す絶好のシチュエーションだったかもしれない。なんか自分、恥ずかしいな。


人は何のために音楽を聴くのだろうか、と時々思う。

音楽を手に入れる事が比較的容易になった現代。音楽をお金をかけて手に入れるのなんてバカらしい、という声さえ聞く。

実際、一曲いくらで手軽にダウンロードされてしまう楽曲は便利さを通り越して安っぽさすら覚える。僕はあのシステムが嫌いだった。

僕は、音楽は必要不可欠なものではないと思う。

他に必要なものはいくらだってあるし、音楽が無くても人は生きていけるからだ。

しかし逆に、音楽がなければ生きていけないという声も多く聴く。

僕は、そんな事はないだろうと思う。ただ音楽が人より好きなだけであって、生命活動の継続に音楽が必要不可欠な人間と言うのは全人口に対してそこまで多くはないのではないだろうか。

閉塞感の続く現代社会。その役割は娯楽にあるのだろうか。自己救済にあるのだろか。

なんて、どうでもいいよな。

キラーチューンに出会ったときの感覚は確かに言葉にできないものがあるし。


買出しに行った幹たちが戻ってきた。

クラスメイトの男女数人を連れている。

みんなさっきのステージを見ていたらしく、妙にテンション高かった。

僕はあんまり話題の中心になることが少ないタイプなので、なんだか新鮮だった。

別に隠していたわけではないが、みんな僕がギターをやっていることすら知らなかったので驚いたようだった。

このあとカラオケ行こうだのなんだのと話していた。


僕は少しぼーっとしていた。

高揚しているのか疲れきっているのか、よくわからなかった。

ふと校庭の入り口に目をやると、シン達が帰るところだった。

向こうも僕に気付くと、複雑そうな笑顔を浮かべて中指を立てた。

僕も複雑そうな笑顔を返した。

隣を見ると、結衣はシンに向かって舌を出していた。


「宗くん…」

突然名前を呼ばれて振り向くと、山岡が立っていた。

頬には涙の伝ったと思われる後があった。

「は、はい?」

「…僕と…武道館狙…」

「!?」

ひときわ大きな花火があがった。僕はめんどくさかったので花火の音で聞こえなかったフリをし、友人達の会話に戻っていった。


なんか色々あったけど、花火も祭りも楽しめたし、よしとするか。

大会の本来の目的である盆踊りが始まったようだ。

由香と結衣がやぐらの方へ駆けていく。

僕と幹も引きずられるように続いた。

また大きな花火が上がった。

盆踊り大会はまだまだ盛り上がりそうだ。

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