6-4
やぐらの方に目を向けると、クライシスが立っていた。
四人編成のバンドのようだ。シンと呼ばれた男子がボーカルのようだった。
「あれ、さっきの奴らじゃん。結衣の友達だっけか。見に行ってみようぜ」
幹はやぐらに向かって歩き出した。
「あ、ちょっと幹!」結衣が呼び止めたが、人ごみのせいか幹には聞こえないようだった。
仕方なく僕達もやぐらへ向かった。
やぐらの周りには、彼らと同じ中学の生徒と思われる者たちが集まっていた。
何となくガラが悪い者が多く、父兄はやぐらから子供達を遠ざけていた。
あまり僕達の学校にはいないタイプだった。改めて平和な学校なんだなぁと思う。
あ、テレキャスだ。僕はどうでもいいところに目をつけた。
イントロが鳴り響き、一曲目が始まった。
疾走感溢れるギターロック。ありきたりな表現だが、そんなイメージの曲だった。
彼らのルックスから、ヴィジュアル系バンドのようなイメージがあったが、そういうわけではないらしい。
彼らの演奏は決して下手ではなく、むしろ中学生にしては上手い方だと思う。
結衣が好きそうな曲だな…結衣の方をチラッと見ると、複雑そうな表情でステージを見つめていた。
MCをはさむことなく駆け抜けるように曲は続き、最後の曲になった。
盆踊りの余興であり、たいした曲数をやれるわけではないようだ。
「シン!まだそんな曲やってるの!」
突然隣から結衣の声が聞こえた。
僕は驚いて隣を見た。
結衣の声は、よく通った。
「何だよ結衣、お前こういうの好きだろ?」
ステージの上で、シンが少し戸惑った様子で言った。
「だから違うって言ってるでしょ!私はあんたにやって欲しいのはこんな曲じゃない!昔やってた曲あるでしょ!?」
「…なんだよ関係ねーだろ。じゃあお前は今いるバンドで好きな曲やれてんのか?そいつらと」
「えっ…や、やれてるよ…」
あぁ、結衣が紛らわしいこと言うから僕らのことバンドメンバーだと勘違いしてるよ。
「ふぅん…じゃあ証明してみせてくれよ…おい隣の!お前ちょっとやってみろよ。俺らの時間使わせてやるからよ」
「はぁ!?何言って
「いいから!お前らどんなもんか聴かせてくれよ」
結衣を遮るように、シンが言った。
どうやら僕を指名したようだった。
おそらく自分達の方が実力が勝っているという自信があるのだろう。余裕たっぷりな様子だった。
何だよ、この展開。
僕がやるわけないだろ。