6-3
「結衣そういえば隣の中学に転校するって言ってたもんねー。この地区の学校だったんだ」
女の子の一人が声をかけてきた。金髪で、ピアスが何個も開いていた。みんな一同に、派手な格好をしていた。
これは…いわゆるビジュアル系というやつだ。
「あ…マユ」
どうやら結衣の知り合いのようだった。前の学校の友人だろうか。
僕はちょっとたじろいでいたので、結衣の知り合いとわかって少し安心した。
「隣のコ彼氏?紹介してよー」
結衣はちょっと慌てた様子だった。
「べ、別に彼氏じゃないけど…宗平くん。宗、このコは前の学校で一緒のバンドだったマユ」
「はじめまして〜。私たち、クライシスです」
マユと呼ばれたコはクスクス笑った。クライシスというのはバンド名らしかった。
「そうだよねー、こんな地味な男、彼氏なわけないよね。なにそれ、着せ替え人形?」僕はビンゴ大会でゲットした着せ替え人形を握り締めていたので、改めて指摘されるとちょっと恥ずかしかった。そして、僕は確かに地味なほうだと思うけど、そこには悪意のようなものが込められていたような気がして少し腹が立った。まぁ、確かに着せ替え人形は印象悪いと思うけど。
結衣は黙っていた。マユが続ける。
「結衣、また私達とバンドやろうよ〜」
「いや、私は…」
「そうだよ、また結衣とやりたいしさ。こんな平和な学校じゃ結衣退屈だろ?」髪の毛にピンク色が混じった男子がチラッと僕の方を見て、口を挟んだ。
「私はもうみんなとはやらないよ。私のやりたいバンドはみんなとは違う。辞めるときにも言った気持ちは今でも変わらないから」結衣は言った。
「えぇー。でもどうせ今やってないんでしょ?そんなぼんやりした男の子と遊んでないでさ、また一緒にやろ」
マユの声はキンキン響いた。結衣はちょっとイラついた様子だった。
「バンドならやってるよ。宗もメンバーなんだから」
僕は聞き流しそうになったが、驚いて結衣の方をみた。
「へぇ〜…そいつがね。ま、いいや。俺達これからライブやっから、よかったら見てけよ」言うが早いか、ピンクは行ってしまった。
「あ、シン!じゃああたし達も行くね結衣。良かったら見てって!」
毎年この盆踊り大会では、有志でのバンドのライブなども何組かある。
今年はクライシスも参加するらしかった。
「あいつら何?」
クライシスと入れ違いで由香と、自転車を置いてきた幹が戻ってきた。
タイミングがいいのか悪いのか、よくわからない男である。
「ん、結衣の前の学校の友達だって…」
チラリと結衣の方を見つつ、答えた。
「ごめんね宗…行こっか」
僕達はもう腹は膨れていたが幹がまだ何も食べていないとごねたので、屋台で焼きそばを買って食べていた。
くだらない話をしているうちに、さっきまでの不愉快な気持ちもどこかにいってしまった。
「みんな、受験勉強どうよ?」幹が切り出した。
「私は順調だよ〜」由香がおっとりとした口調で言った。
こう言いきれる人ってそんなにいないんじゃないかと思う。
「私はまぁ、それなりに」
結衣が言った。とはいえ、普段そうは見えないが成績優秀な結衣のそれなりは、僕らのそれとは違うのだろう。
進路の話になると、僕は口数が少なくなってしまう。
僕は何かやりたいことがあるわけでもない。これといって誇れるものもない。ただの図書委員だ。小学校の卒業文集にも、将来の夢はわからないと書いた。大きい夢を描く者が多い中で、僕は酷くつまらない事を書いた。
若いときぐらい大きな夢を持てばいいと我ながら思うが、僕にはどうしてもできなかった。
すでに進路を決めている者や、将来の夢がある者に対して、どうしても引け目を感じてしまうのだ。
「宗くんは〜?」
由香に聞かれて、我に返った。
「あ、ぼく?実は結構やってるよ。毎日図書館通ってるしさ」僕は慌てて答えた。
「すごい、宗くん図書委員の鑑だね〜」
由香がピントがずれたところに感心した。
「しかしその努力は報われなかったのであった…」
「ちょ、勝手なナレーションつけないでよ!」
何となく空気を察してくれたような幹が嬉しかった。
まぁ、うだうだ考えててもしょうがないか。この夏僕達に課せられた使命は、一つでも多く歴史の年号を覚え、英単語を脳味噌に刻みこむことだ。
そんな事を考えていた時、ギターの音が鳴り響いた。