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テストの返却が始まった。
テスト自体は終わってしまっているのでもうどうしようもないのだが、落ち着かない事この上ない。
担当教師から答案を返却される瞬間は、期待と不安が入り混じった不思議な感覚になる。
総合的に見た僕の得点は「決して良くはないが、まぁ悪くも無い」といったところだった。
もっと勉強しておけばよかっただの、逆に全然勉強しなかっただのという声を頻繁に聞くが、僕はまぁ、現実を受け入れる方だった。もうちょっと勉強していれば…という気はやっぱりしたけど。
「宗、結果どうだった?」突然幹に話しかけられて、僕は驚いた。
「いや、まぁ、普通っていうかなんていうか…」
妙に声がうわずって、幹に不審そうな目で見られてしまった。
「なんだよ…俺もまぁまぁだな。夏休みにもうちょい勉強しないと志望校は厳しそうだわ」「私もあんまり結果良くなかったなぁ。ランク落とさないとかも」由香が暗い声で言った。
とはいえ、もう間もなく夏休みであることに変わりはない。
勉強漬けの夏になる者。いまひとつ危機感のない者。全ての者に等しく夏休みは訪れる。
僕はどっちになるんだろうか…こんなことを考えている時点で、危機感はない方かもしれない。
その日、僕は今学期最後の図書委員の仕事があった。
夏休みの読書感想文の本を貸りに来る生徒達で、普段より多少にぎわった。
とはいえヒマな時間は充分あったので、僕は受験勉強に精を出していた。
もう時間割自体は昼前に終わる。
部活動も三年生はすでに引退しているものもいるため、多くの生徒は午前中で帰宅する。
昨日あの後、僕は逃げるように結衣の家を出た。
我ながら情けない反応だなと思う。
結衣の家を出た頃には、外は薄暗くなり始めていた。
初夏の夕暮れの匂いの中、僕は家路を急いだ。
あの時結衣は何を言おうとしていたのだろう。
「宗」
本を貸りに来る生徒も一通りはけ、ぼぉーっとしていると、ふいに呼びかけられた。
ふと声のしたほうを見ると、いつもの三人が立っていた。
もちろん結衣も。
「もう図書委員の仕事終わるんだろ?みんなで帰ろうぜ。夏休みの予定たてよう」
「夏休みの予定?みんな受験勉強は?」僕はちょっと驚いて言った。
「だから予定だよ。今のうちに決めといて、その日以外は目一杯勉強するための予定」
なるほど。
会議が始まった。
いかにして夏休みを充実したものとするか。
「夏といったらやっぱり花火だよね。花火大会は絶対行きたいなー」由香が提案した。
「よし、花火決定!」と結衣。
「あと、盆踊りも。小学校で毎年やるだろ」
僕達が通っていた小学校では、毎年盆踊り大会が開催される。露店が出店され、結構賑やかな雰囲気になるのだ。
「え〜、私学校違うしなぁ」結衣が不満そうな声を出したが、しかし嫌というわけではなさそうだ。
「宗くんは〜?」由香に話をふられて、僕は少し考えた。
「うーん…海…は遠いから、プールとかはどう?」夏といえば、やっぱりこれだろう。
「宗やらしいなぁ。そんなに私達の水着が見たいの〜?」結衣がイタズラっぽく言った。
僕は焦った。「や、そういうつもりじゃなくてさ…」
…別に見たいけどさ。
「決定!」幹が力強く言った。
僕は結衣が普通に話してくれたことに正直ホッとしていた。
数日後、終業式があり、僕達は夏休みを迎えた。
一学期最後のホームルームでは、やはり山岡のギターパフォーマンスが待っていたが、みんなある程度予期していたらしく、あまり驚いた様子はなかった。
でも山岡、やっぱり意外とうまいんだよな…
校舎を出ると、猛烈な暑さとセミの声が襲ってきた。
すっかり夏だ。
僕達は四人で集まって下校した。
受験生であることには間違いは無いが、楽しい夏にもなりそうだった。