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5-1

季節は完全に夏になった。

人より少し汗かきな僕にはつらい季節だ。

いよいよ期末試験を来週に控えている。これを超えれば、後は夏休みだ。

帰宅部の僕にはあまり関係は無いが、試験期間中は部活動が禁止されているため、自然とみんな帰宅が早くなる。

我が校は部活動は強制参加ではないため理屈の上ではみんなやりたくてやっている事のはずなのだが、部活が無くてラッキー、という声をよく耳にする。

まぁ事情は様々あるだろう。


どうでもいい話だけど、僕はテレビゲームを全くと言っていいほどやらない。

最後にプレイしたのは小学生の時だ。

当時、非常に人気の高いシリーズ(RPGというジャンルだ)のナンバリングタイトルが発売された。

クラスはゲームの話で持ちきりになり、その当時は僕も夢中になってのめり込んだのだが、ある日を境に急速に冷めた。


僕はクラスの中でもかなり早くクリアーし、若干収集癖があるのか、取得できるアイテムも全て網羅した。

しかし、ある時ゲームが起動しなくなった。

テレビ画面は漆黒を映し出し、どんな呼びかけにも答えなかった。

仮想世界の冒険の日々は、あっけなく消えてしまった。


もう一つ。

時期を同じくして、母が死んだ。

交通事故だった。

ある冬の寒い日、近所のスーパーに買い物に出かけ、それっきりだった。

ゲームの中では死者の蘇生は当然のごとく行われる。僕は母の棺桶にすがり、密かに蘇生の呪文を唱えたが、母は生き返らなかった。

もしかしたら魔力が足りなかったのかもしれない。

そういえば僕はセーブをしてなかった事を思い出した。

何とか母の外出する前までリセットできないものかと思索したが、いい考えは浮かばなかった。

周りの黒い服を着た大人達にその旨を伝えたのだが、皆悲しそうな顔をして首を振った。


母よ、死んでしまうとはなにごとだ。


テレビゲームは僕に何も残してはくれなかった。

試験期間中はゲームがはかどると言う声も耳にするが、僕にはそうまでしてのめり込む理由がもうわからなかった。

クラスメイト達の会話に入れずつまらない思いをする時もあるが、受験を控えた身としては障害となる物が一つ少ないわけで、捉え方によっては有利な気もした。


僕は、相変わらず進路が決まっていなかった。この期末の結果如何で受験する高校を決めようと思っているので、今回はある程度真面目に取り組んでいる。

学校は昼までには終わるので、夕方まで図書室に残って勉強。夜は丑三つ時まで勉強していた。

試験期間中は貸し出し自体行われていないため、人が来ない図書室は勉強をするのにうってつけだった。最も、試験中でなくても人は来ないが。

今日も放課後、図書室で勉強していたのだが、寝不足がたたったのか寝てしまったらしい。目が覚めたら、夕暮れの日差しが窓から差し込んでいた。

しまった、ずいぶん寝ちゃったみたいだ。

クーラーは一応設置されているのだが、構造上最も冷気が届かないのがこの図書室らしい。僕はじっとりと汗ばんでいた。

下校時刻も迫っていたので、僕は顔を上げた。


ちょっと驚いた。

結衣がいた。

「環境が良くても寝ちゃってたら意味ないね」ちょっとバカにした様子だった。クーラーの恩恵をほぼ受けられないこの環境は、決していいものとは言えない気はするけど。


「結衣、いつからいたの?」とりあえず僕は、荷物をまとめて図書室を出た。

もう残っている生徒はさすがにいないのか、校内は静まりかえっていて不思議な感じがした。

「結衣?」

「あ、えぇと、クラスのみんなと残って話しててね、ちょっと遅くなっちゃって」

「?じゃあ今来たところってこと?」

「あ、あぁ、うん。図書室の前通りかかったら宗が寝てたからさ」

何だか不自然さを感じたが、特に気にしない事にした。僕は寝起きだったから、まだうまく現実と同化できていないだけかもしれない。

「起こしてくれればよかったのに…なんか寝顔見られるのってちょっとハズいっすね」

「ふふ、可愛い寝顔だったよ」


結衣の制服は未だに前の学校のままだった。

なんか事情があるのだろうかと思って以前それとなく聞いてみたのだが、単純にこっちの方がかわいいからだそうだ。

深い理由があるのかなぁと想像していた僕は、少し肩透かしを食った気分だった。


「宗はさ…」

ん?

「その…やっぱりなんでもない」

「何それ、気になるよー」

「その…もう進路とか決めた?」

「いや、まだだよ。今回の期末の結果で決めようと思ってるんだけど…って、これ前言わなかったっけ」

「聞いたかも。ごめんね」

「いや、別にいいんだけど」


少し沈黙が流れた。

夕暮れの校舎は静かすぎる。

何だか少し、変な雰囲気だった。

何か結衣、様子おかしいな。どうしたんだろ。

結局その日はその後なにも話さず、校門の前で別れた。


夕暮れの街は薄暗さと同化し、チョコレート色に染まっていた。

セミの鳴き声のする公園を抜け、僕は家路を急いだ。


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