side1.8
「以上が本日のジョエル王子の報告です」
ここは王宮の一室。
ワシと王妃は影からの報告を受けてげんなりしていた。
「あぁぁ、婚約破棄をしてもセラフィーヌに迷惑をかけるなんて」
王妃が頭を抱えておる。ワシも。
「影よ、そもそもジョエルのやつは学園に入るまでセラフィーヌに見向きもしなかったのではなかったか?」
「はい。時節の手紙や誕生日の贈り物などもテイラー様が手配されておりました。どうやらセラフィーヌ様が王宮に来なくなった事でジョエル王子を蔑ろにされている、と思われているようです。一番の不満は執務が増えた事かと」
「全くあの馬鹿息子は…蔑ろというならあれこそ婚約してから何年もほったらかしだったではないか」
「フォルト男爵令嬢からジョエル王子に、セラフィーヌ様はもう婚約者ではないと指摘を受けたのですが、まったく信じておられませんでした。そのジョエル王子の様子を見たフォルト男爵令嬢から別れを告げられておりました」
「フォルト男爵令嬢はマトモな令嬢だったのだな…」
「はい、いささかぶりっ子を演じてはおられましたが、今までのジョエル王子の相手の中ではかなりマトモでございました」
「そう…息子を振っておいてなんだけど、フォルト男爵令嬢の事を考えると、別れて良かったのかもしれないわね…」
「今日の事はフォルト男爵令嬢がセラフィーヌ様に謝罪すると言っておりました」
「そうか。ますます勿体ない令嬢だったな…」
「陛下、本日でフォルト男爵令嬢の調査を終えてよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。よい」
王家の人間が娶る相手は調査が入る。
交友関係だとか、親の派閥だとか、王家に不満を持っていないか、そういうのだ。
しかしジョエルの相手がコロコロ変わるせいで、令嬢を調査した報告書を纏めたファイルがものすごく分厚くなっている。
「わたくしからも公爵家に謝罪を入れるわ」
「王妃よ、頼んだ。影は次のあれの相手が決まり次第知らせよ。そして相手の調査に入ってくれ」
「かしこまりました」
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ラナに振られてから2ヶ月後。
今日は昨日終わったテストの順位が発表される。
それは学園のロビー付近の掲示板に張り出されていた。
1学年の人数が多い為か、かなりの名前だ。
今回は私の真実の愛であるルナマリアと勉強した。
頑張って名前を探すと私の順位が上がっていた。
さすがルナマリアだ。
そういえばこのロビーのどこかにセラフィーヌがいるはず。
今こそルナマリアの才女振りを見せつけ、
婚約破棄を叩きつけるべきではないか?
よし、セラフィーヌを探せ。
ん?あそこに見えるのは陶器のように白い肌。
前回は髪で間違えたからな。
間違いない、セラフィーヌだ。
「セラフィーヌ・ルブラン公爵令嬢!私はそなたとの婚約を破棄するために今日こそは断罪する!そして今度こそ『真実の愛』である才女ルナマリア・メーガン子爵令嬢と婚約する!」
決まった!
どうだセラフィーヌ!
と、満足してる私の腕をルナマリアに引っ張られた。
「ジョエル王子殿下」
「どうした、ルナマリア」
「その方はセラフィーヌ様ではございません」
「え?…ん?あれ?だれだ君は」
「それより先程の発言、取り消して下さいませ」
「は?」
「私は──」
ピンポンパンポーン♪
「む?なんだ、園内放送か」
『ジョエル・サタナエル王子殿下、至急教員室の隣の部屋まで来て下さい』
「私を呼び出すとは…城でなにかあったのか?」
「ジョエル王子殿下、早く行きませんと」
「ああ、ルナマリアも来るがいい」
「え?なぜ私が?」
「なぜって、ルナマリアは私の真実の愛だからだ。さっき言ったではないか」
「私は陛下からジョエル王子殿下の成績を上げるようにと言われ、テスト勉強に付き合っていただけですわ」
「え?休みの日も一緒にいたではないか」
「それはジョエル王子殿下があまりにも馬…コホン、ええと、陛下に言われたからには休日でもお手伝いせねばと、勉強に誘っていたのですわ」
「な、なんだと…それではルナマリアは私を真実の愛と思っていないのか!?」
「はい、そもそもわたくし、ジョエル王子殿下の侍従のテイラーが婚約者ですのよ」
「ててててていらー!?」
「ええ、王宮で勉強する際も一緒にいたではありませんか。それより早く行きませんと」
そうしてルナマリアに背中を押され(物理的に)渋々呼ばれた部屋へ向かった。
そこには紅茶とクッキーが大量に用意されていた。
しかし待てども教師は来なかった。
紅茶とクッキーが無くなって、部屋を出てみると
すでに放課後のようだ。私は城へ帰った。
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【ルナマリアとテイラー】
「テイラー、あなた大変ね…」
「やっと理解してくれた?」
「理解はしていたつもりだったけど、あそこまでとは思わなかったわ。全く勉強が進まなくて、自分の勉強が出来なくて…前日まで殿下の予想問題の採点してたから、テスト中寝てしまうし!おかげで私の成績が過去最低に下がったわ」
「お疲れ様、ルナ…。メーガン子爵には陛下からきちんと話してくれてるから大丈夫だよ。むしろ王子の成績自体は上がったから感謝される」
「ええ、父上に怒られはしないと思うけど。そういえばセラフィーヌ様が園内放送で助けてくれたのよ。セラフィーヌ様に感謝と謝罪をしないと」
「俺も共に行こう。多分笑って許してくれると思うけど、王子のせいで気の毒すぎだよなあ」
「ええ。ほんとにお気の毒だわ」