side1.7
式典の開始時刻になったようで、
幕の向こうは静かになった。
「ジョエル様ぁ、ラナはあちらで、あ、見えないか…えっとぉすぐ見える場所でお待ちしてますぅ。」
「ん?なぜだ?ラナはここに居ないと駄目だろう」
「…え?」
「大丈夫だ、任せておけ」
「…えぇ?」
するとどこからか、声が聞こえてきた。
式典を開催しますとか言ってるから、司会の生徒だろう。
そしてようやく幕がひらいた。
よし!セラフィーヌを探すぞ!
むっ、暗がりから明るい場所に出たからか、目がチカチカして良く見えんな。
お?あれか?長いプラチナブロンド…あれだな。
「セラフィーヌ・ルブラン公爵令嬢!私はそなたとの婚約を破棄する為に、そなたを断罪する!そしてこの私の『真実の愛』である、ラナ・フォルト男爵令嬢と婚約を結ぶ!」
ビシッと指を指す!
うむ、我ながら完璧だ。
隣のラナは嬉しさから震えている。
小動物のような愛らしさよ。
さて、チカチカした眩しさにも慣れてきた。
ここから断罪劇の始まりだ!
改めてセラフィーヌを見下ろす。
「セラフィーヌ、心して聞くように…ってあれ?よく見たら君、セラフィーヌじゃないじゃないか!セラフィーヌは?」
よく見たらシルエットはセラフィーヌだが、顔が違う。
ぼんやり見える肌の色も陶器の白さではなく褐色…。
だれだお前。
「じ、ジョエル様ぁ?何してらっしゃるんですのぉ!?」
ラナが横で小声ながら喚いている。
「ラナ落ち着け、今私はセラフィーヌを探しているのだ」
「…セラフィーヌ様はこれから紹介される生徒会メンバーですから会場にはいませんよ…」
「へっ?」
そこで突然幕が降ろされた。
何が起きた?
「ジョエル様、とりあえず戻りましょう」
いつの間にか口調が変わったラナに引っ張られステージ裏から会場を出た。
そして廊下まで引きずられた私は何故かラナに怒られていた。
「ジョエル様?さっきのはなんなのです?わたくしてっきり、王族として式典開催の挨拶でもするのかと思ってステージまでお連れしましたけど、あれは、セラフィーヌ様との余興かなにかですの?」
「え?余興?なんで?」
「だってセラフィーヌ様はジョエル様の婚約者じゃないじゃないですか」
「ラナ、頭でも打ったのか?大丈夫か?セラフィーヌは私の婚約者だぞ」
「…はい?」
「しかし私の真実の愛はラナだから、こうして…」
「もしや、こないだ見た舞台のように婚約破棄をしようとなされたのですか?」
「そう!そうだ!さすがラナだな」
「…えーと、セラフィーヌ様は舞台のような断罪されるべき罪はございませんでしょう」
「いや、あいつは婚約者なのに私を蔑ろにしてる」
「…」
「ラナ?」
「ジョエル様、わたくしジョエル様とはお別れさせて頂きますわ」
「へっ?」
「そうですわね…どうやらわたくしの真実の愛はジョエル様ではないようなのです。ジョエル様ならおわかりいただけますでしょう?」
「なんだと!…そ、そうか。真実の愛で結ばれないのはダメだ。そういう事なら仕方がない。ラナ、幸せになるのだぞ」
「ありがとうございます、ジョエル様。…色々頑張って下さいませ」
「ああ、ありがとう優しきラナよ」
こうして私は人生で初めてふられてしまった。
しかしラナは私の『真実の愛』ではなかったのだろう。
ラナの幸せのためだ。仕方がない。
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【ラナとその友人メイベル】
「聞いてメイベル様、今日のアレで気づいたのだけどジョエル様、セラフィーヌ様との婚約破棄を知らないようですの」
「なんてこと!?やはりあれは余興とかではなかったのですね…」
「ええ、わたくしびっくりしてしまいましたわ。何故かステージに一緒に上げられて…」
「だからジョエル様とのお付き合いはお止めしましたのに」
「普段は気さくで楽しい方でしたのよ。まぁ確かにちょっと頭は弱いような気はしましたけど」
「セラフィーヌ様がお気の毒ですわね…」
「全くですわ。わたくしから謝罪しませんと」
「セラフィーヌ様ならわかってくれますわ」
「ええ、セラフィーヌ様で良かったですわ、本当に」
「ところで…ジョエル様はまた同じ事をされるのではないかしら」
「メイベル様もそう思われます?わたくしもそんな予感がしますの」
「セラフィーヌ様…」
「「お気の毒すぎますわ」」
今日中に次話書き上がったら
また更新するかもです。