side1.5
ワシと王妃は渋々、あとは息子のサインを記入すれば婚約破棄完了という状態の書類を受け取り、2人を見送った。
セラフィーヌが慰謝料のようなものは一切いらないと譲らないので、こちらとしてはありがたい。
いや、むしろ何か払ってでも婚約を続けて欲しかった…。
「出来ればセラフィーヌにステファンの婚約者になって欲しいけど…言えませんわ」
「王妃よ、ワシもそう思ったぞ。しかしルブラン公爵が許さぬだろうな」
「そうよね…溺愛していると噂の愛娘ですものね…こんな事なら初めからステファンと婚約を結んでもらえば良かったわ」
「「はぁ〜」」
2人の長い溜息が何度も繰り返された。
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その後、夕食前に城に戻ったジョエルはテイラーから婚約破棄の書類を受け取った。
しかし遊び疲れたジョエルは書類を真面目に読まず、適当にサインして、テイラーに渡した。
「ジョエル王子、随分あっさりとサインされましたが…よろしいのですか?」
「ん?何がだ?それより私の夕食は?」
「あ、いえ、なんでもございません。すぐ夕食をお持ちします」
侍女に夕食の準備を任せ、陛下に書類を持っていく。
「陛下、ジョエル様から例の書類をお預かりしてまいりました」
「あれは何か言っておったか?」
「いえ…それどころか中身をきちんと読んでなかったようにお見受けしました」
「あの馬鹿息子め…しばらく婚約破棄した事は黙っていろ。執務を増やしてデートなぞ行かせぬように。あれでは処理出来ぬ重要書類はステファンの方にまわせ。ジョエルが何か言おうとセラフィーヌを呼ぶことは許さん。あれがどれだけ癇癪を起こしても、私からの命で呼べぬと伝えよ」
「かしこまりました。婚約破棄された事は知らせず、尚且つセラフィーヌ様に迷惑をかけぬように致します」
「うむ。もしあれが婚約破棄に気づいたら知らせよ」
「かしこまりました」
こうしてジョエルは、自分で気付かぬうちに婚約破棄をしてしまった。
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今月、私は貴族学園に入学した。
入学式の生徒代表はセラフィーヌだった。
あいつは頭だけはいいからな、仕方ない。
久しぶりに後で労ってやろうか。
そして入学式は無事終わった。
その足でクラス分けを見に行く。
どうやら私のクラスはFらしい。
セラフィーヌはSか。
どうやら成績が基準ではないようで、
私の方が良いクラスのようだ。
SはFより後ろだからな。
最近付き合い始めたマデリンはBか。
授業中は離れてしまうから寂しい思いをさせるな。
さて、マデリンを迎えに行ってそのまま市井に繰り出すか。
上級生に生徒会に入るよう頼み込まれると面倒だ。
おっと、その前にセラフィーヌを労ってやろう。
私はセラフィーヌのいるSクラスへ向かう。
「そこの君、ちょっといいだろうか」
クラスの入口から中を覗いていた令嬢に声をかけた。
この子もなかなか可愛いな。
「あっはいっ!あの、ジョエル王子殿下ですよねっ」
「そうだ。ジョエル・サタナエルだ。君は?」
「失礼しましたっ、わたしレイネシア・イグノアと申しますっ」
頬を赤く染めてなかなか可愛いではないか。
「レイネシアはこの後時間はあるだろうか?良ければ市井に行かないか?」
「わ、わたしがジョエル様とっ!?喜んでっっ」
うん、やはり可愛いではないか。
何か忘れてる気がするが、まぁ大したことではないな。