side1.28
セーラと話を終えて城に戻ったテイラーは、陛下に呼ばれて執務室に訪れていた。
「テイラーです、失礼します」
執務室には陛下と王妃様、そしてステファン王子が居た。
「テイラー、ちょくちょく呼び出して悪いな。座ってくれ」
「いえ・・・王妃様、ステファン王子、お久しぶりでございます」
この面子でこの空気・・・セーラの言ってたあの話を聞かされるんだろうか。
そう考えていると、王妃様から話が始まった。
「テイラー、実はね、ステファンの婚約者が決まったの」
王妃様の言葉に、ステファン王子が反応した。
「レイブン伯爵令嬢でしょうか」
「あら、流石テイラーね」
いや、セーラから聞いたんです・・・とは言えない。
「ステファン王子、お祝い申し上げます」
「ありがとう、テイラー」
ステファン王子はにこりと笑う。
うーん、何度対面してもジョエル王子と似てないなぁ。
まさに理想の王太子って感じ。
「それでな、お前にはジョエルではなく、ステファン付きになってもらいたいのだ」
お?まじで?それは願ったり叶ったりなんだが。
「陛下、その前にあの話が先ではなくて?」
「ああ、そうだな・・・。実はジョエルの卒業と共に、ステファンの立太子の儀を行おうと思っているのだ。だからお前にステファンを支えて貰いたいと考えておる」
陛下の言葉に、ステファン王子がびっくりして目を剥いた。
「父上、兄上ではなく私が王太子に・・・?」
「そうだ。ジョエルは王の器はないからな。テイラー、お前はジョエルには勿体ないほど優秀だと思っている。どうだろうか?」
「私は陛下が仰るほど優秀ではありませんが・・・」
「謙遜するな。お前がフェンベルク伯爵家の中で飛び抜けて優秀であるのは知っておるぞ」
「勿体なきお言葉・・・陛下の仰せのままに」
「では、立太子の儀に間に合う様、新しいジョエル付きの者に引き継ぎをすませよ。人選はフェンベルク伯爵に任せておる」
「かしこまりました。・・・陛下、ジョエル王子の件でご報告がありまして」
「あれのことか」
陛下の顔が歪む。こえぇ。
「はい」
「わかった。ステファン、お前は下がって良い」
「かしこまりました。テイラー、今日はありがとう。また後日」
「はっ」
ステファン王子が陛下の執務室を出ると、陛下と王妃様の顔にどっと疲れが現れた。
「はぁ。ステファンの事は順調だけれど、ジョエルの事を考えると頭が痛いわ・・・」
「まったくだ。して、報告とは?」
両陛下にこれから話すのが躊躇われるほど顔色が悪い。
「じつはかくかくしかじかで・・・」
俺はセーラの名前は出さずに辺境伯の話も含めて説明をした。
「うーーーーーむ。それはまずい。レイラ嬢には会わせてはなはらぬ。近年戦争は無いとはいえ、辺境伯に見捨てられたりしてはまずい」
「陛下、いっそ留学でもさせてはどうかしら?」
「失礼ながら王妃様。留学して目の届かない所で何かやらかしてしまう方が問題かと思われます」
「確かにそうね・・・まったくどうしたものかしら・・・」
王妃様が眉間を揉んでいる。美人なのに。
「卒業パーティーで真実に辿り着き、王太子にもなれないと分かった後、ジョエル王子がどうするかによるかと思いますので、様子を見るしかないかと」
「そうよな。廃嫡するのは簡単だが、あれに適当な領地を与えた所で領地運営など出来るわけもないし・・・市井にほっぽり投げたらそれこそ好き勝手やらかすであろうし・・・」
「はい。私の後任に今までの『真実の愛』に関しての引き継ぎはした方がよろしいでしょうか?」
「ああ・・・、そうだな、せねばならぬだろう」
「かしこまりました」
ジョエルの卒業まであと2ヶ月・・・。




