side1.21
「フィリア嬢、なんだい?」
よし、バレてないな。
これからバラすけど。
「メイクが少し落ちてしまってるから、直してあげますわ」
「あ、本当?お願いするよ」
「では他の皆さんの邪魔にならないように・・・あちらの鏡台に参りましょう」
少し奥の鏡台を指して、誘導。
椅子に座らせたティターニア・・・じゃなかったノエル様に、白粉を塗りながら任務開始。
『ノエル卿、王家の影の者です。このまま聞いていただけますか』
テイラーと名乗るより、影と名乗った方が早いのでそうした。
「えっ」
『声を抑えてください』
「あ、すみませんっ、えっと、なんでしょう?」
『先日手紙でもお伝えさせて頂きましたが、ジョエル王子の件です』
「あぁ・・・あれ、冗談では?」
『冗談で影は動きません。ノエル卿、先程大広間に入る時に王子に会いましたか?』
「いえ、お会いしてないです」
『そうですか・・・実は数日前から王子が大広間の入口でノエル卿を覗き見しつつ、話しかけるタイミングを伺っております。今日も来てますので、見てみて下さい』
「え゛っ」
『あ、王子は男性が好きなのではなく、本気でノエル卿を女性と勘違いし、恋慕しております。しかし話しかける勇気が無いようですので、出来ればノエル卿から話しかけて頂き、ノエル卿が男性と気付かせて欲しいのです』
「な、なるほど・・・よかった」
そうだよね、よかったよね。
男と分かってて惚れてますなんて事じゃなくて。
白粉塗り直してるのに、ノエル様の冷や汗で流れてくよ。
なんかごめんなさい・・・マジで。
『陛下からも1日でも早く気付かせるようにと命を受けております』
「わっわかりましたっ」
ちょっと声が裏返ってるね・・・。
『大変ご迷惑をおかけしますが、何卒よろしくお願いいたします』
「が、がんばります。出来たら今日の帰りにでも」
『何かイレギュラーがありましたら、ルナマリア嬢に伝言をお願いいたします』
「はっはい」
『私は今日フィリア嬢のフリをしたまま稽古に参加しますので、何かあれば今日中に。それでは失礼致します』
「わかりました!」
そこで俺はまたフィリア嬢に戻る。
「ノエル様、できましたわ」
「ああ、ありがとう」
俺がやるライサンダーは序盤から出番がある為、
急いで舞台袖に向かい、やがて稽古が始まった。
ステージから横目で王子の方を見てみる。
・・・モグラ?
なんていうか、入口の扉から、頭だけポコッと出ている。
まるで眼鏡をかけたモグラ。
ハンマーで叩きたくなる感じだ。
舞台が進み、ティターニアの出番になると
モグラだった王子の半身が完全に見えていた。
そしてなにやら興奮で手を振っている。
『ジュリエット!最高だ!羽が!』という感じだろうか。
そしてその様子を見てしまったであろうティターニアは、肩をビクッと震わせてドン引きしていた。
役者魂( ? )で、セリフはなんとかミスってなかったが。
なんか、マジで王子がごめんなさい・・・。
しかし、今日ティタ・・・じゃない、ノエル様と話して思った。
声が男っぽくなかった。澄んだ声とでもいうか。
王子が信じなかったらどうしよう・・・。
ちなみに、護衛の変装をしたフィリア嬢は、楽しそうに見ていたのが丸わかりだった。
テイラーの出番が終わらない。




