side1.10
セラフィーヌが2年になる直前の長期休み。
セラフィーヌは隣国アスガール国に訪れていた。
数ヶ月前に成されたフィリップとの婚約発表の為だ。
この喜ばしい話題はアスガール国のみならず、
勿論セラフィーヌの母国であるアルセイヌ国でも話題になった。
そして学園に通う生徒たちは『ああ、これで王子は自分の婚約破棄を知ってしまうのか』と、断罪出来ない劇が無くなる事を寂しく思った。
しかし、在学生のそんな寂しさなど露知らず。
ジョエルはせラフィーヌの予想した通り、世間を駆け巡った婚約発表を知ることは無く…一月後には今まで通り
「セラフィーヌ・ルブラン公爵令嬢!私はそなたとの婚約を破棄する為、何としてでもそなたを断罪する!」
と、ランチタイムの食堂の一角から叫んでいた。
その場に居合わせた生徒たちは、
断罪出来ない劇が無くならなかった喜び半分、セラフィーヌ様の婚約発表知らないとか大丈夫?という哀れみ半分を帯びた目でジョエルを眺めていた。
瞬時に危機察知能力を発揮したセラフィーヌは、駆け込んだ厨房からジョエルを覗き見つつ…
「さすがジョエル王子殿下、裏切らないわね…」
と、呟いていた。
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それからさらに時は流れ、ジョエルとセラフィーヌの代は3年生になっていた。
この2年で貴族学園でのジョエル王子の断罪出来ない劇は、本人は知らぬまま人気イベントと化していた。
新入生は入学前に、自身の兄姉などから断罪出来ない劇の話は聞いているのだが、実際に見ると最初は目を開いて驚く。
なぜなら一応、ジョエルは自国の第一王子だからだ。
勉強も普通( 少し成績が上がって学年では中くらい )、
剣技は嗜む程度、顔だけ異常に良いという認知度で、
王太子になるのは第二王子のステファンだろうというのは貴族、平民皆の共通認識である。
それでも一応は自国の第一王子。
本来であれば雲の上の人物が、目の前でアホな宣言をしている。
その衝撃に驚いて固まってしまうらしい。(生徒会調べ)
そして学園に慣れると、一応はイケメン王子サマという事でお近付きになりたいというご令嬢も増える。
中には学園での思い出の一つとして体験してみたい!
などというご令嬢もいる。
1年目にジョエルが断罪出来ない劇に巻き込んだ令嬢達は、
ジョエルが一方的にお付き合いしていたと思い込んでいただけだったが、
2年では、ちゃんとお付き合いしたご令嬢もいた。
ジョエルは阿呆だが性格はサバサバしていて
王子らしい威厳や距離感がなく、
( 本人は威厳があると思っているが)
ご令嬢からすると近づきやすい、
王子なのに親しみやすいし優しい、と
恋人にするには良いと、ある程度人気はあったのだ。
しかし、その度に王家の影は相手のご令嬢の調査に動くが、
ジョエルは相変わらずすぐ別のご令嬢を口説くか、
振られるかしてしまうので、調査報告のファイルだけが増えていった。
勿論、未だ婚約者はいない。
(本人はまだセラフィーヌが婚約者と思っている)
ジョエルは裏切らないアホの子です




