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逆ですよね、まったく

作者: 良夜



日常はなぜこんなにも脆く崩れやすいのか。

いつものように夕食の席に座っていただけだったのだが、急激な光が周囲を包み込んだと思うと次に目を開けた先には、まるでハリウッドの映画に出てくる王子様のような衣装を纏った異常に顔の良いイケメンがこちらに向かって声高らかに述べていた。


「嗚呼、やっとやっとだ…召喚魔法は無事成功した。聖女よ!召喚に応じて頂き感謝する!」


聖女を召喚したことに喜びがあふれんばかりに両手を広げた。黄金の男の人にしては長い髪はさらさらと風になびいて、身長は目測でも180cm以上はあるだろう。おまけに町を歩こうものなら誰もが振り返るほどの顔の良さ、足の長さ。なんだこのリアル二次元は。昨今の2.5次元俳優以上のクオリティーの高さだ。すごくカメラが欲しい。


話が逸れたので最初に戻る。突如現れたこのイケメン。

突如、我が家の食卓に現れた、このイケメン。彼は一体何処から来たのか。


だがこんな突飛な事をいう男だ。明らかに頭がぶっ飛んでいるか、危ない薬でもキメていてやっぱり頭がぶっ飛んでいるに決まっている。絶対そうだ。いや待て、これが一般家庭を巻き込んだ壮大なドッキリ番組ということはないか?この状況がお茶の間に流れるとなると放送があった次の日我が家はご近所さんや友人から爆笑されるに違いない。だがこの始まったばかりの夏休み一週間、私は引き籠りに興じていて一切外に出ていない。自室にはエアコンがないため唯一設備されているリビングで日がな一日勉強やらゲームやら過ごしていた。一つ下の妹は部活で朝早く部活動がある道場へ向かって、夕方遅くに私の頼んだアイスと共に帰ってくる日々。母は専業主婦で基本的には家にいて、父は普通の会社員。定時には仕事を終え飲み会がない限りは早めに帰宅する。テレビスタッフが入ってくる暇など片時もない。深夜?ここ最近私は深夜のアニメ番組とかお笑い番組見ている為、泥棒すら家に入り込む隙間など与えていない。よって、この可能性もゼロである。

エアコンの機械音とテレビから流れるバラエティの笑い声だけが支配していた空間で、カチャンと両親が同時に箸を皿に落としたその瞬間呆然としていた私が我に戻る。そうだ、目の前の彼はイケメンだろうと何であれ不審者であることには違いない。息を大きく吸い込み今までジェットコースターに乗る以外では出ない私の耳に残ると評判の叫び声を聞かせてやろう。


「キッ」

「待ってお姉ちゃん」


叫ぶ前に隣に座っていた妹に口を塞がれ耳元で囁かれる。怪しい人が家の中にいるのだ。周りのご近所さんに助けを求めなければならない。それを理解しているのか我が妹よ。口を塞がれているので目で訴えると彼女は目で『私に任せてと』語りかけてきた。何か考えがあるのだろうか。とりあえず任せてみよう。…というか目の前のイケメン全然動かないんですけど。もしかして酔っている?聖女を召喚が成功したと思って自分に酔っているのか?アホなの?現状を見て、今目の前にいるのは何の変哲もないダイニングテーブルで夕食の青椒肉絲(もやしを入れてかさ増し)を囲む一般家庭だから。両親は頭に情報が追い付いてないのか固まっちゃっているけど!

我が妹はゆっくりと椅子を引き一番イケメンに近い私を守るようにして立つ。お尻をテーブルにくっつけた妹とイケメンの距離は30cmも満たない。本当に大丈夫なの?ここは本来姉として妹を守らないといけないのではないだろうか。背丈も大分違うしなんか腰には剣の柄も見えた。私の血の気が失せる。これは、もしあれが本物だったら私を庇う様に立っている妹が下手したら死んでしまう。危ない目に合う前に誰か助けを呼ばなくては。


「ん、何故誰も称賛しない?成功したのだ…ぞ?」


再び口を開け叫ぼうとしたとき、イケメンはやっとこの状況に疑問を持ったらしい。現状を一瞥しその呆けた顔を見せた一瞬を見逃さなかった妹は、何のためらいもなく夕食の味噌汁(程よい温度)を至近距離から投げ捨てイケメンに浴びせた。


「消え失せろ不審者!!!!!!!」


おまけに拳まで綺麗なお顔にぶつけている。

リビングに置いてあるテレビの中で丁度芸人が落とし穴に落ちて爆笑のSEが部屋全体に響き渡っていた。なんて、タイミングがいい。



「それで、国のピンチを救うために必要な聖女の召喚に成功したと思ったら何故か我が家の夕食時を邪魔していた、と。なにその妄言。不審者でももっとまともな事言うわ。馬鹿なんじゃないの?顔を洗って出直してこい外見イケメン中身不審者が」


現在食卓に現れたイケメンは妹の拳を食らって倒れたところにもう一度味噌汁、そして大皿に盛り付け垂れていた大量の青椒肉絲を顔面に食らい、突然の出来事で慌てふためいている間に、近くに偶然置いていた新聞紙を括るために買ったビニール紐で縛り上げられていた。因みに縛り上げているその最中イケメンが暴れそうになった為もう一発顔を殴っていた。

はい、これ全て妹がやってくれました。私の心配は何処。

遠慮なしに暴言を吐く妹に最初は睨みつけていたイケメンだったが、妹は愛用する竹刀を取りだして思いっきり床を叩き付けたらその音に驚いたのか一気に怯えた表情をした。弱っと叫びそうになった口をおさえ、軽くイケメンに同情する。確かにあの音が突然近くで響いたら吃驚するよね。


「あのね、現代社会、突然家に現れて、しかも土足で上がってきて変なこと言う奴は大抵不審者、もしくは危ないお薬キメて頭おかしくなってる傍迷惑な人なの分かる?しかも武器まで持って。装飾とかも凄く凝っていてカッコイイとでも思ってるのいい歳こいた厨二病がって罵るところだけど、これ本物じゃん。銃刀法違反もいいところだよ。普通だったら迷わず警察に電話するけど心が広くて優しい私は弁解次第では野に放ってやってもいいと思っているわ。さ、正直に言いなさい。あんたはこんな家に何の用事で入ったの?警察に突き出させないほどの理由且つ、この私が納得できる言い訳があるんでしょうね、このコスプレ野郎が」


固い床にか、正座自体が慣れていないのかは判断することが出来ないが苦しんでいる顔をするイケメンの喉元に竹刀を突き付けながら彼の次の言葉を妹は求めている。どう見ても尋問ですね。なお没収した剣は冷蔵庫のキュウリを犠牲にして本物かどうか確かめていた。とても素晴らしい切れ味だった。私はというと妹がイケメンに浴びせた味噌汁や青椒肉絲が床に落ちていくのを見ていたのでその個所の掃除、使い捨てられたビニール紐の後片付け、台無しになった夕食の代わりに簡単な軽食を作っていた。母は呆然としていたので父と共にソファーで休んでもらっている。


「だから、何度も言っているであろう。魔物が蔓延るようになってしまった我が国土を救うために異世界より聖女を召喚し救って頂こうと三ヶ月編み込んだ術式を発動させたのだ。光が地下の部屋を埋め尽くし、成功したと思っていたら」

「はいはい、気が付いたら家にいたんでしょ。何度も聞いたわ。それが有り得ないって言ってるの。魔法?召喚?流行りのトリップ小説や二次元じゃあるまいし現実見なよイケメン。顔がよくても頭が阿呆丸出しならそれは残念なイケメンっていうの。OK?」

「だが事実で」

「ええ、私が今より幼くてもっと純粋だったら、確かにそんな素敵なお顔で突飛な事言われても二つ返事で信じるでしょうね。だが残念だったな!この私は部活で先輩や顧問のゴリラにしごかれ、日々殺意と復讐心で煮えくり返り少し純粋さを失った私だ!そう簡単にてめぇみたいな不審者イケメンを信じてたまるか!あーっはっはっは!!」


どうしよう、どうみても妹が悪役にしか見えない。こういう人の話をちゃんと聞かない奴が警察とかにいるから冤罪はなかなか消えないんだろうなぁ。おにぎり握りつつ軽くこの状況に現実逃避をしてしまう。妹は気づいてないが両親ちょっと引いているよ。イケメンに憐憫の目をし始めているから。捨てられた子犬と目が合ってしまっても家で飼えないから通り過ぎた人の目だよ、あれは。仕方がない一旦休憩を入れよう。両親と私の精神衛生上の為にも。


「はいはい、一旦やめようか。貴女は麦茶でも飲んでおいでよ」

「えーでもお姉ちゃん、これから面白くなるところなのにぃ」

「うん、麦茶じゃなくて一回シャワー浴びておいで。その間にこの人も考えまとまるでしょうし貴女も他に何を聞くべきか考えられるじゃない」


妹はえー、とか、でも、とかブツブツ言っていたが姉の権限で風呂場へ強制的に移動させる。その間、両親が座るソファーの前に置かれているテーブルにおにぎりとボイルしたウインナーを置いた。ごめんね、こんなのしか出来なかった。それと殴られた彼をそのままにするのもあれだったので(警察呼ぶならなるべく妹の過剰防衛の後は隠した方がいいだろう)保冷剤をタオルで包んでイケメンの顔、具体的に言えば妹が殴った個所に当ててあげる。ひんやりとしたタオルが吃驚したのか身を一瞬震わせたが心地よくなったのかすぐに身を任せて来た。なんだ、顔がいいと可愛くも感じてしまうのか?妹が席を立ったおかげか緊張が解かれた母もお茶の用意をし始め、父はテレビに視線を移していた。おい、未成年の可愛い娘がイケメンと近い距離にいるのにいいのか父よ。


「すまない、私も混乱していて」

「まぁあの子も私や両親を守ろうと必死だったみたいだから。ごめんね口がちょっと乱暴で…」

「正直理解できない言葉もあったが、私を罵倒しているのは分かった」


そうですね、酷い罵倒でした。剣道部でそんなにもストレス溜めているのだろうか。


「すまないが質問をさせていただいてもよろしいか、お嬢さん?」

「おっ、お嬢さんって…まぁいいですけど。なんですか?」

「ここは、グラジュス帝国ではないのか?」

「…はい?」


聞いたことのない国名である。もしかしたら私が知らないだけで存在しているのかもしれないが、『帝国』なんてけったいなものが付いている国だ。絶対でかいに違いない。ロシア位あるんじゃないだろうか。どうしよう全然心当たりがない。地理は私専門外なんです。もっと言えば日本の都道府県もどこがどこにあるか把握できないし、この住んでいる地域ですら迷子になるほどの方向音痴だ。急いでポケットにしまっていたスマホを取り出す。地図アプリは便利だ。こんな私でも目的地に導いてくれるから。


「ここは日本です。というかグラジュス、帝国?ってどこにあるんですか?指差し…はできないと思うので近隣の国名教えてください」

「分かった。我が帝国の隣は―」


近くにあるという国の名前は全くもって聞いたことのない、というか地図アプリ大先生すら答えを導きだすことはできない。

まじかよ。もしかしてこのイケメン不審者が言っていること本当だったりする?まじでネット小説とかでよくある設定のやつ?国を救うために異世界から、ってまんま彼が言っていたことと同じじゃないか。


「一先ず私たちに害をさないで下さい。そしたらビニール紐は解きますので」

「ビ、ビニ?いや拘束を解いてくれるというのならグラジュス帝国の第一皇子として父上、皇帝陛下に誓ってお前達を害さないことを約束しよう。約束をした方がお互い都合がよいだろう」


第一皇子とか、上記の小説でよくある設定のやつじゃん、というか世界は違うけど国の偉い人の息子ビニールテープで縛り上げた挙句全力でパンチしてたよ我が妹!しかもお風呂上がったらもっと締め上げる気だ妹!

取り敢えず約束はして貰ったのでリビングのペン立てから鋏を取り、妹が固く縛り上げた挙句手では絶対に解けないように結ばれたビニール紐を遠慮なく切る。イケメンは自由になった手を天井に向かって思いっきり伸ばした。正座も解き今は胡坐をかいている状態だ。やっぱり正座には慣れていなかったのだろう。かわいそうに、不審者だけど。

これが本当に小説と同じような展開なら、何故我が家に来た。何故貴方が来た。普通は、逆ですよねまったく。


逆のパターンをもっと読みたい

以下読まなくても良い設定


四人家族の長女。高校生。今は夏休みだから引きこもり。比較的に常識人。胃が痛い。


四人家族の大黒柱。いい年。頑張って稼いでる。突然のことに弱いけど一時したら慣れる。


四人家族の専業主婦。井戸端会議を好む。突然のことに弱いので落ち着きを取り戻すためキッチンへ。


召喚された人

グラジュス帝国の第一皇子。今回一番可哀そうな人。自身の顔がいいのは分かっている。

グラジュス grazus リトアニア語で美しい


四人家族の次女。高校生。今回のMVP、そして戦犯。姉を、家族を守るよくできた妹だが方法に問題がある。殴れば解決できると思っている節がある。剣道部なので夏休み期間でも部活動へ。そのストレスを目の前のイケメンに全て投げた。


召喚自体失敗だし長女も次女も聖女ではない、ダブルで失敗

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