相談者<波乱を持ち込むもの>
「それでね、朱ちゃんとのデートが来週になりそうなんだよ。すっごいお洒落をしてくるって楽しみだなぁ」
「ああ、そうか……どんな格好で来るかわからんが引くなよ」
練習試合に無事勝利した結果デートが決まったらしく、翌日の月曜日の学校で、俺は延々と沖田からのろけ話をされていた。いや、嬉しいのはわかるんだが、この話もう五回目なんだけど。
そろそろジャンプを読みたいんだが……呪術の直哉君死にそうだよなぁ……などと思いながらも、俺は珍しくテンションの高い親友をぼーっと見ていた。
ちなみにスマホの方には朱から沖田ってどんな格好が好き? とか連絡が来ており、返信しないと五分ごとに「なんで返信しないんですの?」「紅お姉さまにエッチな目で見られたって言い付けますわよ」「ねえ……同年代の男性の知り合いはあなたしかいないんですの、助けてくださいませ」っていう連絡が来る。メンヘラかな?
というかこれってもう沖田が次のデートで告白すれば解決じゃない? とは思ってそれとなく聞いてみたのだが、「朱ちゃんと約束したからね。ちょっと本格的に剣道頑張るよ」とか言い出している。しかも朱と連絡ばかりしていると紅が嫉妬するんだよなぁ……どうしろっていうんだよ……
「すいません、如月先輩いますか?」
そんな事を考えていると、教室の扉からひょっこりと顔を出している女の子に名前を呼ばれた。一年生をしめす赤色のリボンをつけたゆるいパーマのかかった茶髪の少女である。
「あれ、五月雨ちゃんか。どうしたんだ? 中村は隣のクラスだが……」
「知ってますって、今日は如月先輩に用があるんですよ。その……ちょっと相談事があるんですが、ここではあれなんで、どこか人がいないところでお話をしたいんですが……」
そう言って不安そうに俺を見つめているのは中村五月雨ちゃんだ。中村の妹であり、中村の家に遊びに行った時にゲームとかを何度か一緒にしていることもあり、そこそこ仲が良いのだ。
でも、学校でこうして話すのは珍しい。一緒に遊びに行くにしても中村なり、妻田、安心院の誰かといるときに彼女も混ざるっていうパターンばかりだったからな……っていうことは深刻な話なのかもしれない。
「中村関係の事か? だったら安心院と妻田にも声をかけとくか?」
「いえ……その翔先輩の方です……ちょっと厄介な事になってるかもしれなくて……」
ちなみに五月雨ちゃんの言う翔先輩とは妻田の事である。妻田は中村と幼馴染であり、五月雨ちゃんとも子供のころからの付き合いなので下の名前で呼んでいるらしい。あいつさりげにラブコメ主人公の適性あるよな……
「ああ、妻田の方か……そういや最近大人しいな……沖田がラブコメやっている時も現れなかったし……」
彼女の言葉に俺は納得した。あいつの事だから沖田にも彼女ができそうになったら、意地でも妨害をしに来そうなものだが……
そう言えば妻田にもうまともな方法では彼女はできないのでなんかないか? と聞かれたのでサキュバスの召喚方法を調べて教えたのだがどうなったのだろうか? 紅と一緒にノリノリで呪文書を探したのを思い出す。古本屋を回るデートっていうのも楽しかったな。
「あんまり大事にしたくはないので、翔先輩はもちろんですが、兄や安心院先輩には内緒にしておいてください」
「ああ、別に構わないが……昼でもいいかな? 天文部の部室を開けとくから入ってきてくれ。飯でも食べながら話そう」
「ありがとうございます!!」
お辞儀をして去っていく五月雨ちゃんを見送っていると、なぜか背後からすさまじい殺気を感じて慌てて振り返る。
そこにはなぜか笑みを浮かべている紅がいた。
「ひぇっ」
「下の名前で呼ぶなんてずいぶんと親しい後輩がいるんですね、如月先輩。それにずいぶんと頼りにされているようで……本当におモテになりますね」
「いや、あの子は中村の妹でだな……」
紅は笑顔を浮かべているのに目が一切笑ってないんだが……ああ、でもよく考えたら彼女がいるのに異性と二人っきりはまずいか……でも他の人には話したくないって言ってたしなぁ……助けを求めて沖田を見るがあいつは寝たふりをしてやがる。さんざんのろけにつきあってやったのに!!
「まあまあ、さっちゃん、神矢も浮気するような度胸ないんだから安心しなさい」
「うう……えっちゃん、それはわかってますけど……でも、なんか女の子の知り合いが多くて……」
「神矢には釘を刺しとくからここは任せなさいな。そんな怖い顔をしていたらせっかくの可愛い顔が台無しよ。漫画をもってきたからそれでも読んで心を落ち着かせなさいな」
俺のピンチを救ってくれたのは恵理子だった。やはり持つべきものは理解のある幼馴染である。恵理子の一言で紅も少し冷静になったのか、彼女は席に戻っていった。
「恵理子助かった……いってぇ」
俺がお礼を言うとなぜか思いっきり足を踏まれたんだが……文句を言おうとすると思いっきり睨まれる。
「あんたね、うかつなことをしてるんじゃないわよ。あんたはいつも通り、誰かの相談に乗るだけかもしれないけど、自分の彼氏が知らない女の子と二人っきりなったら不安になるに決まってるでしょうが。さっちゃんを泣かせたら許さないんだからね」
「ああ、そうだよな……不安になるか……」
恵理子の言う通り、俺だって紅が知らない男と二人で仲良く話していたらもやもやするだろう。配慮が足りなかったな……
へこんでいると恵理子が俺に喝をいれるように背中を叩く。
「まあ、そういうのがあんたのいい所でもあるんだけどね……でも、覚えておきなさいな。あんた風に言うなら人は自分ともう一人くらいしか守れないってやつよ」
「ああそうだな……そして、魔女の騎士である俺は、世界とあいつのどちらかしか救えないとなったら、あいつを救うと決めている」
俺の言葉に恵理子は満足そうにうなづいた。俺の言葉は紅にも聞こえていたらしく、漫画本を読むふりをしながらこっちを見て顔を真っ赤にしていた。あ、目が合ったらあわてて視線を逸らされた。くっそ可愛いな。おい!!
「まあ、でも、今回はもうオッケーしたんだから中村シスターの話を聞いてあげなさいな。ちなみに。さっちゃんがあんたのために今日はお弁当を作ってきてたんだけど、私がもらっておいてあげるから感謝しなさい。あとで写真と感想は送ってあげるわね」
「え……まじか……」
そういうと恵理子は意地の悪い笑みを浮かべながら紅のカバンを指さす。ああ、でもこれは罰だろう……彼女の気持ちをちゃんと考えなかったのだから……今度のデートでなんかおごるのを決めると同時に、今後は迂闊に相談とかにのらないほうがいいかもなぁと思うのであった。