沖田君の恋5<不審者と眷属の恋歌 フェイズ5>
あの後変な恰好をした紅に連れられて彼女の部屋に来ていた。今日はお姉さんもいないらしく静かである。愛しい彼女と二人っきりなのに、全然いい雰囲気にはならないのは、目の前の彼女が少し思い詰めた顔をしているからだろう。でも、悩んでいるのなら力になってあげたいと思う。だって彼氏だしな。
「それで、どうしたんだ紅」
「その……沖田って女の子にモテるのよね?」
彼女は電気スタンガン《ハンマーオブトール》を置いて、ちょっと言いにくそうに口を開く。あの時背中に押し付けられたのってこれかよ。ちょっとこわすぎないだろうか?
とはいえ、沖田はまあ、モテる。ただ、あいつの場合は女癖が悪いというよりも、来るもの拒まず、去るもの追わずという感じである。良くも悪くも空気を読むため、基本的に相手の好意を受け取るのだ。ただ、ソシャゲの方が優先順位が高いため、付き合った後によく怒られたりフラれたりしているのである。まあ、そのため別れた女性からはかなり評判は悪い。
「その……最近朱が沖田と結構仲がいいみたいなんだけど、あの子、女子中学校に通っているから、男子に免疫がないのよ。沖田はその気が無くても、話が合うなとかったりとか、運命の人なのかなとか、勘違いして朱が好きになっても、片思いだったらつらいでしょう」
「紅は優しいな。でも……大丈夫だ。今回は沖田の方が本気だから」
俺は不安そうな顔をしている紅を安心させるように微笑んだ。今回の沖田はいつもとは違う。これまでの「あーなんか、告白されちゃった、悪いから付き合ってみるよ」みたいな軽いノリではなく、あいつが本気で好きだと言ったのだ。
それはあいつが大事にしているソシャゲをアンインストールしようとまでして恋を成就させようとしているのだ。あんな彼は付き合いが長いが初めてである。そして、初めて見せる本気の彼を俺は応援してあげたいと思うのだ。
「沖田はさ、朱ちゃんに本気だって見せるために全国大会に行くんだってさ。それだけ本気なんだよ」
「全国……つまり、悪魔召喚で言う、名もなき悪魔ではなく、ソロモン72柱を召喚する覚悟があるという事ね」
「ああ、あいつは本気だよ。可能ならばソロモン72柱の王たるバエルを目指しているのかもしれないな」
「そう……本気なのね……信じていいのよね……」
彼女の言葉に俺はうなづいた。自信はないと言っていたが、多分あいつは可能ならば優勝するつもりだろう。それだけの熱量で練習をしているのである。そして、結果を出すことによって紅も沖田を信用してくれるようになるはずだ。
それはさておき、ふと、先ほどの会話で気になったことを聞いてみる事にする。
「そういえば、男子に免疫にないとかの時にやたら実感がこもった言い方だったが、紅も女子中女子高だよな。周りもそういう子が多かったのか? たまたま話してた相手が運命の人だって思う人とか……」
「うるさいわね、偶然河原で出会って!! しかも、趣味が一緒なのよ。運命だと思っちゃうでしょ!! 悪い!?」
顔を真赤にして反論をする紅を見て思う。ああ、そうか、これは彼女の実体験だったのか……そして運命の人っていうのはきっと俺だよな。俺は目の前の彼女が愛おしくなって手を握る。すると彼女の方も握り返してくる。
「紅は本当に可愛いな……」
「あんたも……その……カッコいいわよ……」
俺の言葉に彼女は顔をうつむいて返事をする。口元をみるとにやけているのがわかる。そして、俺達の距離が徐々に縮まってきて……
「ただいまー!! あれあれー? 見慣れない靴がある。彼氏君もいるのかなー? よかったら晩御飯たべてきなよー」
絶妙なタイミングでお姉さんが帰ってきてしまった。あの人まじで能力者かなんかなのだろうか? 毎回無茶苦茶いいタイミングで邪魔をしてくるんだが……まあ、こうなってはお預けだろう。俺と紅は少し残念そうな顔をして、お姉さんのとこへと行くのであった。
沖田回のはずがなぜか主人公のイチャイチャになってしまった……