沖田君の恋<不審者と眷属の恋歌>
俺は対戦相手に礼をして、面を取って休憩をしていた沖田に声をかける。
「よっ、文化祭は残念だったな、強化合宿とかぶってたんだろ? それにしてもいつもは断っていたのに珍しいな」
「ああ、神矢か? もしかしてラインをもらってたのかな? まだ、スマホがカバンの中なんだよね。最近ちょっと気合を入れててさ」
そう言って彼はさわやかな顔をして竹刀を指さした。沖田がここまで剣道に真剣になるのは珍しい。そもそも彼は才能があるけど適当にしかやらないというタイプの人間だったはずだ。なんかラノベの主人公みたいでかっこいいなと思っていたのだがいったいどうしたのだろう?
「一体何があったんだFGOも全然ログインしてないじゃん」
「うう……FGO……水着キアラ……水着アビゲイル……虞美人……欲しい……でも、ソシャゲやってる時間も練習しないとぉぉぉぉ」
こいついきなり壁に頭をぶつけ始めたんだけど大丈夫? いや、大丈夫じゃないな……それにしてもこいつに何があったんだろう? もしかしてどっかの病院とかで、病弱な子に剣道で優勝するとか約束しちゃったんだろうか?
しばらく頭をぶつけていた沖田だったが、ようやく落ち着いたのか、こちらを向いて言った。
「ふー、僕は正気に戻った。色々あってね、具体的に言うと全国に行ったら朱ちゃんがデートをしてくれるんだよね。だから、僕もがんばろうかなって」
「結局女かよ!? ちょっと見直して損したわ。でも、沖田は沖田でよかったよ」
「僕がそれ以外で頑張るはずないじゃないか。もう着替えるからちょっと待っててよ」
そう言って、更衣室に入っていったので俺は外で待つことにした。さすが女とソシャゲのためにしかがんばらない男沖田である。でも、朱の事本気だったのか? 少し意外だなぁと思いつつも通知が来たので、スマホを覗いた。
紅:えっちゃんから、まだ、学校にいるって聞いたんだけど、私もいるから一緒に帰らない?
うおおお、紅から帰宅デートのお誘いだぁ!! でも、沖田に声をかけてしまったしな……それに沖田に紅の事も相談したいし。俺は泣く泣く断ることにした。
俺:ごめん、ちょっと沖田と色々話すことあるからまた今度一緒に帰ろう。
紅:ふーん、私より沖田を取るんだ。でも、神矢x沖田……いえ、沖田x神矢ありね!!
ありね!! じゃねーよ。なんでか紅の腐女子かが進んでるんだけど。一瞬嫉妬している姿可愛いなぁって思ったけど、そのあとのインパクトが強すぎるわ!! まあ、いいや、俺は朱の事をちょっと聞いてみよう。
俺:そういえば朱から沖田の事って聞いている?
紅:え? あのロリコン、本気で中学生に手を出そうとしているの?
おっとこれは紅も知らなかったようだ。迂闊につっこむとなんか面倒なことになりそうなので俺は適当に誤魔化す。
「やあ、待たせたね。それで相談って言うのはなんだい?」
「ああ、そろそろ紅とも一歩踏み出したいなって思って……おまえそういうの詳しいだろ?」
俺の言葉に彼は一瞬目を見開いてから笑った。にやにやと笑う。
「もちろん、神矢もついに大人の道を行くんだね? いやあ、天体観測で告白してから進展なさそうだから心配してたんだけどよかった。じゃあ、僕も一個相談していいかな? 厨二病な女の子と仲良くなるにはどうすればいいんだろう?」
そういってはにかんだ笑みを浮かべる彼の目はいつになく真剣だった。
というわけで沖田君と朱の物語です。
この二人の話はずっと考えていたんですが、ようやくって感じですね。