57.作戦決行3<オペレーションラグナロク3>
「ほら、似合っているわよ」
そういって差し出された鏡に映っているのは銀色の長い髪に恵理子の制服を着た少女だった。前髪も長いため顔もいまいち見えない。てか、少女だったじゃねーよ。俺だよ。彼女が差し出した袋に入っていたかつらをかぶらされたのである。まあ、遠目には女子に見えるかもしれない。てか、女子の制服を着ているって背徳感がやばいんだけど。あとさ、恵理子の匂いしてちょっと興奮する。あ、これは浮気じゃないけどな。
「今度あんたの家に行くから制服はその時に返しなさい。せっかくだから沖田に彼女との距離の詰め方でも聞いてみたらどうかしら? あいつそういうの詳しいし、ちょうど部活が終わる時間でしょう?」
「あー、そうだな。最近あいつ部活が忙しそうなんだよな……せっかくだから見てくるわ」
最近沖田は部活が忙しいらしいらしく、絡めていなかったのでちょうどいいなと思いつつ、俺は更衣室の扉に手をかけ、振り向いて言った。
「恵理子。いつも助けてくれてありがとうな」
「ええ、だって私はあなたの幼馴染だもの。感謝しなさい。さっちゃんを泣かせたら許さないからね」
「当たり前だ。俺とあいつは契約も済ませているからな。その点は安心してくれ」
「そう……幼馴染なのよね……ただの……」
俺は恵理子にお礼を言ってロッカー室を出るのであった。最後に彼女が何か言っていたが、小声だったのでよく聞こえなかった。
ロッカー室を出て俺は駆け足で、安心院たちの元へと向かう。沖田には相談事があるとラインは送っておいたが、返信はない。いまだに部活をしているのだろう。
前から制服姿の女性がこちらへと向かってくるのが見えた。てか紅じゃん。変装しておいてよかった。女子更衣室から出てきたところがばれたらなんて言われるかわからない。彼女は驚いたように俺を見つめている。正体がばれたのだろうか?
「その禁忌の子の証である銀髪……あなたも選ばれたものなのかしら?」
紅は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべながら話しかけてきた。擬態ばれているよ? 多分校内で銀髪なんて言う厨二な恰好をしている少女をみて、同士をみつけたのだと嬉しくなってしまったのだろう。ごめん、俺です……
「私は……天魔に選ばれしもの……そういう……あなたは?」
「天魔ね……」
俺の裏声に彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、言葉をかみしめるように復唱してニヤリとわらった。
「へぇ……天魔ね、仏教用語の魔王じゃない。中々いいわね。私の名前は黄泉坂紅よ、あの世の黄泉に坂、名前はベニバナの紅よ。人は私を黄泉の魔女と呼ぶわ。興味があったら昼休みに、天文部の部室に来なさい。もう一人の騎士と一緒にあなたを出迎えるわ」
「わかった……ありがとう……気が向いたら行く……」
紅の言葉に俺は答える。でもさ、天文部の部室って別にそういうところじゃないんだけど……多分今の俺を同士だと勘違いしてるんだろうけど、個人的にはあそこは、俺と紅が二人っきりになれるところだから、あんまり、人を呼ばないでほしいんだけどなぁ……
「あ、でもね、もう一人は私の騎士だから惚れたりしないでね。ちょっと変わっているけど結構かっこいいやつなんだけど、もう私のものだから……」
そういうと紅はリンゴのように顔を真っ赤にして言った。はぁ? なんだこれかわいすぎるんだけど。でもさ、これって俺の正体ばれたら呪い殺される気がするんだけど。俺は正体をばれないように手をふって駆け足で去っていった。でもさ、なんか無茶苦茶嬉しいよな。
「すいません、沖田はいますか?」
安心院に鍵を返した俺はかつらを取って着替えて、剣道場の門を開いた。汗の匂いだろうか? むわっと少し匂う。そういえばここに来るのははじめてだなぁと思いながら俺は返事を待たずに入る。普段はダメなんだろうが、この時間は部活動の活動時間外だからな。
「めぇーーーん」
気合の入った叫び声と共にすさまじい音が鳴り響く。二人の剣道着を来た少年が竹刀で斬り合っていったが、やがて、片方の少年の一撃が決まった。
「全国行くぞぉぉぉぉ!!」
そう絶叫しながら面を脱いでいるのは沖田だった。ちょっと待ってどうしたの? あいつ才能はあるけど努力はあんまりしないキャラだったのに……なんか熱血漫画の主人公みたいになってるんだけど……
恵理子に関してはもう、神矢と紅の関係を完全に応援している感じです。
どろどろにはならないのでご安心を。
次らへんから沖田の話になります。性格が変わっていますが、久々登場で作者がキャラを忘れたわけではありません。