48.ホワイトデー1 <リア充達の戯れ 1>
うーん、どれにしようか悩む。目の前のカフェのホワイトデーコーナーと書かれたブースに並べられた焼き菓子を睨みつけるようにみながら俺は唸り声をあげた。クッキーやスコーンなど美味しそうなものが並んでいる。紅へのホワイトデーのプレゼントを選んでいるんだが、どれも決定打にかける気がする。
初の彼女へのプレゼントなのだ。普通でいいだろうか? いやよくはないだろう。やはり特別な……そう世界に一つだけのもののほうがいいだろう。そうだ、彼女のために杖を作ろう。お菓子などよりもそちらの方がいいに違いない。木の枝の先に髑髏を付けたものなんて黄泉の魔女にふさわしいのではないだろうか? 俺が帰ろうとすると声をかけられた。
「あれ、如月だー、文化祭ぶりだね」
「ん? ああ、一条か、久しぶりだな。文化祭は来てくれてありがとう。バイトをしているって聞いたがここだったのか」
振り向くと店の制服であろう執事のような恰好をした少年が、何にも考えていなさそうな笑みを浮かべなはら立っていた。彼の名前は一条刹那、俺の中学の頃の友人である。といっても高校になってからは時々連絡をとる程度の仲である。以前ほかの友人から下級生を紹介してくれと言われた時に同行していたので再度かかわるようになったのだ。
俺がつけたあだ名は『トリックスター』だ。この男は何をしでかすかわからないのだ。安心院があえて空気を読まないのならば、この男はそもそも空気が読めない。基本的にはいいやつなのだが、ポジティブすぎてやんわり否定しても一切気にしないし、普通の人が躊躇するようなところも、普通にアクセル全開で突っ込む。しかも善意で行動するから厄介である。敵に回しても面倒だが仲間にするともっと面倒になる、そんな不思議な男だ。まあ、嫌いではないんだが。
「あー、この前の彼女にホワイトデーのプレゼント何渡そうか悩んでいる感じかな? だったらうちで手作りお菓子の教室やるんだけどどうかな? 双葉ちゃーん、チラシ持ってきて」
「はーい、料理教室の応募ですか? やったー、結構盛況ですね……って如月先輩?」
お店の奥からやってきたのは茶髪にショートカットの女の子だった。同い年か少し年下だろうか? というか一条に敬語を使っているということは一年下なのだろうか。彼女はなぜか俺をみると顔をひきつらせた。あれ、知り合いではないはずなんだが……もしかして前世で会っていたのだろうか? そうだったらテンション上がるな!!
「あれ、二人は知り合いなの?」
「いや、初対面のはずだが……もしかして前世の記憶が?」
「うわぁ……噂通りの人だったぁぁぁぁ!! 如月先輩とは初対面ですが同じ学校なんですよ、その……色々有名なんで私が一方的に知っているだけです。一条先輩たちは知り合いなんですね……」
「うん、中学の頃の友人なんだよね」
「類は友を呼ぶといいますしね……例えるならば動物のドキュメンタリーで珍獣同士の交流を偶然見た気分です」
ああ、そういう事か、どうやら俺は自分の思った以上に有名らしい。後輩にまで黒竜の騎士としての俺が知られているのは、恥ずかしいような嬉しいような微妙な感じである。いや、嬉しいな。だって有名人だもんな。
「初めまして、如月神矢だ。料理教室について詳しく聞きたいんだが……」
「私は五ノ神双葉です。詳しくはこのチラシに書いてあるんですが……」
「如月……あれはやんないの? なんか物足りないんだけど」
「ああ、あれか……」
女の子の言葉を一条が中断して聞いてきた。俺は周囲を見回して考える。平日の放課後ということもあって人はまばらである。それにリクエストをされて乗らないとは黒竜の騎士としてどうだろう? らしくないよな。
「俺の名前は如月神矢だ。神すら射抜く矢と書いて神矢だ。俺の体には黒竜が封印されていてね……黒竜の騎士と呼ばれていたが、今は黄泉の魔女の騎士をやっている。人は俺を魔女の騎士と呼ぶ。よろしく頼む」
「そして俺はトリックスター、一条刹那!! すべての秩序を破り、物語を紡ぐもの!! どう、これ昔如月が考えてくれたんだけど、かっこよくない?」
俺たちがポーズを決めて名乗りを上げると頭を抱えながら少女は悲鳴を上げた。
「営業妨害ぃぃぃぃぃ! なんですか、黒竜の騎士って? 何ですか、トリックスターって? あなたたち私より年上ですよね。例えるならば公園で子供に混じって本気でヒーローごっこをしている大人を見た気分です」
「いや、君のその口癖も結構痛いと思うぞ」
「お、経験者は語るだね、如月も一時期語尾に『と黒竜の騎士たる俺は断言する』っていってたもんね、双葉ちゃんよかったね、仲間ができたよ」
「ちょっと待ってください!! 私はこの人と同列何ですかぁぁぁ? 例えるならば戦隊ヒーローの色物枠と同じって言われたピンクの気分です!!」
ひどい言われようである。でも料理教室か……ちょっと面白いかもしれない。紅がバレンタインに作ってくれたお菓子は美味しかってけれどそ、れ以上に俺のためにつくってくれたという事実が嬉しかったのだ。ならば俺が作っても喜んでもらえるのではないだろうか?
「一条料理教室応募するよ」
「オッケー、よろしくね」
「え……この人本当に来るんですか?」
なんかこの子俺へのあたり強くないか? ちょっと疑問に思ったが俺は料理教室に通うことになったのだった。
ホワイトデー編です。今週もう一話投稿する予定です。
なんかやたら個性あるキャラ出てますが私のもう一つの『口は悪いが巨乳で美人な幼馴染に「別にあんたのことなんて好きじゃないんだからね!!」って言われたから「俺もだよ」って答えたらヤンデレになってしまった』の主人公とサブヒロインです。
https://ncode.syosetu.com/n0195fz/
番外編だし、せっかくだしという事で出してみました。興味があったらよんでくださると嬉しいです。読んでない方には申し訳ないのでホワイトデー編には刹那はもう出ない予定です。
おもしろいなって思ったら感想やブクマ、評価いただけると嬉しいです。




