47.バレンタインデー4<騎士と魔女の祝祭 フェイズ4>
紅の家の前に来た俺はチャイムを鳴らす。紅のお姉さんは合コンらしく、今日はいないらしい。あれ待って……ということは正真正銘二人っきりってことかよ。もちろんこれまでにも彼女の部屋に言ったことはあった。でもなんだかんだお姉さんの邪魔が入ってたし。それに付き合う前の話だ。これってもしかして……
俺が色々考えていると扉が開かれる。ちょっと待って、まだ心の準備ができてないんだけど!?
「何を変な顔してるのよ、さっさと入ってきなさい」
「ああ、そうだな……」
いつもの紅だ。特に機嫌が悪いというわけでもなく、緊張しているというわけでもなさそうだ。俺が意識しすぎたのだろうか? 俺は彼女について行き部屋へと入る。
「うおおおおお、すっげえええ!!」
「なずけて『黒竜の騎士と魔女』よ、結構大変だったんだからね。下のケーキ部分はちょっと苦いから上のチョコと一緒に食べなさい」
机の上にはチョコケーキの上にチョコで作られた竜の頭に乗った男性と、魔女らしき女性が立っている。クオリティすごっ!! チョコの甘い匂いが空腹を誘うが、これをこわすのには少し抵抗がある。本当に器用だよな、こいつ。などと感心していると俺の背中に暖かい体温とささやかな柔らかい感触、そしてチョコとは違う甘い匂いがした。
「紅……?」
「何よ? 文句ある? どっかの馬鹿が不安にさせたんだから少しくらい甘やかしなさい」
「文句なんてないです……」
やばいやばい、素数を数えろ。いや、待てよ。これはもしかして誘われているのか? だって家には誰もいないって言ってたし、紅はくっついてくるし、紅は可愛いし、それにチョコには媚薬としての効果があるというのも聞いたことがある。え、マジかよ。俺もついに気合を入れる日がきたようだ。俺は深呼吸をして紅を抱きしめようとして……
「紅、あのさ……」
「ふー、魔力供給終了ね、何変な顔しているのよ? 早くチョコを食べましょう。よかった……他の女の匂いはついてないわね……」
そういうと紅はさっと俺から離れて、テーブルの向かいの席へと座った。え、ちょっと待って。さっきまでの甘い空気はなんだったの? 俺が動揺しながら紅をみるとにやにやと意地の悪い笑みを浮かべた後に、舌をだしてきやがった。どうやらからかわれたらしい。
「お前な……」
「あらあら、魔女の騎士ともあろうものがどうしたのかしらね……その程度で動揺するなんて、まだまだ修行が足りないんじゃないかしら。それとも私の魅力がありすぎるのが悪いのかしらね」
「うっせー、ポンコツの癖に!! 一瞬期待させやがって!!」
「誰がポンコツよ、私はクールな美少女って言ってるでしょう!! そんなことより、ちゃんと告白は断ったんでしょうね、あいまいな返事をしてたら呪うわよ」
紅の言葉に俺は気づく。ああ、そうか。こいつは妻田のいたずらだって知らないんだ。俺は意地の悪い笑みを浮かべる。さっきの仕返しをしてやろう。
「ああ、すごい美人な子だったよ。まるで聖女のように優しい笑みの美少女だったな。あんな可愛らしい子がいたなんて……」
「何をにやにやしているのよ、ちゃんと断ったんでしょうね……」
もちろん妄想であり、俺が浮かべているのはジャンヌダルクである。俺があいまいな笑みを浮かべると紅は急に頬を膨らませて睨んでくる。そろそろネタ晴らしをしてやるか。
「私は信じてまってたのに……神矢のバカ……」
俺が口を開こうとすると紅がすごい悲しそうな顔をしてボソッとつぶやいた。やっべえ、やりすぎたか?
紅の顔をみて猛烈な罪悪感を感じた俺は土下座をする勢いで謝る。これが罪の代償か……
「え、ちょっと紅さん? 冗談だって。あれは妻田のいたずらだったんだよ。聖女のような美少女何ていなかったんだ。赤坂さんに聞いてみればわかるから。俺はお前一筋だから!! 調子に乗りすぎた。この通りだから許してくれ」
慌てて謝る俺は紅が冷たい目で見下すようにみつめる。そしてぼそっとつぶやいた。
「ふーん、私を騙したの……ただじゃ許さないわ、魔女を騙した罪は重いのよ。そうね、罰として私にそれを食べさせなさい」
「え?」
そう言って彼女は俺にスプーンを渡して自分の口を開けた。これは、あーんしてくれってことなのか? なんというかめんどくさいけど可愛い甘え方である。やばい、なんかすっごいにやにやしてしまった。
「顎がいたくなるでしょ、さっさとしなさい」
「おー、任せろ!! 騎士としてエスコートをさせてもらう」
俺がケーキにスプーンを突き刺して、彼女にわたすと満面の笑みで食べてくれた。何度も繰り返しているとスプーンを奪われる。
「私も意地悪しちゃったから私も罰が必要よね、というわけで私にもやらせなさい」
「え、すっごい恥ずかしいんだけど……」
「さっきまでの私が恥ずかしい女っていいたいの? いいから早く口を開けなさい」
俺がもじもじしていると強引に紅が顔を赤くしながら睨んできた。俺は覚悟を決めて口を開ける。口内に甘い味が広がる。ってか、くっそ恥ずかしいな、これ。誰かに見られたら死んでしまいそうだ。
そうして俺たちは交互に食べさせあったのだ。多分チョコは美味しかったのだろうが、どきどきしすぎて味なんてわからなかった。
家に帰宅した俺は紅からもらったお土産の袋を開ける。お酒入りのチョコだから今日中に開けてと言われたのだが、さっきので結構お腹いっぱいなんだよな……でも、せっかく紅が作ってくれたのだ。食べるのが騎士の礼儀だろう。
袋を開けるとおどろおどろしくラッピングされた箱と、蝙蝠のシールの貼ってある便せんがあった。なんだろうと思って開けると中には手紙が入っていた。俺は酒入りのチョコを食べながら手紙を読む。
『大好きな黒竜の騎士へ
なにがおきようともあなたを信じています。あなたと再会したこの半年はとても幸せで楽しかったです。一緒に見た星空や、一緒に過ごした文化祭を忘れる事は一生ないでしょう。あなたと再会できて本当に嬉しかった。また来年も一緒に過ごせることを願っています。
あなたの魔女より
ps.この手紙は読んだ後に捨てなさい、さもなければ魔女の呪いがあなたに降りかかるでしょう』
うおおおおおお!! なんだこのサプライズ!! 一生保存しとこ。俺はとりあえず、手紙をスマホで撮影して沖田に自慢とばかりにラインをする。お酒入りのチョコを食べたせいか、手紙の破壊力のせいか俺の理性は崩壊した。アークナイツかな?
そしてハイテンションのまま、一度脱いだコートを再びして自転車に乗った。この胸に湧いてきた想いを今伝えないで、いつ伝えるというのだ。今しかないだろう。そして紅の家の前についた俺は深呼吸をして愛を叫んだ。
「紅ぃぃぃぃ、俺も大好きだーーーーー!!!!」
そうして顔を真っ赤にした紅が家から出てきてぶん殴られるまで俺は愛を叫び続けた。これが俺と紅のはじめてのバレンタインデーである、また来年も同様に過ごせたらいいなぁと思う。
これでバレンタインデーは終わります。次はホワイトデーとなります。よろしくです。ようやくリアルに時間が追いついた!!
またちょっと宣伝になるのですが今日のお昼に新作を投稿させていただきました。
『学校で『悪役令嬢』と呼ばれる美少女のコスプレ姿を目撃したら道ずれに俺もコスプレをすることになったんだが……』 という小説です。
すでに三万字一章分は書き溜めているので毎日投稿する予定です。私は小説を書く以外に趣味でコスプレをやっているのですが、その経験を踏まえて書いたもので、読んでいただけると嬉しいです。
ヒロインはこの作品の紅とと、もう一つの私の作品の『ヤンデレ』の委員長を足して二で割ったような性格となります。まあ、毒舌系クール女子ですね。
孤高の毒舌『悪役令嬢』と二次元しか愛せない少年の物語となっております。もしよかったらそちらも読んでくださると嬉しいです。
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